[スポンサーリンク]

ケムステニュース

進め、分子たち!第2回国際ナノカーレースが3月に開催

[スポンサーリンク]

 分子を車に見立てて移動させて競う「国際ナノカーレース」に、物質・材料研究機構のチームが再び挑む。レースは3月下旬にフランスで開かれる。5年前の第1回大会では途中棄権に終わっており、メンバーたちは雪辱を期している。 (引用:朝日新聞1月26日)

車やバイクではなく分子を操り、基板上の移動距離を競うナノカーレースは2017年に第一回大会が開催され、大きな注目を集めました。そして、そのナノカーレース第2回の開催が3月下旬に予定されており、出場する各チームは着々と準備を進めています。本ケムステニュースでは、ナノカーレースの内容や、第一回大会の様子、第二回大会の概要と出場予定のチームについて紹介します。

ナノカーレースとは

ナノカーレースは、その名の通りナノサイズの車を走らせる競技です。レースで使用する車両は条件を満たした1分子であり、各チームが走行に適した分子構造をデザインし、合成を行います。もちろん人間の目で車両を見たり、手で動かすことはできないので特別な環境でレースは行われます。まず会場は真空チャンバーの中であり、レースの障害となるゴミを極限まで減らしたクリーンな環境で行われます。コースは金や銀の基板でできていて、ミニ四駆のコースのように1分子に適した幅のレーンが形成されています。第1回ではジグザグ状のコースが微細加工によって作られ、真空チャンバー内で粉末状か溶媒に溶かした状態の車両分子を加熱して蒸着することで金の基板に配置させました。

コースと分子マシンの配置方法の解説

車両の確認には走査型トンネル顕微鏡(STM)を使用し、基板上の分子の位置を調べます。また分子を動かす駆動力について、機械的に動かすことは簡単すぎるのでスタートラインに分子を動かす時以外は禁止されており、STMの尖った探針を近づけて電気を与えて動かします。そして各チームが一つの部屋に集まり、共通のパソコンでSTMを遠隔操作し、分子を操作したり移動距離を測定します。

14:34~15:17にてSTMでナノカーを動かすイメージ紹介

このように、ナノカーレースは有機化学と表面物理学の力を結集させて戦うレースです。

第一回大会の結果

第一回大会は2017年の4月に行われ、日本、アメリカ、フランス、ドイツ、スイス、オーストリアの合計6つのチームが参加しました。

日本のチームとしては物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(NIMS・MANA)に所属する研究者の方が参加しました。

結果としては、オーストリア/アメリカのチームとスイスのチームが完走したとして優勝し、残念ながら日本のチームは、制御ソフトウウェアのクラッシュによって走行できませんでした。複雑な構造の分子を持ち込んだフランスのチームは移動できなかった一方で、比較的シンプルなピリジン誘導体を使ったスイスのチームが優勝するというナノカーの分子設計の難しさを実感させられる結果となりました。

第二回大会について

第一回大会後から第二回開催の検討が進められ、8つのチームの参加が2020から2021年にかけて認められました。大会のルールについてレースの大枠は同じですが、

  • レース会場(チャンバー内の環境)が極低温+高真空(LT-UHV)だけでなく、Ambientコンディションが追加
  • Ambientのレース時間は4時間で、LT-UHVは24時間
  • レーシングカーだけでなく分子を運ぶトラックでの競争も追加
  • レーシングカーはスラロームでトラックは直線を走行し走行距離を競う
  • 車両の分子量は100から1000で、車両の前後が判別できる分子構造を有する
  • LT-UHVでは、クラシックな車輪とモーターか量子モーターの二つのタイプの車両が登録できる
  • チームは会場のトゥールーズから自拠点のSTMを遠隔操作してナノカーを運転する

といった違いがあるようです。

第二回大会の参加チーム

第一回大会勝者のアメリカ・オーストリア連合チームのAMERICAN-AUSTRIAN NANOPRIXは、少し名前を変えてRice-Graz NanoPrixとして参戦します。また惜しくも三位となったアメリカのOHIO BOBCAT NANO-WAGONはほぼ同じ名前で参戦します。前回4位のドイツのNANO-WINDMILL COMPANYは、チーム名をGAZEとして優勝を目指します。そして惜しくもリタイヤとなってしまった日本のNIMS-MANAも同名で参戦し前回の雪辱を果たします。日本と同様に走行できなかったフランスのTOULOUSE NANOMOBILE CLUBは、日本の奈良先端科学技術大学院大学との連合チームとし、チーム名もTOULOUSE-NARAとして優勝を目指します。そのほかスペインの2チーム、SAN SEBASTIANNANOHISPA、とフランスのStrasNanocarが新規に参戦します。

NIMS-MANAのチームは、前回のナノカーを改良してレースに挑みます。チーム公式Webページでレース参加をアピールされており、またユニフォームや応援グッズが準備できていることをTwitterにて報告しています。

一方のTOULOUSE-NARAも、前回のナノカーの車輪の構造を残しつつ、タイヤを二つにしたシンプルな構造で走行を目指します。

チームリーダーのGwénaël Rapenne教授は、昨年の11月にNIMSを訪れ、NIMS-MANAチームリーダーの中山 知信教授やNanocar Race 2 Committeeの有賀 克彦教授らと熱い情報交換を行ったそうです。

