[スポンサーリンク]

一般的な話題

Impact Factorかh-indexか、それとも・・・

[スポンサーリンク]

 

 

 

ある男がバーに来てビールを注文した。すると隣の席に座っている(なぜか白衣を着た)男が新客に訪ねた。

「あんた体重と身長はどれくらいだい?」

男は困惑しながら答えた

「188 cm、104 Kgだが何故だい?」

白衣の男はしばし考えた後に言った

「おたくのBMIは29.5だな。ああすまない私は医者だ。あんたの健康について少し気になっただけさ」

 

何が言いたいのかさっぱり分かりませんよね。私もさっぱりです。今回のポストでは、以前のポストに続き、Nature Chemistry 誌に掲載されていた、Tulane大学のBruce C. Gibb教授による主張を基にh-indexについて考えてみたいと思います。

 

Lies, damned lies and h-indices

Gibb, B. C. Nature Chem. 4, 513-514 (2012). Doi: 10.1038/nchem.1388

 

研究者、特に大学の研究者は主として研究を生業とし、その成果を発信することで科学の進歩に貢献することが一つの大きな役割です。では、ある研究者が優れているのか、そうでないのかはどのようにして評価すればいいのでしょうか?

新たに教授を採用したり、助教が准教授に昇格したりといった場合、多くの大学では研究業績が主な評価材料になっています。その研究業績では出版した学術論文の“数”が評価対象にされることが多いようです。当然それが全てではありませんが、論文の“数”という大変分かりやすい指標を用いれば、その研究者がどれくらいのアクティビティを持っているのかを比較的容易に推測することができます。

しかし、この方法には明らかな問題があります。それは数を出せばそれでいいのか?というものです。毎年のように学術論文誌が創刊され、そこに掲載される論文の数も右肩上がりであるのが世界の潮流です(残念ながら我が国発の論文は減少傾向だとか)。一言で学術論文と言っても玉石混合という現状では、単なる論文数に依らない評価軸が必要ではないかと考えるのが妥当です。

そこで、ケムステ読者のみなさんなら良くご存知のImpact Factor (IF)はどうでしょうか。IFはトムソンーロイター社が毎年Journal Citation Reportsに掲載しているもので、以下のように計算されます。

(該当年に過去2年に掲載の論文が引用された回数)/(前前年の掲載論文数+前年の掲載論文数)

重要なのは掲載される論文の数と、それら掲載論文が特定の期間にどれだけの回数引用されたのかです。IFが高い雑誌は総じて採択率が低い傾向にあり、IFが高ければ高いほどその学術雑誌は価値が高いとみなされる傾向があります。生物学分野ではCellNatureScienceのいわゆるCNSに掲載された論文が業績の中にあるかどうかがその研究者を計る一つの目安にまでなっているようです。ですから、研究者の論文リストを眺めて、IFが高い論文誌が沢山あればその人はきっと凄い研究をしてきたのだろうと見なす事が可能かもしれません。

 

しかし、このIFを用いた評価も危険性が残されています。確かに有名な雑誌に掲載されている論文かもしれませんが、その論文を個別に見た場合、本当に価値が高いのかどうかは保証されていません。有名誌に掲載はされてはいるものの、だれからも見向きもされない論文が数多くあります。

ではh-indexはどうでしょうか。h-indexは、Hirschが2005年に提案した指標であり[1]、例えば、10の論文を発表して、その論文がそれぞれ10回ずつ他の論文に引用されていればh-indexは10となります。一方、100の論文を発表していたとしても、その論文のうち10編が10回以上引用されていて、残り90編が9回の引用に留まっている場合はh-indexは10となります。すなわち、論文数を多くすればいいというものではなく、被引用数とのバランスで研究者のポテンシャルを量ろうというものになっています。ちなみにノーベル化学賞の受賞者であるE. J. Corey教授のh-indexは130を超えています。

ある論文が引用されるという事には主として二つの可能性があり、自分の主張を裏付けるようなデータが記載されている論文の著者に対して敬意を払う場合と、自分の論文にあるデータに関する説明が面倒なときに過去の事例について引用する場合です。よって引用が全て好意的とは限りません。また、引用は便利な論文を挙げる場合が多いので、総説は多くの引用を集め、オリジナルの論文が適切に引用されないなどの例も多く見られます。極端な例では、NASAによるヒ素をDNAに組み込んだ微生物に関するNature誌掲載の論文に対して、それを否定する論文でも被引用は当然されています。

 

IFのようにデータベースの構築法や計算方法によって左右されてしまう指標と違い(IFの計算では必ずしも全ての学術論文誌が網羅されている訳ではないという問題や、3年間という期間が妥当なのかどうかという問題が常に議論の的になります)、h-indexの場合はバイアスがかかる可能性が低いというメリットがあり、かつ現在でしたらGoogle Scholarによって誰でも誰かのh-indexのおよその数値を知る事ができるというメリットもあります(Google Scholarも全てが網羅されている訳ではありません)。

h-index_2.jpg

図は文献より引用

h-indexの他にもm-index、g-index、s-indexなど色々あるようですが、いくつかの指標を組み合わせてやることで、研究者の実力が客観的に評価できる日が来るのかもしれません。それらを基にして昇格や採用が決まったり、研究費の審査に使われたり、はたまた大学からのお給料が上下したりといった世の中が来るのかもしれませんね。

 

ここまで書いておいてなんなんですが、Gibb教授の主張ではこのh-indexを使えと言っているのかというとそうではありません(な、なんだってー)。冒頭に戻りますが、人はBMIのように何でも指標にしたがる傾向にあります。世界は指標で溢れており、ニュースを見れば日経平均株価とか、TOPIXとかありますよね。でもそいうった指標って本当に当てになるのでしょうか?ある程度というのが実情で、個別の株価は全く逆だったりします。増してや人を評価する指標なんてものが統一的にできるとはあまり思えないのです。BMIが分かったところで、その人の健康状態が何でも分かる訳ではありません。

主張のタイトルは米国の名言”There are three kinds of lies: lies, damned lies, and statistics.“(世の中には三つの嘘がある。それは嘘、真っ赤な嘘、そして統計だ)をもじっています。研究者の評価に用いられうる様々な指標が有りますが、その数値に一喜一憂するのでは無く、研究者個々人をじっくりと評価するのが大切であるという事なのでしょう。そのためには研究者も自身の研究の価値を積極的に発信し続けなければ、広く理解をしてもらう事は出来ないという事を肝に命じる必要があります。

 

参考文献

[1] Hirsch, J. E. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 102, 16569-16572 (2012). Doi: 10.1073/pnas.0507655102

 

関連書籍

[amazonjs asin=”4489006853″ locale=”JP” title=”研究者という職業”] [amazonjs asin=”0520274709″ locale=”JP” title=”Damned Lies and Statistics: Untangling Numbers from the Media, Politicians, and Activisits”][amazonjs asin=”4826901119″ locale=”JP” title=”統計はこうしてウソをつく―だまされないための統計学入門”]
Avatar photo

ペリプラノン

投稿者の記事一覧

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 化学知識の源、化学同人と東京化学同人
  2. 化学者も参戦!?急成長ワクチン業界
  3. ポリ塩化ビニルがセンター試験に出題されたので
  4. AI分子生成による有機分子ハイスループット仮想スクリーニングの最…
  5. MIDAボロネートを活用した(-)-ペリジニンの全合成
  6. 有機アジド(3):アジド導入反応剤
  7. バイエルスドルフという会社 ~NIVEA、8×4の生みの親~
  8. 分子研オープンキャンパス2022 参加登録受付中!

注目情報

ピックアップ記事

  1. 積水化学と住友化学、サーキュラーエコノミーで協力。ゴミ原料にポリオレフィンを製造
  2. イタリアに医薬品販売会社を設立 エーザイ
  3. スケールアップのポイント・考え方とトラブル回避【終了】
  4. Fmoc-N-アルキルグリシンって何ができるの?―いろいろできます!
  5. BASFとはどんな会社?-2
  6. Lead Optimization for Medicinal Chemists
  7. リピトール /Lipitor (Atorvastatin)
  8. ヒュッケル法(後編)~Excelでフラーレンの電子構造を予測してみた!~
  9. マテリアルズ・インフォマティクスにおける初期データ戦略 -新規テーマでの対応方法をご紹介-
  10. 有機合成化学協会誌2023年5月号:特集号「日本の誇るハロゲン資源: ハロゲンの反応と機能」

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

2026年、過去最大規模の「有機溶媒危機」が始まった?

2026 年 2 月 28 日、アメリカとイスラエルがイランに対し軍事攻撃作戦を…

蒸留操作で水はどう動くのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

ペプチドを細胞に入れるには? ― クロロアルケン置換が切り拓く膜透過性の新戦略 ―

第 704 回のスポットライトリサーチは、静岡大学大学院 光医工学研究科 光医工学共…

核酸・ペプチド医薬品CDMO市場について調査結果を発表

この程、TPCマーケティングリサーチ株式会社(本社=大阪市西区、代表取締役社長=松本竜馬)は、核酸・…

ケモインフォマティクス

概要化合物の化学構造データやオミクスデータを情報解析するケモインフォマティクスを解説。(…

第61回Vシンポ「中分子バイオ医薬品分析の基礎と動向 ~LCからLC/MSまで、研究現場あるあるとその対処~」を開催します!

こんにちは、Macyです。第61回Vシンポのご案内をさせていただきます。今回は、Agilen…

水分はどこにあるのか【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

「MI×データ科学」コース 〜LLM・自動実験・計算・画像とベイズ最適化ハンズオン〜

1 開講期間2026年5月26日(火)、29日(金) 計2日間2 コースのねらい、特色近…

材料の数理モデリング – マルチスケール材料シミュレーション –

材料の数理モデリング概要材料科学分野におけるシミュレーションを「マルチスケール」で理解するた…

第59回天然物化学談話会@宮崎(7/8~10)

ごあいさつ天然物化学談話会は、全国の天然物化学および有機合成化学を研究する大学生…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP