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海外化学者インタビュー

第163回―「微小液滴の化学から細胞系の仕組みを理解する」Wilhelm Huck教授

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第163回の海外化学者インタビューは、ウィルヘルム・ハック教授です。オランダのラドバウド大学ナイメーヘン校 分子・材料研究所に所属し、人工細胞として使用できるピコリットル液滴を用いて、生細胞でよく見られる混雑環境が「生命の化学」に及ぼす影響を研究しています。それではインタビューをどうぞ。

Q. あなたが化学者になった理由は?

化学が人体の仕組みを分子レベルで説明してくれることに魅了されました。私はまた、オランダ最大級の化学工場(DSM)の隣で育ったのですが、分子というものが私たちを取り巻く人工世界にも適用できることを理解したからです。

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

いっそのこと、銀行員になってみるのも面白いかもしれません。それほど難しくはありませんし、もし優秀な人材になれば、助成金の申請書を書かずとも化学の世界に戻れるでしょうし。

Q. 現在取り組んでいることは何ですか?そしてそれをどう展開させたいですか?

ラドバウド大学ナイメーヘン校の新しい研究室で、革新的テーマに取り組み始めたところです。細胞が化学反応器としてどのように機能しているかを、我々はまだ根本的レベルで理解できていません。「部品リスト」は揃っていて、どこに何があるかは分かっているかもしれませんが、細胞内部の混雑した確率的環境で、関連し合う化学反応がどのように振る舞うかについてはあまり分かっていません。生細胞を使うことは非常に有益ですが、細胞を希釈したり加熱したりはできないため、動力学的・熱力学的データを抽出することができません。そこで私は、マイクロ流体デバイス内のピコリットル液滴を、DNAからRNA、タンパク質への転写・翻訳に必要な機械を搭載した人工細胞として使用し、細胞の化学プロセスを有機物理化学の手法で追跡したいと考えています。

Q.あなたがもし、歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

フレッド・サンガーです。困難なプロジェクトに取り組むための戦略を、彼がどのようにして考えたかを知りたいです。多くの場合、彼の化学は非常にシンプルながら、驚くほどうまく機能しています。彼は史上最高の天賦の才を持つ化学者に違いありません。

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

一般論として、誰かに手伝ってもらわないといけないのですが・・・現在、液滴中の単一細胞を選別する新しい装置を作っており、レーザーの位置合わせを時々手伝っています。

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

本について:難しい質問です。長い間、置き去りにされると仮定して、その1冊の本を何度も何度も読みたいと思うでしょうか?もしそうなら、「細胞の分子生物学」をついに読む時間が取れるかもしれません。手に汗握る内容ですよ!

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音楽について:音楽を聴いていると集中できないので、潮騒のBGMがあれば十分です。

Q.「Reactions」でインタビューしてほしい化学者と、その理由を教えてください。

Bartosz Grzybowskiです。彼は実に巧妙な化学を研究しています。しかし最も重要な点は、彼がどんな歴史上の人物と食事をしたがっているかについて、私が読んでみたいということです。

 

原文:Reactions – Wilhelm Huck

※このインタビューは2011年7月7日に公開されました。

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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