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2011年イグノーベル賞決定!「わさび警報装置」

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IgNobel2011.jpg

「ノーベル賞のジョーク版」イグ・ノーベル賞が今年も発表されました。
授与対象となるのは、”first make people LAUGH, and then make them THINK”――すなわち、まず笑わせ、そして考えさせてくれる研究です。
選定者の頭の柔らかさと抜群のセンスが毎度感じられる、非常に楽しい賞の一つです。日本人も毎年のように受賞していることから、最近では話題性も大きくなっています。

さて、ケムステで過去数年にわたり取り上げてきた(2007年2008年2009年2010年)気になる化学賞は・・・?

なんと今年は日本人がその栄誉に輝きました!

【受賞者】
田島幸信(香りマーケティング協会理事長)
今井真(滋賀医科大講師)
漆畑直樹(シームス社長)
種村秀輝(シームス取締役)
後藤秀晃(エア・ウォーター防災 技術者)
溝口浩一(エア・ウォーター防災 技術者)
Junichi Murakami

【受賞理由】
「火災など緊急時に眠っている人を起こすのに適切な空気中のわさびの濃度発見と、これを利用したわさび警報装置の開発」

wasabiar.png

わさび警報装置。実際株式会社シームスより5万2500円で購入可能

もともとは聴覚障害者や耳の通り老人向けに危険を察知させるべく「嗅覚に働きかける」というコンセプトから開発されたシステムです。既に実用化もされているという、至極まっとうな研究の成果ですね(公式サイト)。今後の高齢者社会では聴覚が弱い方もでてくると思われるので、ユニバーサルデザインに基づいた機器のアイデアは必要になってくるかもしれませんね。

煙を感知すると装置が作動して「わさび臭」が噴出。6?9畳程度の部屋ならば15?20秒で臭いが充満。”臨床試験”では14人中13人が目を覚ましたそうです。すばらしい。においのセレクションは、ミントでは気持ちが良くなってさらに寝てしまいそうであるし、からしであるとさすがに強すぎかなと。議論を重ねた結果最終的にわさび臭にたどりついたようです。

数ある匂いから「わさび」を選びとったところがイグノーベル賞授賞のポイントのようで、この辺にはさすがのセンスが匂われます。ちなみにわさび臭の正体は「アリルイソチオシアネート」という成分。わさびに含まれるシニグリン(sinigrin)とよばれる辛味成分の「素」が、すりおろされ酸素と触れるとミロシナーゼという酵素の働きにより、グルコースと硫酸水素カリウムが遊離し、アリルイソチオシアネートを生じます。見ての通り直線分子で嗅覚の受容体にざくっと刺さりそうな構造をしていますね。

wasabinioi.png

ちなみにマスタードの辛味成分の素は「シナルビン」という配糖体で次のような構造をしています。シニグリンととてもよく似ていますね。出てくる辛味成分の構造も予想できることでしょう。

mustard.png

ところで、この結果はイグ・ノーベル賞コミッティーはどうやってしったのでしょうか。日本人5年連続受賞ということでかなり日本の「研究」が注目されているのは確かだとは思いますが。ノーベル賞よりも結果が得られてからの受賞も圧倒的に速いことも特徴ですね。しかしたらウィットに富んだ奇抜な研究をすればあなたもすぐにイグ・ノーベル化学賞を受賞できるかも!?

 

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  • 関連書籍
  • マーク・エイブラハムズ, 福嶋 俊造
  • 発売日 : 2005/08/26
  • 出版社/メーカー : ランダムハウス講談社
  • おすすめ度 : (5 reviews)
    1前作は面白かったが‥‥
    2笑えない
    2イグ・ノーベル賞なのに。
    5物の見方は変わりましたし、世の中の価値観に対しても少し変化しました。
    21冊目のほうが面白かった。
  • 関連リンク

Improbable Research イグ・ノーベル賞公式サイト

「わさびのにおい」で火災を知らせる警報器(Slashdot.jp)

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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