[スポンサーリンク]

一般的な話題

NaHの水素原子の酸化数は?

[スポンサーリンク]

 

2012年 センター試験より

センター試験、こういうほんのちょっとだけ考える趣向の出題形式が好きみたいですね。雰囲気で酸化還元反応っぽいと判断するのではなく、酸化数を考えて解くというのが、セオリーです。

 

ではでは、次のケムステオリジナル問題はどう答えますか?

11310970_789952414453125_1904805094_n

よーく考えてくださいね。

酸化還元反応にまつわる出題は他の年でもセンター試験に出題されています(クリックで拡大)。

GREEN2011.PNG

GREEN2008.PNG

2011年 センター試験より 2008年 センター試験より  

酸化還元反応は重要単元のひとつのようです。そこで、先ほど出題しました「NaHの水素原子の酸化数」を考えてみましょう。高校の教科書の端やら資料集やらで、水素化ナトリウムNaHというものを見聞きしていたりして、ちょっとした化学好き高校生ならば安心して答えてくれるはず。「水素原子の酸化数は-1です」、と。

異議あり!

問題文中では、一言も「水素化ナトリウム(sodium hydride; NaH)」とは言及していません。特別なアミンと混合した条件の下では「インバース水素化ナトリウム(hydrogen sodide; NaH)」という変わりものが存在するのです[1]。

この場合、「水素原子の酸化数は+1です」、と答えなければなりません。

なっナトリウムアニオン!?

そんな物質が合成できたのかと驚いたあなたに、インバース水素化ナトリウムの作り方はこちらです。まず酢酸アンモニウムと同じ勢いで、ヒドロキシ酢酸アダマンザニウムを用意します。そして、液体アンモニア下で、金属ナトリウムを加えて反応させます。すると、ヒドロキシ酢酸がナトリウムアルコキシドになってカルボン酸ナトリウム塩になったものが固化し、さらに水素ガスが気化します。そして、アダマンザンとインバース水素化ナトリウムの混合物ができあがります。11356077_789946727787027_204784212_n

爆発の恐れがあるためよく検討して適切な設備で実験しましょう

わずかに黄色みを帯びた針状の結晶が得られたようで、結晶構造解析のデータも論文に示されています。-30℃以上にしたところ色が失われたことから、このあたりの温度では不安定なようです。

11291799_789946751120358_1724186943_n

 

 

インバース水素化ナトリウムとアダマンザンがいっしょになった結晶が得られた

数学の確率の問題でわざわざサイコロやコインがいびつかどうかに言及しないのと同様に、化学の問題で高校の設備で安価に安全にできる条件かどうかをわざわざ問題文に書く必要は感じないものの、物事にはたいてい例外があることは意識しておくとよいかもしれませんね。教科書にないものを取り扱う研究者(のタマゴ)としては。

えっ……。百歩譲ってアダマンザンがあることは目をつぶるにしても、陽イオンを先に、陰イオンを後に書くのがイオン結晶のお約束だから、それはNaHじゃなくてHNaでしょって? そう言えば、確かに。

 

参考論文

  • “Inverse Sodium Hydride:  A Crystalline Salt that Contains H and Na” Mikhail Y. Redko et al. J. Am. Chem. Soc. 2002 DOI: 10.1021/ja025655

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4010363886″ locale=”JP” title=”2012年受験用 全国大学入試問題正解 化学 (旺文社全国大学入試問題正解)”][amazonjs asin=”4274209210″ locale=”JP” title=”ベーシックマスター無機化学 (BASIC MASTER SERIES)”]

 

Avatar photo

Green

投稿者の記事一覧

静岡で化学を教えています。よろしくお願いします。

関連記事

  1. 第36回ケムステVシンポ「光化学最前線2023」を開催します!
  2. 有機合成化学協会誌2019年2月号:触媒的脱水素化・官能性第三級…
  3. ケムステも出ます!サイエンスアゴラ2013
  4. 火力発電所排気ガスや空気から尿素誘導体の直接合成に成功
  5. デルゴシチニブ(Delgocitinib)のはなし 日本発の非ス…
  6. 兄貴達と化学物質+α
  7. 二刀流センサーで細胞を光らせろ!― 合成分子でタンパク質の蛍光を…
  8. 図に最適なフォントは何か?

注目情報

ピックアップ記事

  1. 山口健太郎 Kentaro Yamaguchi
  2. ケムステタイムトラベル2011~忘れてはならない事~
  3. アズレンの蒼い旅路
  4. 進め、分子たち!第2回国際ナノカーレースが3月に開催
  5. 化学 2005年7月号
  6. 触媒表面に吸着した分子の動きと分子変換過程を可視化~分子の動きが触媒性能に与える影響を解明~
  7. 超一流誌による論文選定は恣意的なのか?
  8. 【速報】2018年ノーベル化学賞は「進化分子工学研究への貢献」に!
  9. 第101回―「高分子ナノ構造の精密合成」Rachel O’Reilly教授
  10. カルボン酸だけを触媒的にエノラート化する

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年1月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

有馬温泉で鉄イオン水溶液について学んできた【化学者が行く温泉巡りの旅】

有馬温泉の金泉は、塩化物濃度と鉄濃度が日本の温泉の中で最も高い温泉で、黄褐色を呈する温泉です。この記…

HPLCをPATツールに変換!オンラインHPLCシステム:DirectInject-LC

これまでの自動サンプリング技術多くの製薬・化学メーカーはその生産性向上のため、有…

MEDCHEM NEWS 34-4 号「新しいモダリティとして注目を浴びる分解創薬」

日本薬学会 医薬化学部会の部会誌 MEDCHEM NEWS より、新たにオープン…

圧力に依存して還元反応が進行!~シクロファン構造を活用した新機能~

第686回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 有機化学第一研究室(鈴木孝…

第58回Vシンポ「天然物フィロソフィ2」を開催します!

第58回ケムステVシンポジウムの開催告知をさせて頂きます!今回のVシンポは、コロナ蔓延の年202…

第76回「目指すは生涯現役!ロマンを追い求めて」櫛田 創 助教

第76回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第75回「デジタル技術は化学研究を革新できるのか?」熊田佳菜子 主任研究員

第75回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第74回「理想的な医薬品原薬の製造法を目指して」細谷 昌弘 サブグループ長

第74回目の研究者インタビューは、第56回ケムステVシンポ「デバイスとともに進化する未来の化学」の講…

第57回ケムステVシンポ「祝ノーベル化学賞!金属有機構造体–MOF」を開催します!

第57回ケムステVシンポは、北川 進 先生らの2025年ノーベル化学賞受賞を記念して…

櫛田 創 Soh Kushida

櫛田 創(くしだそう)は日本の化学者である。筑波大学 数理物質系 物質工学域・助教。専門は物理化学、…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP