[スポンサーリンク]

会告

Merck Compound Challengeに挑戦!【エントリー〆切:2/26】

[スポンサーリンク]

集え、”腕に覚えあり”の合成化学者!!

今回の記事では、全世界の合成化学者と競い合うイベント、Merck Compound Challengeをご紹介します。

どんなイベントなの?

ひとことで言えば「逆合成コンペ」です。提示されるお題化合物の合成経路を各チームが提案し、その優劣を競い合います。評価基準としては、工程数・収率・純度・実現可能性・オリジナリティなどが勘案されます。今年が第3回の開催になります。

トップ10に選ばれた合成経路は、Merck社お抱えのCROが実際に合成検討までしてくれます。その中から最優秀賞に選ばれたチームには、なんと賞金10,000ユーロ(約126万円)が授与されます。超太っ腹な企画です!

逆合成を考えるにあたっては、他者との相談・議論、SciFinderの使用など、あらゆる持ち込みに縛りがありません。参加資格についても縛りは無く、1チーム何人でエントリーしてもOKです。

ただし一つだけ縛りがあります。お題が提示されてから、96時間以内に合成経路を提出しなくてはなりません

第2回参加体験記

昨年(第2回)は、筆者のところでも助教と学生をあつめ、10人チームを作ってエントリしました。しかし残念ながらファイナリストには残れませんでした。

イベントの雰囲気を少しでも感じていただき、エントリーする参考情報になればと思い、第2回の参加体験記を記しておきます。

お題の開示

2020年2月14日(金)に、お題となる化合物が開示されました。2019年に単離構造決定されたばかりの、合成例のない天然物(Melongenaterpenes A, J. Nat. Prod. 2019, 82, 3242)です。見て分かるとおり、とんでもなく難しい・・・というほどでもないですが、不斉炭素が沢山あり、一筋縄ではいかなそうな構造です。皆さんならどうやって作りますか?これを96時間以内でクリアしなくてはいけません。

ルートの提案

day1,2が土日だったこともあり、週末を使って各自ルートを考えてくるよう、メンバーにはお願いしました。

day3の朝に集まって各自考えてきた合成ルートと戦略を共有しあい、最も良さそうなものを一つ選びました。そこから文献調査に入ります。お題はもちろん合成例のないものですが、類縁体となると、実は沢山の合成例が報告されています。こういったものをどこまでパクるか取り入れるか、かなり悩みました。オリジナリティと現実性の狭間にある話なので、企画意図を読んでもどっちに寄せればいいのか良く分からないのです。また、正確な反応条件・適用範囲を調べ始めると、文献調査もかなりの分量になります。チームに10人いることを強みと捉え、メンバーを各工程に振り分け、SciFinderを使った調査を分担して貰いました。計算化学の得意なメンバーには、中間体のエネルギー安定性などを計算して貰い、提案の合理性サポートに貢献して貰います。

それぞれの調査結果をSlack上のチャンネルで共有しながら取り纏め、10人がかりの提案ルートが出来上がりました(下図)。突貫工事にしては、それっぽく出来たでしょうか・・・?

day4の最後に、アンサーシートに回答を記入し、提出しました。委託合成に使いそうなフォーマットそのものに見えます。各工程、1案だけならバックアップも提案して良いルールになっています。当量や実験プロトコルなどそこそこちゃんと書かねばならない感じで、〆切ギリギリでの提出でした。

こんな感じで、1工程ごとにちゃんと書く

評価ラウンド

1ヶ月ぐらいすると、評価ラウンドが始まります。匿名ピアレビュー方式が採用されています。

まず、9チームがランダムで1まとめにされます。それぞれのチームには、(自分たちの分を除く)8チームの提案書が匿名で送られてきます。全ての合成ルートを比較し、1位~8位まで順位付けした評価シートを提出します。

全チームの評価シートをMerck側が集計し、ファイナリストが決定されます。第2回コンペで経路提出まで至ったのは132チームあったようで、ファイナリスト(10チーム)に選ばれるためには、少なくとも9チーム中、トップ評価を得る必要があると言えます。ハイレベルな闘いです。

筆者のチームでは、メンバー各自で好きに順位を付けて貰い、それを平均集計するようなやり方で、グループとしての評価順位を付けました。実際にやってみて分かりましたが、皆の評価は案外バラバラにならず(各自が良いと思うものは似ている)、突拍子もないチャレンジング経路よりは、実現性が高そうで安心感のある経路のほうが、チームの総意として上位に来やすい印象がありました。

実際にやってみてどうだったか?

全合成を専門としていない研究者にとって、96時間という制限時間はかなりキツいです。

土日を挟んでいたこともあり、day3を文献調査、day4に資料を作る計画で組んでしまったため、隙の無いものに仕上げるための精査時間が足りませんでした。

試薬の入手性なども熟慮できておらず(1工程目から非市販の碇屋触媒を持ち出すなど・・・)、当量などの反応パラメータも精査しきれないままに、見切り提出せざるを得ませんでした。CROが参照するような提案書として見れば、完成度もそこまで及ばなかったと感じます。

また実際に文献調査を始めてみると、「もっとショートカットできるのでは?他にも良い方法があるのでは?この前例を参考にしてみては?」などなど、メンバー間の議論が多数勃発してきます。リーダーシップを取る立場からすると、意見の取り纏め・摺り合わせも相応に大変です。時間が限られているので、どこかでクオリティ追究を打ち切らねばならず、そこの見極めも難しいです。

しかし、学生達5~10名を集めて一つの合成課題に向き合わせ、協力的に調査・提案するようなグループワークは、考えて見れば普段のラボ生活にはそうありません。実際に参加してくれた学生達も、各自でかなり楽しんでくれたようで、逆合成力が付くとか賞金がどうたらよりも、このイベントに一丸となって集中的に取り組む過程がもたらす、チームビルディングの強化効能こそが最も得がたい価値だったと感じています。反省を活かして、次回もリベンジ予定です!

第3回のエントリーが始まっています!

第3回のエントリー〆切は2021年2月26日です。下記ページから無料で申し込めます(英語です)。

エントリーページはこちら

エントリー済チームには、2021年3月15日にお題となる化合物が発表されます。96時間以内にアンサーシートを仕上げ、提出すればOKです。

加えて今回からの新たな試みとして、Merck社が提供する逆合成ソフトウェアSynthiaの期間限定使用権が、全ての参加チームに付与されます。取り組みハードルは下がる一方、さらに熾烈な争いになって行きそうな感もありますが・・・ともあれ単にSynthiaを体験してみたいと思う方々にとっても、参加価値がありそうなイベントだと思えます。

日本ではまだまだ知名度の低いコンペなので、我が国発のファイナリストがどんどん出てきてくれればいいのにな・・・と期待しつつ、紹介記事の筆を置きたいと思います。失うものは何も無いですし、合成化学の世界的お祭りだと捉えて、気軽にエントリーしてみてはいかがでしょう!?

謝辞

企画詳細にまでおよぶ掲載許可を頂きました、Merck社に感謝申し上げます。

ケムステ関連記事

ブートキャンプ:かのBaran研でも似たような取り組み(だが内実は遥かにハード)をやっているというお話

外部リンク

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 高収率・高選択性―信頼性の限界はどこにある?
  2. エルゼビアからケムステ読者に特別特典!
  3. アメリカの研究室はこう違う!研究室内の役割分担と運営の仕組み
  4. 機械学習と計算化学を融合したデータ駆動的な反応選択性の解明
  5. 抗ガン天然物インゲノールの超短工程全合成
  6. ケムステチャンネルをチャンネル登録しませんか?
  7. カルボン酸β位のC–Hをベターに臭素化できる配位子さん!
  8. 企業の研究開発のつらさ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 有機化学クロスワードパズル
  2. 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム
  3. ケトンを配向基として用いるsp3 C-Hフッ素化反応
  4. 電気化学的HFIPエーテル形成を経る脱水素クロスカップリング反応
  5. Macユーザーに朗報!ChemDrawとWordが相互貼付可能に!
  6. イミデートラジカルを用いた多置換アミノアルコール合成
  7. ガブリエルアミン合成 Gabriel Amine Synthesis
  8. 新しい2-エキソメチレン型擬複合糖質を開発 ~触媒的な合成法確立と生物活性分子としての有用性の実証に成功~
  9. 光親和性標識 photoaffinity labeling (PAL)
  10. 「オプジーボ」の特許とおカネ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2021年2月
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728

注目情報

最新記事

2024年ノーベル化学賞は、「タンパク質の計算による設計・構造予測」へ

2024年10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、2024年のノーベル化学賞を発表しました。今…

デミス・ハサビス Demis Hassabis

デミス・ハサビス(Demis Hassabis 1976年7月27日 北ロンドン生まれ) はイギリス…

【書籍】化学における情報・AIの活用: 解析と合成を駆動する情報科学(CSJカレントレビュー: 50)

概要これまで化学は,解析と合成を両輪とし理論・実験を行き来しつつ発展し,さまざまな物質を提供…

有機合成化学協会誌2024年10月号:炭素-水素結合変換反応・脱芳香族的官能基化・ピクロトキサン型セスキテルペン・近赤外光反応制御・Benzimidazoline

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2024年10月号がオンライン公開されています。…

レジオネラ菌のはなし ~水回りにはご注意を~

Tshozoです。筆者が所属する組織の敷地に大きめの室外冷却器がありほぼ毎日かなりの音を立て…

Pdナノ粒子触媒による1,3-ジエン化合物の酸化的アミノ化反応の開発

第629回のスポットライトリサーチは、関西大学大学院 理工学研究科(触媒有機化学研究室)博士課程後期…

第4回鈴木章賞授賞式&第8回ICReDD国際シンポジウム開催のお知らせ

計算科学,情報科学,実験科学の3分野融合による新たな化学反応開発に興味のある方はぜひご参加ください!…

光と励起子が混ざった準粒子 ”励起子ポラリトン”

励起子とは半導体を励起すると、電子が価電子帯から伝導帯に移動する。価電子帯には電子が抜けた後の欠…

三員環内外に三連続不斉中心を構築 –NHCによる亜鉛エノール化ホモエノラートの精密制御–

第 628 回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科 分子薬科学専…

丸岡 啓二 Keiji Maruoka

丸岡啓二 (まるおか けいじ)は日本の有機化学者である。京都大学大学院薬学研究科 特任教授。専門は有…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP