[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

顕微鏡で有機分子の形が見えた!

(画像は論文より転載)

The Chemical Structure of a Molecule Resolved by Atomic Force Microscopy.
L. Gross et al. Science 2009, 325, 5944. DOI: 10.1126/science.1176210

そこら中にある分子の形が、人間の目で直接見えるようになったら――化学者が長年抱いていたこの夢が、徐々に現実のものとなりつつあります。

このほどIBMの研究者によって、ベンゼン環が5つつながった分子・ペンタセン(pentacene)の顕微鏡像が撮影されました。上図のごとく、化学結合まで鮮明に観測され、分子の形が分子模型を見るかのごとくはっきり分かります。


彼らは非接触型原子間力顕微鏡(Non-contact Atomic Force Microscopy; NC-AFM)という分析機器を用い、この画像の撮影に成功しました。

AFMの原理自体は、それほど難しいものではありません。
試料表面を探針(tip)でなぞると、試料との間に原子間力(引力)が生じます。その力の大きさをカンチレバー(Cantilever)の”たわみ”とし
て検出します。たわみ具合はレーザー光の反射角から精密に見積もることができます。このようにして、試料表面の凹凸を画像化しているのです(下図)。
同様
の測定ができる走査型電子顕微鏡(SEM)、走査型トンネル顕微鏡(STM)と比較して、導電性のない材料にも適用可能な利点を持ちます。通常、導電性に乏しい有機化合物を観測するためには、重要な特性といえます。

AFM_1.gif
(画像:Aglient.com)

NC-AFMでは、探針を上下振動させて走査し、探針-試料間距離に応じて変化する振動パラメータ(振幅、振動数、位相など)の変化を検出します。分解能などさまざまな点で接触型よりも優れており、既に原子レベルの分解能を誇ります。

しかし冒頭画像のごとく化学結合までをも可視化するには、それ以上、すなわちサブアトミックスケールにまで分解能を上げねばなりません。

IBMグループは、一酸化炭素(CO)を先端に結合させた探針を使うことで、この問題を解決しました。
AFMの分解能は、探針の先端径に大きく依存することが知られています。その点、COは究極に細い「分子サイズの探針」とみなすことができます。さらに、被占分子軌道(化学結合)が存在する場所においては、CO分子との間にパウリの排他原理に基づく斥力が働きます。これを検出することで、化学結合までをも可視化できるようになった、というわけです。

AFM_pentacene_2.jpg

これほどまでに鮮明なAFM画像を撮影するには、超高真空・極低温で測定を行う必要があります。非エキスパートでも軽々しく撮影できる代物でない、というのが少し残念ではあります。

しかし改良が進んで使いやすくなれば、有機化学者にとってはまさしく“夢の技術”たりえるのではないでしょうか。今後の発展を心待ちにしたいと思います。

関連動画

IBMによる広報動画

関連書籍

原子間力顕微鏡のすべて―原子や分子を見て動かす (K BOOKS)
森田 清三
工業調査会
売り上げランキング: 754137
有機分子のSTM AFM
有機分子のSTM AFM

posted with amazlet at 09.08.30
共立出版
売り上げランキング: 690222
はじめてのナノプローブ技術 (ビギナーズブックス (18))
森田 清三
工業調査会
売り上げランキング: 386547
おすすめ度の平均: 4.0

4 SPMの入門書

The following two tabs change content below.
cosine

cosine

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. イミデートラジカルを経由するアルコールのβ位選択的C-Hアミノ化…
  2. 自己組織化ホスト内包接による水中での最小ヌクレオチド二重鎖の形成…
  3. 第96回日本化学会付設展示会ケムステキャンペーン!Part I
  4. Stephacidin Bの全合成と触媒的ヒドロアミノアルキル化…
  5. 元素のふしぎ展に行ってきました
  6. アミン化合物をワンポットで簡便に合成 -新規還元的アミノ化触媒-…
  7. 化学系学生のための企業合同説明会
  8. 最近の有機化学注目論文1

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 二段励起型可視光レドックス触媒を用いる還元反応
  2. 力学的エネルギーで”逆”クリック!
  3. 岩澤 伸治 Nobuharu Iwasawa
  4. エッシェンモーザーカップリング Eschenmoser Coupling
  5. すぐできる 量子化学計算ビギナーズマニュアル
  6. 112番元素にコペルニクスに因んだ名前を提案
  7. お”カネ”持ちな会社たちー2
  8. 高難度分子変換、光学活性α-アミノカルボニル化合物の直接合成法
  9. 鉄とヒ素から広がる夢の世界
  10. ジルコノセン触媒による第一級アミドとアミンのトランスアミド化反応

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

Carl Boschの人生 その2

Tshozoです。前回の続き、早速参ります。筆者のフォルダが火を噴く動画集 おそらく現存…

トヨタ、世界初「省ネオジム耐熱磁石」開発

トヨタは、今後急速な拡大が予想される電動車に搭載される高出力モーターなど様々なモーターに使用されるネ…

触媒のチカラで拓く位置選択的シクロプロパン合成

嵩高いコバルト錯体を触媒として用いた位置選択的Simmons–Smith型モノシクロプロパン化反応が…

「原子」が見えた! なんと一眼レフで撮影に成功

An Oxford University student who captured an image…

2018年3月2日:ケムステ主催「化学系学生対象 企業合同説明会」

2月も後半となり、3月1日の就活解禁に向けて、2019年卒業予定の学生のみなさんは、就活モードが本格…

高専シンポジウム in KOBE に参加しました –その 2: 牛の尿で発電!? 卵殻膜を用いた燃料電池–

1 月 27 日に開催された第 23 回 高専シンポジウム in KOBE の参加報告の後編です。前…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP