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化学者のつぶやき

もう別れよう:化合物を分離・精製する|第5回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)

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理系の理想の働き方を考える研究所「リケラボ」とコラボレーションとして「有機合成実験テクニック」の特集を10回に渡り配信する予定です。

さてちょうど半分、第5回目となる今回は、「もう別れよう:化合物を分離・精製する」と題して、有機化合物の分離・精製方法についてお話しましょう。

有機合成化学実験において、時間を必要とするのはどの作業でしょうか?

反応の計画・試薬の調製・反応を仕込む・止める・反応追跡・目的化合物の分離・精製・化合物の同定と一連の作業があります。合成反応なので、一見、反応を仕込むところにフォーカスされがちです。しかし、最終化合物を手に入れることを考えれば、一般的な律速段階(クリティカルパス)は目的化合物の分離・精製です。

有機合成反応を論文として報告するためには、一般的には単離収率と各種スペクトルなど、純粋な目的の化合物のデータが必要だからです。そのため、他の化合物と分離し、不純物を除いて精製する方法がたくさん知られています。

化学工学の力で分離する、大スケールで反応をかける、目的化合物の収率を向上!、さらには気合で精製!

これらも解決法ですが、実験室で行えて、スケールを変えず、収率アップもせず、そして精神論なしにいければうれしいですね。

そこで、今回は意外と忘れているかもしれない

  1. 同じ分離・精製方法でも一工夫する
  2. 異なる分離・精製方法を用いる
  3. 望みでない不純物を違うものに変える
  4. そもそも分離しなければいけないものを出さない

の4つの方法をもう不純物・副生成物と別れたい!(分けたい)と思っているそこの貴方にお届けしましょう(ただし、誌面の都合上、ほんの一部の例のみになりますのでご了承を)。

同じ精製方法でも一工夫する

実験室でもっとも使われる有機化合物の分離・精製方法といえば、やはりシリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーでしょう。基本的な操作などは、過去記事にあります。(過去記事:今さら聞けないカラムクロマト)

経験によるところもあり、卓越したテクニックは人まかせですが、それ以外で注目したいのが、シリカゲルの粒子径

シリカゲルと極性官能基の吸着・脱着で分離をしているので、たくさんシリカゲルと触れたほうがよい。つまり、粒子径が小さければ小さいほど、シリカゲルの表面積が大きくなり、化合物と触れやすい。結果的に分離しやすくなるわけです。どうしても分けれない場合は粒子径の小さいものを使ってはいかがでしょうか。

具体的には、以下の例。主に2つの化合物の混合物。シリカゲルの粒子径25μmのカラムを使うと、2つのピークは分かれませんでした。同条件で、粒子径15μmのカラムを使うと、大変きれいに分離することができました。

粒子径を小さくすると分離可能になる

 

あとは、スピードですね。ゆっくりグラジエントをかけて精製するのも手ですが、あまりにも遅すぎると拡散してしまうので、できるかぎり速く行うことです。

手動で行う場合もまだ多いと思いますが、最近は中圧分取精製装置によって、高速かつ粒子径の細かいディスポカラムを使えば、人的なブレが少なく、化合物を分離・生成できます。

同じ、シリカゲルを用いる化合物の分離・精製方法に分取薄層クロマトグラフィー PTLCもあります。UVのある化合物の場合、チェックしたTLCと同様に確認でき、好きなときに該当部分のシリカゲルを掻き取り、溶出すれば純粋な化合物を手に入れることができます。

化合物を分離しにくい場合は、分析用のTLC版を半分に切った「ミニ板」を使うことをおすすめします。1枚10mg程度しか分離・精製出来ませんが、まさにTLCと同じ様に分離可能です。さらに、溶媒の展開速度も速いため、展開溶媒の極性を落として、展開・乾燥を何度も繰り返すことで、目的の化合物と副生成物および不純物の極性がより離れていきます。経験上、そこそこの極性化合物でシリカゲルが適用できる場合は99%の化合物がこの方法で分けることが可能です。

異なる分離・精製方法を用いる

粗生成物の精製=クロマトグラフィで精製する

になっていませんか。シリカゲル精製は有能ですが万能ではありません。揮発性の高いものですと減圧蒸留する、抽出分離で有機層と水槽に分ける、固体なら再結晶をするなんて、学生実験でも習う古典的な方法がもっとも効果的な場合もあります。化合物の特徴をしっかり見分けることが最も重要になります。

ちなみに古典的な方法の中でも、私が好きなものは溶媒を使ったTriturationです。目的の化合物が固体であり、ある溶媒に溶けにくい場合、その溶媒をいれて、粉砕洗浄し、溶媒を取り除くのみでほぼ純粋な化合物を得ることができます。逆に不純物が溶けにくい場合は、その溶媒で洗浄し、濃縮すればきれいになりますね。大量スケールでも対応でき、意外と使えます。もっとも100%近く純粋になるかといえば、それは難しいので、ざっくりとした分離・精製方法ともいえるかもしれません。

一方、そこまで古典的な手法でないものとしては、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)があります。同様に学生実験(タンパク質の分離など)でも習う手法ですが、分子の大きさを利用して化合物を分離・精製する手法です。

低分子にももちろん利用することができ、リサイクル分取HPLCと組み合わせることによって、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでは難易度が高い化合物の分離を実現できます。化合物の大きさで分離するので、同じような分子量では分けられないのか?といったら意外に分けれます。

具体的には、以下の化合物。飽和/不飽和スルフィドの混合物でシリカゲルカラムクロマトグラフィーでは分離が困難でした。E/Zを分ける銀イオンクロマトグラフィーなどありますが、今回はGPCを用いて何度かリサイクル分取HPLCをかけることで、スムーズに分離することができました。

GPCで分離

望みでない不純物を違うものに変える

 いろいろな分離手法を用いたけど分離できない=狭義の分離

となっていませんか?最終的な目的はなんでしょう?目的の化合物をきれいにもってくること?それならば、反応させるのもの1つの手です。不純物や副生成物の構造がわかっているか、否かによりますが、わからない場合はいっそのこと、目的の化合物が反応しない(しなさそうな)反応剤をいれてみましょう。分離したい化合物のみが反応して、精製が簡単になるかもしれません。

そんな場当たり的な。と思われる方もいると思いますが、個人的な意見としては、この方法とっても好みです。反応よりきれいな化合物を得ることができたことことは何度もありますし、実際反応しないと思っていた化合物が反応し、面白い化合物や次のアイデアにつながる化合物に変換されたこともあります。

例:

  1. 不純物がα,β-不飽和化合物の場合:ジメチルアミンを過剰量作用させて、アミンマイケル反応。極性を変えて分離する。
  2. 不純物のみがケトンをもつ場合:水素化ホウ素ナトリウムやTMCSNなどを作用させて還元もしくは付加。極性を変えて分離する。
  3. 不純物のみがアミンをもつ場合:(Boc)2Oを作用させて、Boc保護。極性を変えて分離する。

反応により化合物を分離する実例

 

過去記事にあるアルデヒドを精製する手法も、反応させてアルデヒドを除く(もしくはアルデヒドを精製する)一つの手法ですね。(過去記事:アルデヒドを分液操作で取り除く!

そもそも分離しなければいけないものを出さない

そもそも変なものをいれず、副生成物も出さなければよい

 まさに新反応開発の目的ですね。触媒量で反応させ、余分な化合物が副生成しないようにしてしまえばいいわけです。言うは易く行うは難しですが、その方が効率が良いので、新しい反応が次々と開発されているんですね。

例えば、有名な話だと、Wittig反応。最終的にトリフェニルホスフィンオキシドが生成されます。これを除くのは一苦労。さらに生成物と同じ量のゴミを生成するわけです。そこで、そのトリフェニルホスフィンオキシドを触媒量に低減させる試みがたくさん報告されています。細かい話は以下の総説をご覧あれ。

  1. Lao, Z.; Toy, P. H. Catalytic Wittig and Aza-Wittig Reactions. Beilstein J. Org. Chem 2016, 12, 2577–2587. DOI: 10.3762/bjoc.12.253
  2. Longwitz, L.; Werner, T. Recent Advances in Catalytic Wittig-Type Reactions Based on P(III)/P(v) Redox Cycling. Pure Appl. Chem. 2019,  91,  95–102. DOI: 10.1515/pac-2018-0920

また、ゴミ(トリフェニルホスフィンオキシド)をきれいに除くだけですが、実践的に利用できる方法として、近年塩化亜鉛を加える方法が報告されています。生成物とトリフェニルホスフィンオキシドが入った溶液に、エタノールと塩化亜鉛を加えると塩化亜鉛とトリフェニルホスフィンオキシドが反応し、固体として析出します。それをろ別するだけできれいになるわけです。

論文より引用

  • Batesky, D. C.; Goldfogel, M. J.; Weix, D. J. Removal of Triphenylphosphine Oxide by Precipitation with Zinc Chloride in Polar Solvents. J. Org. Chem. 2017, 82, 9931–9936. DOI 10.1021/acs.joc.7b00459

同じ様に、副生した化学量論量のゴミが問題となるのが、光延反応。上述したトリフェニルホスフィンオキシドに加えて、アゾジカルボン酸ジエチル(DEAD)の還元体も生じてもう大変。とってもいい反応ですが、分離が困難なことが往々にしてあります。これも2つを触媒量減ずる試みがなされていましたが、最近、かなり効率のよさそうな触媒反応が報告されました。2つとも触媒量に減らすことができたのです。これも詳細は論文を参照のこと。

論文より引用

 

  • Beddoe, R. H.; Andrews, K. G.; Magné, V.; Cuthbertson, J. D.; Saska, J.; Shannon-Little, A. L.; Shanahan, S. E.; Sneddon, H. F.; Denton, R. M. Redox-Neutral Organocatalytic Mitsunobu Reactions. Science 2019, 365, 910–914. DOI: 10.1126/science.aax3353

まとめ

分離・精製はテクニックが必要です。ただ、それ以上に頭を使って化合物の性質を見極めること。これがいらないものとおさらばできる最良の”方法”であると言えます。

 

他のコラボレーション記事(全10回予定)

第一回有機合成に活躍する器具5選

第二回:実験でよくある失敗集30選

第三回使っては・合成してはイケナイ化合物

第四回お前はもう死んでいる:不安定な試薬たち

第五回:本記事

関連記事 (有機合成テクニック集ケムステ版ー分離・精製

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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