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化学者のつぶやき

こんなのアリ!?ギ酸でヒドロカルボキシル化

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可視光レドックス触媒によるギ酸を炭素源としたヒドロカルボキシル化が開発された。チオール触媒を介したラジカル連鎖機構が支持されており、低触媒量で穏和に反応が進行する。

ヒドロカルボキシル化の進展と多様化

ヒドロカルボキシル化はアルケンを直截、カルボン酸へ誘導する有用な反応である。古典的には遷移金属触媒存在下、高温高圧条件と有毒な一酸化炭素を必要とするが、近年では室温・常圧で進行し、二酸化炭素を炭素源とする反応が開発されている(図 1A)[1]。2020年にYuらはメタルフリーかつ穏和な条件で進行する、可視光駆動型ヒドロカルボキシル化を初めて報告した(図 1B 上)[2]。

しかし、化学量論量以上の塩基や添加剤が必要であった。一方で、気体分子の代わりにギ酸を炭素源として利用できるヒドロカルボキシル化も開発されているものの、報告例は少ない。
ごく最近、Juiらはギ酸ナトリウムから生成したCO2ラジカルアニオンを利用した、種々の基質に対する還元反応を開発した[4]。その過程で、彼らは一部の還元されにくいアルケンを基質とすると、CO2ラジカルアニオンが付加しカルボン酸を与えることを見いだした(図 1C)。この報告の直後、本論文著者のWickensらも有機光触媒、チオール、ギ酸塩を用いる類似の触媒系を用いて、ギ酸を炭素源としたアルケンのヒドロカルボキシル化に成功した。本手法は50 mmolスケールでの合成が可能であり、空気下、含水条件でも滞りなく反応が進行する。

図1. (A) 従来のヒドロカルボキシル化 (B) 可視光駆動型のヒドロカルボキシル化 (C) ギ酸塩を用いたヒドロカルボキシル化

 

“Photoinduced Hydrocarboxylation via Thiol-Catalyzed Delivery of Formate Across Activated Alkenes”
Alektiar, S.; Wickens, Z. J. Am. Chem. Soc.2021, 143, 13022–13028.
DOI: 10.1021/jacs.1c07562

論文著者の紹介

研究者:Zachary K. Wickens
研究者の経歴:
2006–2010                  B.A., Macalester College, USA
2010–2015                  Ph.D., California Institute of Technology, USA (Prof. Robert H. Grubbs)
2015–2018                  Postdoc, Harvard University, USA (Prof. Eric N. Jacobsen)
2018–                             Assistant Professor, University of Wisconsin–Madison, USA
研究内容:電気化学、光化学

論文の概要

DMSO中、4-DPAIPN及びT1触媒存在下、アルケン1とギ酸カリウム塩(2)に対して青色光を照射することで対応するカルボン酸3が得られる(図 2A)。基質適用範囲を調査したところ、スチレン(1a)は収率80%で3aを与え、50 mmolスケールでの合成や含水条件にも対応した。本反応はクロロベンゼン(1b)、ピリジニウム(1c)をもつスチレン誘導体のほか、α,β-不飽和エステル(1d)に適用可能であった。電子状態の異なるオレフィンをもつ場合は、電子不足なオレフィンが選択的にヒドロカルボキシル化を受けた(1e)。また、13Cを含むギ酸塩を用いることで同位体標識された生物活性物質(3f, 3g)も合成できた。
次に筆者らは1aを用いて重水素化実験を試みた(図 2B)。重水素化されたギ酸ナトリウム(DCOONa)を用いると、生成した3aの重水素化率は80%であった(Entry 1)。溶媒をDMSO-d6をとすると重水素体を与えない一方、10当量の重水(D2O)を加えると3aの重水素化率は92%となった(Entries 2 and 3)。また、DCOONaを用いてH2Oを添加すると重水素化した3aは得られなかった(Entry 4)。これらの結果から、著者らは(i)、(ii)いずれかを開始反応とする次の反応機構を提唱した(図2C)。開始反応(i)では、青色光により励起された4-DPAIPNが2を一電子酸化し、不均化によってCO2ラジカルアニオン2’が生成する。2’は1に付加しラジカルアニオン中間体IM1を与える。このIM1はT1との水素移動反応(Hydrogen Atom Transfer: HAT)によってカルボキシラートとなり、プロトン化されて3となる。HATによって生成したチイルラジカルT1’が2から水素原子を引き抜く過程で、2’は再び生成する。開始反応(ii)では、T1は4-DPAIPNによる一電子酸化、続く脱プロトン化によってチイルラジカルT1’となる。その後、開始反応(i)と同一の触媒サイクルで反応する。

図2. (A) 基質適用範囲 (B) 重水素化実験 (C) 推定反応機構

 

以上、取り扱い容易なギ酸塩を用いた穏和なヒドロカルボキシル化が開発された。本反応を足掛かりに、CO2ラジカルアニオンを炭素源とする炭素–炭素結合形成の更なる発展が期待される。

参考文献

  1. Kalck, P.; Urrutigoïty, M.; Dechy-Cabaret, O. Hydroxy- and Alkoxycarbonylations of Alkenes and Alkynes. In Catalytic Carbonylation Reactions; Beller, M., Ed.; Topics in Organometallic Chemistry, Vol. 18; Springer: Berlin, Germany, 2006; pp 97–
  2. Huang, H.; Ye, J.-H.; Zhu, L.; Ran, C.-K.; Miao, M.; Wang, W.; Chen, H.; Zhou, W.-J.; Lan, Y.; Yu, B.; Yu, D.-G. Visible-Light-Driven Anti-Markovnikov Hydrocarboxylation of Acrylates and Styrenes with CO2. CCS Chem. 2021, 3, 1746–1756. DOI: 10.31635/ccschem.020.202000374
  3. Wang, Y.; Ren, W.; Li, J.; Wang, H.; Shi, Y. Facile Palladium-Catalyzed Hydrocarboxylation of Olefins without External CO Gas. Org.  Lett. 2014, 16, 5960–5963. DOI: 10.1021/ol502987f
  4. Hendy, C. M.; Smith, G. C.; Xu, Z.; Lian, T.; Jui, N. T. Radical Chain Reduction via Carbon Dioxide Radical Anion (CO2−). J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 8987−8992. DOI: 10.1021/jacs.1c04427

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