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桝太一が聞く 科学の伝え方

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桝 太一が聞く 科学の伝え方

桝 太一が聞く 科学の伝え方

桝 太一
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概要

サイエンスコミュニケーションとは何か?

どんな解決すべき課題があるのか?

桝先生と一緒にインタビュアーになったつもりで、答えを探してみませんか?

桝太一先生が、皆さんと一緒にサイエンスコミュニケーションを考えるよみもの。

月刊誌「現代化学」での連載7回分をまとめた「第1弾」です。

※今後も「現代化学」では、性別・年令・立場の異なる多様な方々と桝先生との対談が続く予定です。(内容説明より)

対象者

  • サイエンスコミュニケーションに興味がある方
  • 桝太一さんのファンで、最近の取り組みに興味のある方
  • 特に化学を分かりやすく伝える意識の持ち方や方法を知ってみたい方

目次

聞き手:桝 太一

1.「科学を伝える」とはどういうことか 山中伸弥

2.科学を文化に 大隅良典

3.博物館が魅せる科学,伝える科学 篠田謙一・小川義和

4.科学者の姿と社会 藤田 誠

5.「役に立たない研究」社会にどう伝える? 山本 尚

6.科学をいかに伝えるか 佐藤健太郎

7.サイエンスコミュニケーションの今 石浦章一

あとがきに代えて 桝 太一

解説

桝太一さんは東京大学大学院で行ったアサリの研究で修士号を取得後、日本テレビのアナウンサーとして活躍されました。もともと生物畑で過ごされた理系バックグラウンドあり、報道番組「バンキシャ!」担当時代から、科学を分かりやすく伝える力量には定評がありました。

そんな桝さんは先日、テレビ局を退社し、同志社大学でサイエンス・コミュニケーションの研究を本格的に始めることとなり、界隈では話題となりました。

アナウンサー時代より取り組み始めていたことの一つが、『現代化学』誌上での、著名な化学者へのインタビュー連載。桝さん自身が、サイエンスコミュニケーションとは何なのかを知りたい、いろいろな方の話を聞く中で自ら学び考えて行く過程を共有したいという想いから、企画コンセプトが出来上がっています。

本書は著名な科学者(主に化学者)8人へ、「サイエンスコミュニケーションの今」について行なったインタビューをまとめた内容になります。それぞれの方が独自の視点から含蓄ある意見を述べており、いろいろな見方ができるものだなと感銘を受けました。

その中でも筆者個人は、国立科学博物館(科博)館長・篠田謙一先生の下記コメントに特に感じいるものがありました。この指摘は、科学のみならず、異分野間のディスコミュニケーションの本質を表しているように思われたからです。

「占いは信じるものだが、科学は証拠に基づいて推測し、納得するもの」

「最初から結論ありきで話が進むと、納得して貰えないことも多くある」

「”分かりやすく伝えられること”の外側に”分からないこと”が沢山あるが、多くはそこを伝えられていない」

人間は「見たいようにしか世界を見ない」という、そもそもの思考のクセを強くもっています。いわゆる「バカの壁」現象です。それを理解しつつも、バックグラウンドが異なる他者に対する寛容さをもつことが、コミュニケーションを成立させていく大前提となります。

しかしながらそのようなマインドセットを真の意味で持ち得る人は、実のところどれだけいるのだろう?・・・とも思わされる一件がありました。既にご存じの方もおられるでしょうが、本書の対談ラインナップについて、男性のみになるのが問題だ、若手をもっと取り上げるべきだとする批判が、SNS上で巻き起こったのです。

本書で選ばれる対談相手は、目を引くこと・広く届けることを念頭に置いてか、知名度の高いノーベル賞科学者・市井への発信力がもともと高い方が多いです。この基準に加え、そもそも化学領域に女性が少ない事情も手伝っています。女性や若者がマイノリティたる現実は一朝一夕で改善するはずもないですし、近年は各所でテコ入れの流れが強まっているわけで、長い目で見ていくべきでは・・・というのが正直な感想ではあります。

この顛末そのものにも「バカの壁」現象に通じる要素を少なからず感じますが、それに加えて指摘したいのが、書籍メディアを使うことの現代的難しさが浮き彫りになった事例では?という観点です。

書籍メディアは知の普及性と正確性を担保するべく、長文を発信するために存在していると捉えられています。しかしながら大多数の受け手は、長文メディアの利点をしっかり咀嚼し、享受していくために必要なゆとりが持てない土壌に、既に置かれてしまっているのかも知れません。

本書の内容そのものは、サイエンスコミュニケーションという観点で糾弾されるべきいわれがほぼないことも、中身をよく読めば分かります。しかし現実として、時間的にも金銭的にも余裕がなく、その日暮らしで精一杯な方が増えているのであれば、目次・表紙などの表面だけを眺めて正義感を煽られ、批判すべきとするマジョリティに身を置く形で自らを肯定したくなる・・・となっても無理からぬことかもしれません。そのような現実を俯瞰するに、科学を正しく真摯に伝えていくことは、昔以上に難しくなっているのではないか?とも感じてしまいました。

 

一方では希望が持てる指摘もあり、同じく篠田先生の下記コメントを取り上げておきたく思います。

「科博としてはコロナ禍で苦し紛れながら、YouTubeVRでも科学の魅力を広めて行くことを始めたところがあるが、実は人気があるのは圧倒的にVRのほう。YouTubeは何かを教えてあげますというスタンスだが、VRのほうは自分で動いて好きなものを探せる。博物館に求められていたのは、自分で探して自分で何かを得るという体験だったのかも知れない」

新たな技術は新たな伝え方を拓くという事実は、かのGeorge Whitesidesも指摘しているのですが、従来通りの対面・長文主体では不可能な伝え方を実現します。さまざまな技術革新は、サイエンスコミュニケーションの発展を確実に後押しします。従来のやり方に囚われず、それぞれがそれぞれのやり方・ツールを使って科学の魅力を伝えて行く、その営みを引きずり落とすのではなく、温かく寛容な心で見守っていく姿勢こそが、真に我が国のコミュニケーションを育てていくのだと思えて止みません。

サイエンスコミュニケーションは、そもそも日常感に乏しい「科学」を市井に伝えて行く営みでもあり、上記のような現実に真っ向からチャレンジしなくてはならない難しさを内包します。その性質上、発信側の努力だけでは足りず、受信側の理解も必要になります。さらに我が国では、高度かつ長期的な取り組みを行なえる人材が恒常的に不足しています。

桝さんは伝える力が既に高く、周囲の期待値・注目度としても大きなものがあるからこそ、こういう議論が噴出したという背景事情はあると思います。ただ桝さんの専門的活動は始まったばかりですし、一人の力ではできることも限られています。持続的な取り組みもこれから大事になるでしょう。

この連続インタビュー企画とその内容そのものは大変素晴らしい、と筆者は評価しています。化学を愛する皆さんで、しっかり支えていこうではありませんか。1冊で終わりでは無く、2巻・3巻と続く予定とのことで、続編も大いに期待しましょう。

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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