上記2チームを含む、8つの参加チームは2021年11月23日に開かれたNanoCar Race II official Presentationにてチームや車両の紹介を行いました。

NIMS-MANAチームの発表は21:57頃から、TOULOUSE-NARAの発表は28:27頃からスタート

第一回大会では、各チームのインタビューや実況中継がなされ、大変な盛り上がりを見せました。興味深い点は、イベントパートナーとしてナノテクや半導体関連の企業・団体だけでなく、MichelinTotalといった車に関連する企業が名を連ね、チームスポンサーにはなんとToyotaPSAVolkswagenといった自動車メーカーが入り、各チームを支援している点です。もはや本物のカーレースと同格といっても過言ではないかもしれません。すでにTOYOTAは、NIMS-MANAのスポンサーとなることが公表されており、第二回大会も各社の支援に期待します。

このイベントは基礎研究の一環という立ち位置ですが、金属表面ので有機分子の振る舞いを自由自在に操れるようになれば、分子マシンの実用化が進むのではないでしょうか。STMが必要なのでどの研究室でも取り組める活動ではありませんが、かつておもちゃ屋に常備されていたミニ四駆のコースのように、それぞれのナノカーを持ち込んでレースができるような環境があれば、有機合成の研究室が参戦でき面白いと思います。第2回国際ナノカーレースに関して気になるのはやはりコロナウィルスによる渡航の制限であり、開催予定の3月24日25日には各チームがフランスに集まれる状況になり、無事開催されることを願うばかりです。そして開催された暁には、日本チームをぜひ応援したいと思います。

関連書籍

[amazonjs asin=”4000111779″ locale=”JP” title=”岩波講座 物理の世界〈ものを見る、とらえる1〉走査トンネル顕微鏡技術”] [amazonjs asin=”4759813861″ locale=”JP” title=”分子マシンの科学―分子の動きとその機能を見る (CSJ Current Review)”]

関連リンク

 

 

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 抗がん剤などの原料の新製造法
  2. 藤沢の野鳥変死、胃から農薬成分検出
  3. 三共・第一製薬の完全統合、半年程度前倒しを検討
  4. 三井化学、機能性ポリマーのウェブサイト始動
  5. ヤクルト、大腸の抗がん剤「エルブラット」発売
  6. 金大発『新薬』世界デビュー
  7. 子供と一緒にネットで化学実験を楽しもう!
  8. 「抗菌」せっけん、効果は「普通」…米FDA

注目情報

ピックアップ記事

  1. 100年以上未解明だった「芳香族ラジカルカチオン」の構造を解明!
  2. パーフルオロ系界面活性剤のはなし 追加トピック
  3. 特許やぶりの女王 弁理士・大鳳未来
  4. 可視光光触媒でツルツルのベンゼン環をアミノ化する
  5. 中皮腫治療薬を優先審査へ
  6. 変わったガラス器具達
  7. 科学の未解決のナゾ125を選出・米サイエンス誌
  8. 合同資源産業:ヨウ素化合物を作る新工場完成--長生村の千葉事業所 /千葉
  9. 日本化学会 第103春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part1
  10. ニーメントウスキー キノリン/キナゾリン合成 Niementowski Quinoline/Quinazoline Synthesis

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年2月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28  

注目情報

最新記事

コバルト触媒による多様な低分子骨格の構築を実現 –医薬品合成などへの応用に期待–

第 642回のスポットライトリサーチは、武蔵野大学薬学部薬化学研究室・講師の 重…

ヘム鉄を配位するシステイン残基を持たないシトクロムP450!?中には21番目のアミノ酸として知られるセレノシステインへと変異されているP450も発見!

こんにちは,熊葛です.今回は,一般的なP450で保存されているヘム鉄を配位するシステイン残基に,異な…

有機化学とタンパク質工学の知恵を駆使して、カリウムイオンが細胞内で赤く煌めくようにする

第 641 回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院理学系研究科化学専攻 生…

CO2 の排出はどのように削減できるか?【その1: CO2 の排出源について】

大気中の二酸化炭素を減らす取り組みとして、二酸化炭素回収·貯留 (CCS; Carbon dioxi…

モータータンパク質に匹敵する性能の人工分子モーターをつくる

第640回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所・総合研究大学院大学(飯野グループ)原島崇徳さん…

マーフィー試薬 Marfey reagent

概要Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FD…

UC Berkeley と Baker Hughes が提携して脱炭素材料研究所を設立

ポイント 今回新たに設立される研究所 Baker Hughes Institute for…

メトキシ基で転位をコントロール!Niduterpenoid Bの全合成

ナザロフ環化に続く二度の環拡大というカスケード反応により、多環式複雑天然物niduterpenoid…

金属酸化物ナノ粒子触媒の「水の酸化反応に対する駆動力」の実験的観測

第639回のスポットライトリサーチは、東京科学大学理学院化学系(前田研究室)の岡崎 めぐみ 助教にお…

【無料ウェビナー】粒子分散の最前線~評価法から処理技術まで徹底解説~(三洋貿易株式会社)

1.ウェビナー概要2025年2月26日から28日までの3日間にわたり開催される三…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP