[スポンサーリンク]

スイス

アルミニウム工業の黎明期の話 -Héroultと水力発電-

[スポンサーリンク]

Gakushiです。これまでもケムステではアルミニウムについて様々な視点から取り上げてきました。1. アルミニウム 2. アルミに関する一騒動 ~約20年前の出来事~ etc…今回は、ヨーロッパでのアルミニウムの精錬に関して、黎明期から現代に至るまでの歴史の話をしてみたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

アルミの精錬の歴史

アルミの利用は、1886年4月アメリカ人のHallとフランス人のHeroultが独立にアルミの精錬の方法を考案することに始まります。Hall–Héroult process(ホール–エルー法)として知られる本法は、現在でも唯一実用化されているアルミニウムの精錬方法です。ホール、エール法ではバイヤー法により得た酸化アルミニウムを主体とする原料を、電気釜の熱により溶融させ電気分解することにより還元し、純粋なアルミニウムを得ます。溶融塩電解法は融解及び電気分解で大量の電気を消費することから、アルミは電気の缶詰とまで呼ばれています(アルミナ1tにつき15000kWh)。とにかく、アルミの製造には安定的な電力源の確保が絶対不可欠な訳でありまして、発明からの工業化について今回の記事では簡単に見ていきたいと思います。

ホールエール法

Paul (Louis-Toussaint) Héroult

Paul Heroult

 

ポール エルー (1863年4月10日生、1914年5月9日没) はフランスの化学者。アルミニウムの精錬法(ホール–エルー法)を始め、主にスクラップ鉄の製鉄法の一つである電気溶融炉法(EAF)の開発や、水力発電事業への貢献で知られる。
1878年 アルミの精錬に関するHenri Sainte-Claire Devilleの論文を読みアルミの精錬について研究を開始する
1886年 電気溶融アルミニウム精錬法の特許を取得
1990年 鉄の工業的精錬法の一つである電気炉製鋼法の工業化に成功

水力発電とアルミの精錬

ホール・エルー法を開発したHeroult、技術は確立したものの、当時はどうやって工業化するのかで苦労した模様です。一つ目の課題は、溶融塩電解に必要な発電機と、電解槽の調達でした。この頃にはこれらの製造技術は確立されており、当時世界のこの分野で最先端を走っていたZurichの企業に依頼することで解決します。一方で二つ目の課題の、どうやって大電力を確保はかなり大変だった模様です。実際、イギリスのクラッグサイド世界初の水力発電所ができ近くの屋敷に明かりを灯したのはHeroultがアルミの工業化に成功する10年前の1878年。その後水力発電が急速に広まったとは言え、アルミの精錬に必要な大電力が得られる地域はおろか、電力が得られる場所はヨーロッパでもかなり限られていたようです。

良い電力源を見つけられず困っていたHeroultでしたが、1887年の春、転機が訪れます。発電機の発注から数ヶ月後の当時、Heroultは完成品のを見るためチューリッヒの工場を視察し、会社の社長のPeter Emilhuber-Werdmüllerと出会います。その際、Peterはアルミの原材料としての需要とホールエール法の将来性を見抜き、知り合いのエンジニアGustave Navilleとラインの滝の水力発電事業の利権を持つGeorg Robert Neherとの協業を提案します。これにより懸案であった電力の問題を棚から牡丹餅的に解決したHeroultは1888年、アルミ精錬の工業化を世界で初めて成功させました。
この黎明期のアルミ工業を支えたラインの滝はスイス北部、シャフハウゼン近くNeuhausen am Rheinfallに位置しています。この滝は高さが23mしかありませんが、写真のように水量が多く、アルミの精錬だけでなく近隣の街であるシャフハウゼンという町の工業化にも貢献しました。現在ではこの滝は人気の観光地となっているので、スイスに来る機会があればぜひ行ってみてください。

Rheinfall

Alusuisse

彼らが起業したAluminum Industrie AGによるアルミのビジネスは成功し、ドイツからの投資により規模拡大を図ります。しかしながら、得られる電力量がすぐに限界に達したのに加え、労働者賃金の上昇により生産コストが増大したことにより移転を余儀なくされます。そこで、経営者らは水力エネルギーがより豊富に得られ、賃金の安いスイスアルプスの中心地Wallis州に工場を建設しました(1908年)。同時期、Wallis州では相次いでダムが建設され豊富な電力が得られるようになり、アルミの生産は安定期に入りました。1907年に、Alusuisseはアルミの圧延法の開発によりアルミ箔を世界で初めて製造、それまで使われていた錫箔の代わりに様々な用途に使われるようになります。1962年には同州Stegに第二工場を建設し、その他アルミ製品を送り出しました。

Alusuisseの工場。奥側に見えるのが水力発電施設。(Credit: Commune de Chippis)

アルミ業界の再編

しかし、いくら電力が得られると言えど、場所はヨーロッパの内陸国スイスです。人件費も諸外国に比べて高ければ、大量のアルミナの調達においても競争不利となり、1980年代後半からこれらの工場でのアルミの生産は厳しくなり、1993年アルミの生産は打ち切られました。その後Alusuisseは1970年に合併していたWallis発祥の化学系会社Lonzaと1999年分離、翌年の2000年にカナダのAlcanと合併しました。その頃からアルミ業界の再編は急速に進み、さらにAlcanは2007年Rio Tintoと合併し、Rio Tinto Alcanとなり世界最大のアルミニウム企業となっています。

ちょっと古いですが、業界の勢力図はこんな感じ。(credit: US sec. gov)

関連書籍

関連リンク

Gakushi

投稿者の記事一覧

東京の大学で修士を修了後、インターンを挟み、スイスで博士課程の学生として働いていました。現在オーストリアでポスドクをしています。博士号は取れたものの、ハンドルネームは変えられないようなので、今後もGakushiで通します。

関連記事

  1. 温和な室温条件で高反応性活性種・オルトキノジメタンを生成
  2. 超一流誌による論文選定は恣意的なのか?
  3. 第98回日本化学会春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Pa…
  4. 2011年イグノーベル賞決定!「わさび警報装置」
  5. ボタン一つで化合物を自動合成できる機械
  6. 有機合成化学協会誌2019年4月号:農薬・導電性電荷移動錯体・高…
  7. 2014年ノーベル化学賞・物理学賞解説講演会
  8. 学会に行こう!高校生も研究発表できます

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. トーンカーブをいじって画像加工を見破ろう
  2. ノーベル化学賞2011候補者一覧まとめ
  3. クルチウス転位 Curtius Rearrangement
  4. ベンジル酸転位 Benzilic Acid Rearrangement
  5. 世界的性能の質量分析器開発を開始
  6. ノーベル化学賞を受けた企業人たち
  7. トリクロロアニソール (2,4,6-trichloroanisole)
  8. 多核テルビウムクラスターにおけるエネルギー移動機構の解明
  9. 局所的な“粘度”をプローブする羽ばたくFLAP蛍光分子
  10. メントール /menthol

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

注目情報

注目情報

最新記事

「未来博士3分間コンペティション2020」の挑戦者を募集

科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業(次世代研究者育成プログラム)「未来を拓く地方協奏プラ…

イグノーベル賞2020が発表 ただし化学賞は無し!

「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる業績」に対して贈られるノーベル賞のパロディである「イグノーベル…

電子実験ノートSignals Notebookを紹介します ②

前回に引き続き(間がだいぶ空いてしまいましたが、、、)Signals Notebookの使い…

化学者のためのエレクトロニクス講座~有機半導体編

このシリーズでは、化学者のためのエレクトロニクス講座では半導体やその配線技術、フォトレジストやOLE…

第120回―「医薬につながる複雑な天然物を全合成する」Richmond Sarpong教授

第120回の海外化学者インタビューは、リッチモンド・サーポン教授です。カリフォルニア大学バークレー校…

DNAナノ構造体が誘起・制御する液-液相分離

第274回のスポットライトリサーチは、佐藤佑介 博士にお願いしました。液-液相分離は近年の一…

常圧核還元(水添)触媒 Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)

一般的な特長Rh-Pt/(DMPSi-Al2O3)は、優れた活性を示す水素還元(水添)触媒です。…

世界最高の耐久性を示すプロパン脱水素触媒

第273回のスポットライトリサーチは、北海道大学触媒科学研究所・中谷勇希さんにお願いしました。…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP