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化学者のつぶやき

単結合を極める

炭素原子間に単結合を形成する方法、あなたはいくつ知っていますか?
求電子剤および求核剤を用いた当量反応や、金属触媒を用いたカップリング反応など、いろいろありますよね。分子内のどの位置にどのように狙った結合を作るか試行錯誤する、化学者なら何度もそんな経験をしたことがあることでしょう。
周期表上に並ぶ元素を、LEGOブロックの如く思い通りに組み合わせることは化学者の夢です。
様々な研究分野がありますが、結局は、あらゆる結合を思い通りに切断・形成する技術が確立できれば、日々繰り広げられている最先端の化学研究は、もっと飛躍的に発展すると思います。

即ち、結合形成を極めることは、基本にして究極の化学戦略だと言えるではないでしょうか。

と・こ・ろ・が、実際には多くの制限がジャーマンsuplexするのです。

ホウ素-ホウ素結合の強さ

近年の目まぐるしい技術の発達により、炭素-炭素間に結合をつくる手法は多岐に渡ります。
では、ホウ素原子間に結合を形成させる手法は、いったいどのくらい知られているのでしょう?

一般的なホウ素-ホウ素単結合の結合解離エネルギーは、293 kj mol-1と見積もられていて、この値は、炭素-炭素単結合(345 kj mol-1)より少し小さく、ケイ素-ケイ素単結合(222 kj mol-1)と比べるとかなり大きな値であることがわかります。即ち、B-B結合は比較的強い結合だということができます。
ところがB-B結合を精密に形成させる手法は、炭素の系と比べると非常に限られています。
現代の合成技術を以てしても、きれいにB-B結合を作るのって難しいのです。
まず、前駆体が扱い難いことが多々あり、また、予想できない副反応が進行したり、収率が異常に低かったり、と なかなか思うように進行しません。
その理由のひとつが、ホウ素上の2p軌道だと考えられます。空の軌道が邪魔するんですよ、空なのに。
一方で、この空の軌道をうまく制御することで、ホウ素間にスマートに結合を作る手法も開発されつつあります。

今回、B-B結合形成の化学について、最近の成果も含めてざっくりレビューしたいと思います。

B-B単結合形成方法

まず、B-B結合形成の古典的な手法でとして、「ハロボランの還元的カップリング」があります。ジボランを工業的に生成する際に用いられている手法ですが、強い還元剤を必要とするため、官能基に制限があったり、過剰還元による収率の低下などのデメリットがあります。
また、詳細な反応機構は未だに解明されておらず、以下の二つの反応経路が提唱されています。
(1)一電子還元によって発生したボリルラジカル種どうしのカップリング
(2)二電子還元によって発生したボリルアニオン種による求核置換

fig 20160513-1

(2)に関連して、単離可能なボリルアニオン種とBF3の反応から2が得られることが報告されています。[1] さらに類似の反応によって、B(sp2)-B(sp3)結合を持つ化合物3の合成と、還元剤として利用した反応例も報告されています。[2]

次に、特殊な例ですが、ボリレン-遷移金属錯体中でボリレン配位子同士がカップリングすることによってB-B結合を形成する手法が知られています。Braunschweigらは、一酸化炭素雰囲気下で、マンガン錯体4に光照射することで、二つのホウ素が架橋した錯体を合成しています。[3] また、類似の条件下で鉄錯体6を加熱することにより、4つのホウ素が鎖状に繋がった配位子をもつ錯体を得ることにも成功しています。[4]

fig 20160513-2

次の例は、水素化ホウ素を脱水素的にカップリングさせる手法です。
Braunschweigらは、均一系または不均一系触媒を用いて、ピナコールボランおよびカテコールボランのカップリング反応によるジボランの合成を達成しています。[5] ここで用いられた金属はニッケルや白金、パラジウムなど。この反応では、加水分解性の高いハロゲン化ホウ素化合物を出発原料に用いる必要がないので、比較的取り扱いやすい反応のように思えます。また、この反応をちょっと工夫すれば、非対称なジボランをクロスカップリングで作ることも可能な気がしますがいかがでしょうか。

fig 20160513-3

一方で、Himmelらは、NH結合を持つ塩基が付加したボラン(BH310の二量化によって、二つのキレート配位子で安定化されたジボラン12を合成しています。[6] この化合物は、11の脱水素化によっても得ることができます。

ごく最近開発された方法として、ジボレンのヒドロホウ素化があります。[7]
炭素不飽和結合へのヒドロホウ素化反応は、歴史も古く確立された反応ですが、ホウ素不飽和結合に対しても同様の反応が進行することは興味深いですね。非対称なジボレンを用いて、位置選択制なども比較できると面白いことでしょう。ま、前駆体となるジボレン13を用意しなくてはいけないのでアレですが、この方法では一気に三つのホウ素原子が連なった骨格14を形成できる特徴があります。

fig 20160513-4

ここまでは、中性な生成物を与える方法でした。
以下は、主に還元条件下におけるB-B結合形成を経た、ジボランジアニオン種の合成を紹介します。

B-B単結合を持つジアニオンの合成

今から20年前の1996年、Powerらは、ターフェニル基が置換したジブロモボラン15とカリウムグラファイトの反応から、ボラフルオレン二量体16が得られることを報告しています。[8] ホウ素原子は形式的にsp3混成であることから、二つのホウ素周りはエタンと等電子状態と捉えることができます。ジアニオン種なので電荷反発が予想されますが、(アニオン)ラジカルでいるよりも結合を形成した方が、より安定だということでしょう。

fig 20160513-5

また、B-H-B結合を持つボラン二量体17とリチウムナフタレンとの反応からは、18を得ることができます。[9] 前駆体に二つの架橋型B-H-B結合があるため、ホウ素近傍に電子を溜め込んでおくことができ、そこへ結合形成に要する電子をさらに与えることでうまくB-B結合を作っています。この反応からわかるとおり、二つのホウ素原子が近接する状況下で電子を注入すると、ホウ素間に結合を形成させることができるんですね。

Wagnerらは、B-H-B結合を持たない前駆体19に対しても、同様の手法でB-B結合を作る(化合物20)ことができると報告しています。[10] 

fig 20160513-6

さらに、あらかじめπ系分子にホウ素ユニットを埋め込んだ化合物21を用いて、還元金属を変えることで二重結合22、単結合23を選択的に形成させることにも成功しています。[11]

最後に、Finze、Bernhardtらは、ボレート24の還元的カップリングによってヘキサシアノジボランジアニオン種26が得られることを報告しています。[12] 化合物262425からの反応でも得ることができ、ラベル実験によって、25が還元剤としてでは無く求核剤として作用し、SN2機構によって反応が進行していると提唱しています。

fig 20160513-7

まとめ

ざっくり紹介しましたが、ご覧のとおり、特殊な系を多く含んでいますよね。汎用性の高い手法を確立するためには、これからも基礎研究に注力する必要があるのが現状です。ホウ素は電気陰性度や価電子数が炭素と異なるので、B-B結合を直鎖状·分鎖状につなぎ合わせ自由自在にポリホウ素鎖を分子内へ組み込むことができると、機能性分子の創生に繋がると考えられます。シンプルな単結合を極めた先に新しい化学が広がることを期待できるなんて、ワクワクしますね。

参考文献

[1] Y. Hayashi, Y. Segawa, M. Yamashita, K. Nozaki, Chem. Commun., 2011, 47, 5888–5890. DOI: 10.1039/C1CC11334H
[2] K.  Nozaki, Y. Aramaki, M. Yamashita, S.-H. Ueng, M. Malacria, E. Lacôte, D. P. Curran, J. Am. Chem. Soc., 2010, 132, 11449–11451. DOI: 10.1021/ja105277u
[3] (a) H. Braunschweig, R. Shang, Inorg. Chem., 2015, 54, 3099−3106. DOI: 10.1021/acs.inorgchem.5b00091; (b) K. K. Pandey, H. Braunschweig, R. D. Dewhurst, Eur. J. Inorg. Chem., 2011, 2045–2056. DOI: 10.1002/ejic.201001200; (c) H. Braunschweig, M. Colling, C. Hu, K. Radacki, Angew. Chem. Int. Ed., 2002, 41, 1359–1361. DOI: 10.1002/1521-3773(20020415)
[4] H. Braunschweig, Q. Ye, A. Vargas, R. D. Dewhurst, K. Radacki, A. Damme, Nat. Chem., 2012, 4, 563–567. DOI:10.1038/nchem.1379 
[5] H. Braunschweig, F. Guethlein, Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 12613–12616.
[6] (a) N. Schulenberg, H. Wadepohl, H. J. Himmel, Angew. Chem. Int. Ed., 2011, 50, 10444–10447. DOI: 10.1002/anie.201104834; (b) N. Schulenberg, O. Ciobanu, E. Kaifer, H. Wadepohl, H.-J. Himmel, Eur. J. Inorg. Chem., 2010, 5201–5210. DOI: 10.1002/ejic.201000637; (c) O. Ciobanu, E. Kaifer, M. Enders, H.-J. Himmel, Angew. Chem. Int. Ed., 2009, 48, 5538–5541; DOI: 10.1002/anie.200901842.
(d) O. Ciobanu, P. Roquette, S. Leingang, H. Wadepohl, J. Mautz, H.-J. Himmel, Eur. J. Inorg. Chem., 2007, 4530–4534. DOI: 10.1002/ejic.200700507
[7] H. Braunschweig, R. D. Dewhurst, C. Hörl, A. K. Phukan, F. Pinzner, S. Ullrich, Angew. Chem. Int. Ed., 2014, 53, 3241–3244. DOI: 10.1002/anie.201309325
[8] W. J. Grigsby, P. P. Power, J. Am. Chem. Soc., 1996, 118, 7981−7988. DOI: 10.1021/ja960918j
[9] (a) Y. Shoji, S. Kaneda, H. Fueno, K. Tanaka, K. Tamao, D. Hashizume, T. Matsuo, Chem. Lett. 2014, 43, 1587−1589. DOI: org.10.1246/cl.140507; (b) Y. Shoji, T. Matsuo, D. Hashizume, M. J. Gutmann, H. Fueno, K. Tanaka, K. Tamao, J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 11058−11061. DOI: 10.1021/ja203333j
[10] A. Hübner, T. Kaese, M. Diefenbach, B. Endeward, M. Bolte, H.-W. Lerner, M. C. Holthausen, M. Wagner, J. Am. Chem. Soc., 2015, 137, 3705−3714. DOI: 10.1021/jacs.5b01192
[11] T. Kaese, A. Hübner, M. Bolte, H.-W. Lerner, M. Wagner, J. Am. Chem. Soc., 2016, 138, (ASAP). DOI: 10.1021/jacs.6b02303.
[12] J. Landmann, J. A. P. Sprenger, M. Hailmann, V. Bernhardt-Pitchougina, H. Willner, N. Ignat’ev, E. Bernhardt, M. Finze, Angew. Chem. Int. Ed., 2015, 54, 11259–11264. DOI: 10.1002/anie.201504579

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