[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

不活性アルケンの分子間[2+2]環化付加反応

 

シクロブタンは歪みをもつ四員環構造をもつ物質群。天然物や医薬品の部分骨格としてみられ、また合成化学の中間体としてよくもちいられます。[1]

その代表的な構築法として[2+2]環化付加反応が挙げられます(図 1)。[2+2]熱環化付加反応は対称禁制であり、ルイス酸触媒 [2]、もしくは遷移金属触媒[3]を用いない限り進行しません。一方で[2+2]光環化付加反応は許容であり、ペリ環状反応、光触媒やルイス酸触媒を用いた反応[4]などが研究されています。これまでに熱・光のいずれの反応も高い位置・立体選択性を達成した例が報告されています。

 

2015-11-11_17-24-13

図1. [2+2]環化付加反応によるシクロブタン及びシクロブテンの合成法

しかし基質として極性官能基をもつアルケン、歪みをもつアルケン、発色団と共役したアルケンなど特定のアルケンを用いる場合がほとんどであり、エチレンやプロピレンなどの不活性アルケンには不向きでした。

最近、米国プリンストン大学のChirikらは、鉄触媒を合理的に設計することで不活性アルケンの分子間[2+2]環化付加反応により1,2-及び1,3-二置換シクロブタンの位置選択的かつ立体選択的な合成を達成し、Science誌に報告しました。

 

“Iron-catalyzed intermolecular [2+2] cycloadditions of unactivated alkenes”

Hoyt, J. M.; Schmidt, V. A.; Tondreau, A. M.; Chirik, P. J.;Science 2015, 349, 960. DOI: 10.1126/science.aac7440

 

今回は本反応について紹介したいと思います。

 

ホモ[2+2]環化付加反応

これまでにChirikらは、ピンサー型三座配位子であるビスイミノピリジン(PDI)の鉄錯体がα,ω-ジエンの分子内[2+2]環化付加反応を触媒し、シクロブタンを与えることを見出していました[5]。この反応において、PDI配位子の酸化還元能が高酸化状態の鉄三価のメタラサイクルの形成と還元的脱離を促進します(図 2)。

2015-10-31_15-46-31

図2 [2+2]環化付加反応におけるPDI配位子の特徴

Chirikらは本論文で、新たな配位子を設計することでPDI鉄錯体を不活性アルケンの分子間反応へと適用しました。配位子設計のポイントは以下の3つ。

  • 水素移動が生じない置換基を付ける
  • 空の配位座を作らせないことでβ水素脱離を抑制する
  • 嵩高い配位子を用いることで還元的脱離を促進する

第一世代触媒である(iPrPDI)Fe(N2)を用いた場合、配位子のAr基のiPr基から基質への水素移動が進行するためアルケンの水素化と触媒の失活が起こってしまいます。iPr基をMe基に変換した(MePDI)Fe(N2)(①)を用いた場合は水素移動反応を抑制できる一方、β水素脱離が還元的脱離と競合するため鎖状のtail-to-tail二量体が副成するなどの問題がありました。そこで(MePDI)Fe(N2)のイミン上のMe基をEt基に変換した錯体1(①、②)、及び(iPrPDI)Fe(N2)のAr基のiPr基をシクロペンチル基に変換した錯体2(①、③)を用いた(図3)ところ、いずれも高い位置・立体選択的に目的のtrans-1,2-二置換シクロブタンを与えることが分かりました。反応後は基質のアルケンと生成物のシクロブタンしか観測されず、グラムスケールでの反応が可能です。

 

2015-11-11_17-28-24

図3 各触媒における触媒機構

 

ヘテロ[2+2]環化付加反応

続いてChirikらは、PDI鉄錯体を用いたジエンとアルケンのヘテロ[2+2]環化付加反応を開発しました。この反応はホモ[2+2]環化付加反応の反応機構とは異なり、ジエンが鉄中心にη4配位してからアルケンが挿入、生成したメタラサイクルが還元的脱離することでcis-1,3-二置換シクロブタンが生成します(図 4)。彼らは2011年に、(MePDI)Fe(N2)を用いてブタジエンとエチレンのヘテロ[2+2]環化付加反応によるビニルシクロプロパンの合成[6]を報告してたものの、嵩高いジエンに対してはβ水素脱離による鎖状化合物が生成する、または反応が進行しないなどの問題点がありました。またホモ[2+2]環化付加反応で有効であった触媒12もここでは通用せず、嵩高いジエンであるミルセンと1-ヘキセンの反応ではβ水素脱離を経由したヒドロビニル化反応が進行してしまいます。そこで、β水素脱離をより強力に抑制するため、剛直な構造をもつ配位子の鉄錯体4を設計しました。錯体4を用いるとβ水素脱離由来の副生成物の生成を抑えることができ、ミルセンと様々なアルケンの[2+2]環化付加反応を高い位置・ジアステレオ選択性で行うことに成功しています。

 

2015-11-11_17-31-28

図4. PDI鉄触媒を用いたヘテロ[2+2]環化付加反応

まとめ

今回Chirikらは鉄錯体の配位子の設計により、不活性アルケンを基質とした位置・立体選択的な1,2-と1,3-二置換シクロブタンの合成法を報告しました。大量に生産されて安価なエチレンやプロピレンなどから室温・neatという容易な条件でシクロブタンを合成できるため、工業的応用への期待ができます。さらなる配位子設計によって基質適用範囲が広がり、今回のシクロブタンの合成法が一般的な方法の1つになることを期待したいと思います。

 

関連動画

 

参考文献

  1. Xu, Y.; Conner, M. L.; Brown, M. K. Angew. Chem., Int. Ed. 2015, 54, 11918. DOI: 10.1002/anie.201502815
  2. Conner, M. L.; Xu, Y.; Brown, M. K. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 3482. DOI:10.1021/jacs.5b00563
  3. Fan, B.-M.; Li, X.-J.; Peng, F.-Z.; Zhang, H.-B.; Chan, A. S. C.; Shao, Z.-H. Org. Lett. 2010, 12, 304. DOI: 10.1021/ol902574c
  4. Du, J.; Skubi, K. L.; Schultz, D. M.; Yoon, T. P. Science 2014, 344, 392. DOI:10.1126/science.1251511
  5. Bouwkamp, M. W.; Bowman, A. C.; Lobkovsky, E.; Chirik, P. J. J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 13340. DOI:10.1021/ja064711u
  6. Russell, S. K.; Lobkovsky, E.; Chirik, P. J. J. Am. Chem. Soc 2011, 133, 8858. DOI: 10.1021/ja202992p

 

The following two tabs change content below.
bona
愛知で化学を教えています。よろしくお願いします。
bona

最新記事 by bona (全て見る)

関連記事

  1. 鉄系超伝導体の臨界温度が4倍に上昇
  2. クロスカップリング反応にかけた夢:化学者たちの発見物語
  3. 留学せずに英語をマスターできるかやってみた(4年目)
  4. 博士課程学生の経済事情
  5. Reaxys体験レポート反応検索編
  6. ケミストリ・ソングス【Part 2】
  7. ChemDrawの開発秘話〜SciFinder連携機能レビュー
  8. 三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第30回 弱い相互作用を活用した高分子材料創製―Marcus Weck教授
  2. タングトリンの触媒的不斉全合成
  3. 新元素、2度目の合成成功―理研が命名権獲得
  4. ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthesis
  5. 銀の殺菌効果がない?銀耐性を獲得するバシラス属菌
  6. 「ELEMENT GIRLS 元素周期 ~聴いて萌えちゃう化学の基本~」+その他
  7. 光と熱で固体と液体を行き来する金属錯体
  8. マイケル・クリシェー Michael J. Krische
  9. 酢酸フェニル水銀 (phenylmercuric acetate)
  10. ライセルト インドール合成 Reissert Indole Synthesis

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

ルミノール誘導体を用いるチロシン選択的タンパク質修飾法

2015年、東京工業大学・中村浩之らは、ルミノール誘導体と鉄-ポルフィリン複合体(ヘミン)を用い、チ…

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開発

第123回のスポットライトリサーチは、テキサス大学オースティン校博士研究員(Jonathan L. …

Chem-Station Twitter

PAGE TOP