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今度こそ目指せ!フェロモンでリア充生活

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皆様大変長らくお待たせ致しました。前回のポストの続きです。今回は私達ヒトを含めたほ乳類フェロモンを紹介いたします。ほ乳類に関しては残念なことに、必ずしも多くが解明されているわけではありません。昆虫フェロモンの場合とは異なり、ほ乳類はたくさん個体を集めてきて該当の器官を切除しまとめて抽出という操作が困難なので、交尾を誘発したり、異性を興奮させる性フェロモンを同定するためのサンプルを得る事が必ずしも容易で無いことが理由の一つであると考えられます。

シカが仲間を認識するフェロモンやネズミの攻撃性を誘発するフェロモンなどは比較的古くから知られています。

deer.png

シカのフェロモン(上)、ネズミのフェロモン(下)

既に実用化までされているものとしては、ブタの雌に交尾姿勢を取らせるフェロモンとして知られているアンドロステノンがあり、人工授精の際には大いに役立っているようです。

pig.png

ブタのフェロモン

大型ほ乳類の性フェロモンでは、アジアゾウの雄が若いかどうかを判断する為のフェロモンが知られています[1]。アジアゾウの側頭腺から放出されるフェロモンであるフロンタリンキクイムシの一種のフェロモンと同一の化合物というところにも驚きです。アジアゾウの雄はこのフロンタリンを20歳くらいから放出するようになるのですが、若年では(+)-体を多く分泌し、老齢になるとラセミ体、すなわち(+)-体と(−)−体をほぼ1:1で放出するようになっていくそうです。雌はフロンタリンの鏡像異性体の純度を感知して、より若い個体を選んで交尾するのでしょう。

 

elephant.png

ゾウの尿中に含まれるフェロモン(上)、(+)-フロンタリン(左下)、(-)-フロンタリン(右下)

前述のようにネズミのフェロモンでは尿中に揮発性のものが含まれていることは古くから知られていましたが、東原らはネズミの涙に性フェロモンが含まれていることを発見しました[2][3]。ネズミを飼育していると、雄と雌が頬を擦り合わせるような行動をとるということはよく知られた事実でした。実はこの行動こそが性フェロモンを感知する行動だったのです。雄は目の周辺にESP1と名付けられた約60残基からなるペプチドを分泌しており、これが雌に交尾行動(ロードシスと呼ばれる交尾受け入れ行動)を誘導するフェロモンとして働いていたのです。涙は女の武器と言いますが、ネズミでは男の武器だったようです。

 

mouse.png

ネズミのフェロモンの受容機構(左)論文[2]から転載、ESP1のアミノ酸配列(右)

ここまで引っ張って参りましたが、皆さんお待ちかねのヒトのフェロモンはどうなっているのか紹介したいと思います。ネズミの涙にフェロモンが含まれるように、ヒトの涙中にフェロモンのような作用がある物質が含まれるのではないかというイスラエルのグループからの報告が最近Science誌に掲載されました。

 

Human Tears Contain a Chemosignal

Gelstein, S.; Yeshurun, Y.; Rozenkrantz, L.; Shushan, S.; Frumin, I.; Roth, Y.; Sobel, N.; Science 2011, 331, 226. DOI: 10.1126/science.1198331

 

物質の同定には至っていませんが、報告によると“悲しみ”によって流された女性の涙には男性の性的興奮度を下げる効果があるとのことです。男性が女性の涙に弱いわけがなんとなく解明されたってことでしょうか(?)。筆者はなんだか釈然としませんが・・・

 

この話が本当だとしてもリア充になるには逆に異性の興奮を高めなければ意味がありませんよね。では、そういう物質はあるのでしょうか?

世の中にフェロモン香水なる商品は溢れていますし、webで「フェロモン」を検索するとそんなサイトばかりがヒットします。そういうサイトを訪れると必ず記載されているのが、Berliner博士の報告です[4]。そういったサイトには1996年にヒトのフェロモンとしてステロイドの一種、pregna-4,20-diene-3,6-dioneを同定し、特許を取得していると書かれていることでしょう。

human.png

ヒトのフェロモン(?)

論文があるのも事実ですし、Berlinerらは特許も確かに取得しています。ではこの物質こそがヒトにおいて異性を惹きつけるフェロモンで確定かというとそう単純ではありません。アンドロスタジエノンがフェロモンだという報告もあるにはあるのですが[5]、いずれにしても追試の困難さや、測定方法の問題が指摘されており、当確を出すのは時期尚早であると言えます。そもそも、ヒトにはフェロモンを受容する器官(他の動物においてフェロモンの受容が行われる鋤鼻器、もしくはそこから始まる信号の伝達系である鋤鼻系)があるのかどうか、受容体があるのかどうかもはっきりとは分かっていませんので、当選者が現れるのかも定かではありません。

筆者の私見と受け止められても仕方ありませんが、やはりヒトの場合はフェロモンを使って異性を惹き付けたり、仲間を集めたりは現状では難しいようです。でもそういった商品を使用することによって、自信を持って人に接する事ができるようになるのであればリア充生活を手に入れる事も夢ではないのかもしれません。

ヒトのフェロモンの研究はともすればいかがわしい研究になるかもしれませんが、人類自らの進化を理解する為には絶対に必要だと思います。生物検定やフェロモンサンプルの入手は非常に困難ですし、妙な業者に悪用されるのはしゃくに障りますが、この分野のブレークスルーが訪れることを期待します。それとも男と女永遠の謎として残しておくのがロマンというものでしょうか。

参考文献

  1. Greenwood, D. R.; Comeskey, D.; Hunt, M. B.; Rasmussen, L. E. L. Nature 2005, 438, 1097. doi:10.1038/4381097a
  2. Kimoto, H.; Haga, S.; Sato, K.; Touhara, K. Nature 2005, 437, 898. doi:10.1038/nature04033
  3. Touhara, K. et al. Nature 2010, 466, 118.  doi10.1038/nature09142
  4. Berliner, D. L. et al. Steroid Biochem. Molec. Biol. 1996, 58, 259. doi:10.1016/0960-0760(96)00062-3
  5. Grosser, B. I.; Monti-Bloch, L.; Jennings-White, C. Berliner, D. L. Psychoneuroendocrinology 2000, 25, 289. doi:10.1016/S0306-4530(99)00056-6

 

関連書籍

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有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

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