[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

CYP総合データベース: SuperCYP

[スポンサーリンク]

ある日、製薬会社にお勤めの友人から「CYPの阻害剤一覧が全て載っているデータベースって知りませんか?」というなかなかコアな質問を頂きました。

筆者は薬学部所属の教員にもかかわらず、恥ずかしながらまったく調べた経験がありません。当然そんなデータベースを知るはずもない。困った困った・・・

こんな時にとっても頼りになるのが、ケムステスタッフの皆さんです!スタッフ専用掲示板で問い合わせてみたところ、さすが各分野の優秀人材が集うだけあって、1日も経たずにレスが帰って来ました。タツジン!

そこで教えて頂いた一つが「SuperCYP」というデータベースサイトでした。せっかくなので今回はこれをご紹介しましょう。

シトクロムP450(CYP)って?

酸化反応によって化合物を壊してしまう、もしくは体外排出されやすい形に変えてしまう働きをする酵素です。とくに肝臓での代謝・解毒を担当していることで知られます。略してCYP(シップ)と呼ばれることが多いです。

CYP3A4の構造 (赤がヘム鉄、PDB: 2J0D)

CYP3A4の構造 (赤がヘム鉄、PDB: 2J0D)

薬学/生物がらみの勉強を少しでもされた方なら、おそらく知らない人は居ないだろう、超有名酵素の一つです。

なぜこの酵素の阻害剤が重視されるかというと、薬の飲み合わせ(薬物相互作用)に深く関わっているからです。

薬の投与量というのは、体内での分解速度も計算に入れて決められます。

ある薬物によってCYPの働きが止まると、薬が分解/排出されづらくなり、いつまでも体に残ることになります。すると本来の投与量なら問題にならないはずの重篤な副作用が現れることがあるのです。

皆さんの中には、『薬と一緒にグレープフルーツジュースを飲んではいけません』と言われた方がいらっしゃるかもしれません。

これはグレープフルーツに含まれる成分が、CYP3A4を阻害してしまうことが理由です。ある薬の場合には、一緒に飲むと効き目が強く出過ぎてしまうことがあるのです。

 

CYPのデータベース

これほど重要度の高い酵素ですから、当然ながら膨大な研究蓄積があります。

これをデータベースの形で一元化してあるのがSuperCYPというサイトです。

このサイトを眺めて見ると、阻害剤一つ取ってもものすごい数が知られていることが分かります。いやはや、勉強になりますね。

画像はサイトFAQから引用

CYP3A4と相互作用する薬一覧

実に1000以上の医薬と2500以上のシトクロム-医薬相互作用、1200以上の対立遺伝子が掲載されているそうです。

リンク欄にも豊富な関連データ集がありますので、関連分野の人には役立つでしょう。
Creative Commons 3.0のもとに作成されているので、出典として論文[1]を明示しておけば、自由に使用して良いようです。

こういったものは得てして論文やウェブ上に散逸するばかりで、一元化はされないものです。「これを見ればOK!」とする統合情報ソースが必要、とのモチベーションから管理されているとすれば大いに事情は理解できます。

 

分野外の人はこんなの知らないです!だから情報ください!

SuperCYPはなかなか見やすく出来ており、CYPに関わる人なら定番サイト?なんじゃないのかなーと思いました。筆者はその方面の専門家ではないんで、よくまとめてあるなー大したものだ、と感じる以外にありませんが。

とはいえ分野の中の人なら「こんなの当たり前すぎるだろ・・・改めて紹介なんてするまでもないんじゃない?」・・・なんて考える人も、ひょっとしたらいるんじゃないかと思ってしまいます。

でも実際にはどうでしょう。筆者自身も、ニーズを持つ質問を投げかけてきた友人も、こんなサイトがあるなんてことは全然知りませんでした。

この事実をして「こんなことも知らないのかこいつは!」とするのは恥ずべき意見です。そんなに便利なものなら、分野外の人にもどんどん知らせてほしいです! 知られないもの、見つけ出せないものは存在しないのと同じですから。

今回はケムステ軍団という強い味方が居たので助かったのですが、「とっかかりとなる情報を信頼できる筋で調べたい」と思うとき、困ることは本当に多いんです。これは科学の情報であるかぎり、何でもそうだと日々感じています。

普通の人間が専門家に聞こうと思っても、そもそもどこの誰に聞けば良いか分からないですし、Yahoo知恵袋に投げるぐらいしか手がないのではないでしょうか。
これは「科学の日本語ガイドが検索可能な形で存在しないこと」が根源だと考えています。筆者がケムステの仕事を継続している理由はまさにそこにあります。ウェブに出ている信頼性の高い科学情報は、今でも全然足りていないのです。

ですので時間の許す限り、また新しい情報を仕入れるたびに、紹介文の形で残しておこうと思っています。いつか誰かが同じように困ったとき役立つように。同じことで何度も調べ直さなくても良いように。

こういった地道な情報蓄積は世界を便利にしますし、エセ科学の蔓延防止にも一役買うかもしれません。
読者の皆さんも、信頼性の高い専門サイトをそれぞれの分野でご存じのことと思います。情報を提供頂けると本当に有難いですし、専門家視点の紹介文とともにケムステに寄稿頂けるならもっと素晴らしい!

というわけで、そこの貴方も早速ケムステスタッフに応募してみませんか!?・・・てな感じのまとめで、今回はこれにて。

 

関連文献

  1. “SuperCYP: a comprehensive database on Cytochrome P450 enzymes including a tool for analysis of CYP-drug interactions” Preissner, R. et al. Nucl. Acids Res. 2010, 38, D237. doi:10.1093/nar/gkp970

 

外部リンク

 

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 米国へ講演旅行へ行ってきました:Part III
  2. タキサン類の全合成
  3. 香りの化学4
  4. プロドラッグの話
  5. 有機合成化学協会誌2022年6月号:プラスチック変換・生体分子変…
  6. 磁石でくっつく新しい分子模型が出資募集中
  7. 化学産業における規格の意義
  8. “マイクロプラスチック”が海をただよう …

注目情報

ピックアップ記事

  1. ヨードラクトン化反応 Iodolactonization
  2. 【書籍】液晶の歴史
  3. カーボンナノベルト合成初成功の舞台裏 (1)
  4. Advanced Real‐Time Process Analytics for Multistep Synthesis in Continuous Flow
  5. 複雑な化合物を効率よく生成 名大チーム開発
  6. ベンゼンの害、低濃度でも 血液細胞に損傷
  7. 博士号とは何だったのか - 早稲田ディプロマミル事件?
  8. コーリー・チャイコフスキー反応 Corey-Chaykovsky Reaction
  9. 世界の中心で成果を叫んだもの
  10. 官営八幡製鐵所関連施設

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2015年6月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

最新記事

2024年ノーベル化学賞は、「タンパク質の計算による設計・構造予測」へ

2024年10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル化学賞を発表しました。今…

デミス・ハサビス Demis Hassabis

デミス・ハサビス(Demis Hassabis 1976年7月27日 北ロンドン生まれ) はイギリス…

【書籍】化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学(CSJカレントレビュー: 50)

概要これまで化学は,解析と合成を両輪とし理論・実験を行き来しつつ発展し,さまざまな物質を提供…

有機合成化学協会誌2024年10月号:炭素-水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年10月号がオンライン公開されています。…

レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~

Tshozoです。筆者が所属する組織の敷地に大きめの室外冷却器がありほぼ毎日かなりの音を立て…

Pdナノ粒子触媒による1,3-ジエン化合物の酸化的アミノ化反応の開発

第629回のスポットライトリサーチは、関西大学大学院 理工学研究科(触媒有機化学研究室)博士課程後期…

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

丸岡 啓二 Keiji Maruoka

丸岡啓二 (まるおか けいじ)は日本の有機化学者である。京都大学大学院薬学研究科 特任教授。専門は有…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP