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スポットライトリサーチ

安定なケトンのケイ素類縁体“シラノン”の合成 ケイ素—酸素2重結合の構造と性質

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第214回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院理学研究科化学専攻(岩本研究室)・小林 良さんにお願いしました。

有機ケイ素化合物の構造化学は日本からも傑出した業績が数々報告されていますが、以前のスポットライトリサーチでも取り上げている通り、岩本研究室から飛び出す数々の成果はその代表格でしょう。今回は科学者が100年以上追い求めてきた「ケイ素版ケトン」の合成と構造決定に始めて成功したという成果です。Angew. Chem. Int. Ed.誌原著論文、Cover Picture(冒頭図)、プレスリリースとして公開されています。

“An Isolable Silicon Analogue of a Ketone that Contains an Unperturbed Si=O Double Bond”
Kobayashi, R.; Ishida, S.; Iwamoto, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2019, DOI:10.1002/anie.201905198

研究室を主宰されています岩本武明 教授から、小林さんについて以下の人物評を頂いております。

今回小林君が取り組んだSi=O化学種の研究課題は100年以上にわたり様々なケイ素化学者が挑戦してきたもので、実際に課題を進めていくうえで何度も困難な状況になりました。小林君は、分子設計・合成経路を柔軟に変更最適化しながら、一つ一つ課題を解決し、目的の化合物の合成を達成しました。これは徹底的に考え抜く力強さと土壇場の思いきりの良さを兼ね備えた小林君だからこそ達成できたと思います。

それでは今回も、現場からのコメントをお楽しみ下さい!

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の報告ではケトンのケイ素類縁体(シラノン)を合成及び単離することに成功し、純粋なケイ素-酸素二重結合(Si=O)の分子構造とその高度な分極に由来する高い反応性を明らかにしました(図1).
Si=O化学種の研究はケイ素化学の創成期よりなされ100年以上の歴史があります.しかし、Si=O化学種は高度に分極し(Siδ+–Oδ−)、高い反応性を有するために合成単離が未だに困難です.実際、これまでの単離例では配位子や電子供与基によって分極を軽減する工夫が不可欠でした.今回の研究では、緻密な分子設計によりSi=Oを立体的に囲むことで、本来の分極を維持したSi=Oをもつシラノンを安定に取り出すという、ケイ素化学100年来の夢を達成できました.

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

本研究で工夫した点は、置換基の設計です.Si=Oは前述の通り、大きく分極し高い反応性を有しています.フェニル基上の置換基までこだわった緻密な設計をすることでSi=Oの高い反応性を残しかつSi=Oの構造も保った絶妙な分子にたどり着くことができました.
また、思い入れがあるのはシラノン単結晶X線構造解析です.1の構造がスクリーン上に現れたとき、研究室の皆が集まり自分以上に喜んでくれたことが大変嬉しく印象深かったです.

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

化合物の単離に苦労しました.NMRでシラノン1の生成が確認できたところまではよかったのですが、1は特に反応活性が高く、研究室で用いてきた従来の手法では扱えず単離できませんでした.用いる溶媒の精製方法など基本的な操作から一つ一つ細かく検討することで、1の単離収率100%での合成および単結晶X線構造解析を達成することができました.

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

漠然としていますが、将来は化学を通してより生活に身近な研究に携わりたいと考えています.現在は有機ケイ素分野の中でも基礎的な研究を行っていますが、基礎研究で磨かれる本質を突き詰める力は様々な分野で応用および貢献ができると考えています.現在の経験を生かして世の中の役に立てるよう今後も努力していきます.

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

研究に興味を持って記事を読んでくださりありがとうございます.私が研究を通して感じることは、楽しむことの大切さです.日々色々なことがありますが、何事にも全力で取り組むことで楽しくなり、結果も良くなると思います.これからも楽しみながら皆様と切磋琢磨していけたらと思います.
最後に、楽しく充実した研究室生活を支えてくださる岩本先生、石田先生を始めとする研究室の皆様、そして記事として研究を取り上げてくださったケムステスタッフの皆様に深く感謝申し上げます.

研究者の略歴

名前: 小林 良
所属: 東北大学大学院理学研究科化学専攻 合成・構造有機化学研究室 博士課程2年、東北大学学際高等研究教育院博士研究教育院生
研究テーマ: 典型元素不飽和化学種の合成と性質の解明

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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