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Elsevierのニッチな化学論文誌たち

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ユニークな分野や領域の論文誌を紹介するこの企画、今回はElsevierの化学に関連する論文誌を見ていきます。

はじめに

半年以上前にACSの隠れた名論文誌たちという記事を発表しましたが、今回はそのElsevier版になります。Elsevierからは様々な分野の学術雑誌が出版されているため、ScienceDirectにてChemistryのドメインを持つ雑誌を対象にしました。Chemistryに限定しても267誌もあり、タイトルを見てこんな分野・領域があるんだと思った論文誌をピックアップしました。Zeolinite独断のチョイスですので、広く一般的な論文誌も含まれているかもしれません。

Arabian Journal of Chemistry

地域の名前を冠した論文誌がいくつか出版されており、European Journal of Organic ChemistryAsian Journal of Organic Chemistryなどは有名だと思います。Elsevierから出版されているArabian Journal of Chemistryはそのアラブ地域版で、サウジアラビアとヨルダンの先生方が編集を担っています。特に分野の指定は無いので、有機化学から無機化学、マテリアルサイエンスまで様々な内容の論文が掲載されています。また発表者についても様々な地域のグループが論文を投稿されていますが、他と比べると中東地域やムスリムの国からの投稿が多い気がします。

日本人の研究者からも多く論文が投稿されており、昨年の10月にはCO2 パルスレーザーを使ったスチール表面のNa量の定量に関する論文がインドネシアのチームと共著で発表されています。

CO2 パルスレーザーを使ったスチール表面のNa量の定量に関する研究の実験装置(出典:Quantification of sodium contaminant on steel surfaces using pulse CO2 laser-induced breakdown spectroscopy

Chemical Data Collections

タイトルを見てデータサイエンスに関連する論文誌かと思いましたが、そうではなく実験データの公開に特化した論文のようです。このChemical Data Collectionsは、リサーチマテリアルとデータの容易なシェアと再使用のニーズの増加に対応する論文誌として、データを容易に発見しアクセスできるようにすること、中間的な結果や悪い結果でも公表できること、従来の論文の形式に合わない研究内容でも認識されることを目的に掲げています。

例えば下記の反応を報告した論文では、試薬や使用機器、NMRの帰属といったSupporting infomationに掲載されるのが一般的な情報が本文中に登場します。触媒の種類のスクリーニングやその量の最適化でも、間引くことなくたくさんの結果が掲載されています。基質のスクリーニングでも構造式で結果を表すことが多い中、表が使用されておりコピーしやすいようになっています。

日本のチームからの発表はほとんどなく、徳島大学薬学部分子創薬化学研究室のチームがP-stereogenic phosphonoacetatesの酵素加水分解について発表しているにとどまっています。

Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems

Chemometricsとは数学や統計を用いて最適な方法や実験をデザインし、得られる化学的な情報を最大化することと定義されています。このChemometrics and Intelligent Laboratory Systemsでは、数学や統計を用いた化学研究に特化した論文誌であり、例えばデータアナリスや実験のデザイン、データマイニングなどのトピックが取り扱われています。

例えば、Score-based Quantitative Principal Component Analysisを使用して複数のスペクトルから化合物の定量する方法が発表されています。

レゾルシノールとトリプトファンの濃度の推定値と実測値の違い(出典:Chemical information obtained from multicomponent spectra by means of Score-based Quantitative Principal Component Analysis

日本人の研究チームも多くこの論文誌に結果を発表しており、近年では、明治大学理工学部応用化学科データ化学工学研究室から多くの論文が発表されています。

Forensic Chemistry & Forensic Science InternationalScience & Justice

Theニッチな論文誌であり、どれも法科学に関連した内容を取り扱う論文誌です。3つの論文誌はどちらも化学のドメインを持っていますが、Forensic Science InternationalとScience & Justiceは化学だけでなくより広い分野をカバーしていて、Forensic Chemistryは化学に特化しています。

薬物のその場分析の研究のグラフィカルアブストラクト(出典:Electrochemical detection of MDMA and 2C-B in ecstasy tablets using a selectivity enhancement strategy by in-situ derivatization

どちらの論文誌にも日本人の研究グループが発表した論文がいくつか掲載されています。日本法科学技術学会の場合、警察関係の研究者の方が多く論文を発表されていますが、こちらに関しては薬学の研究グループからの発表が多いようです。

Journal of Food Composition and Analysis

食べ物に関する論文誌はたくさんありますが、このJournal of Food Composition and Analysisはその名の通り食品の化学組成や分析法に特化した論文誌で、生薬や食べ物の物性、食品廃棄物などについては主のトピックとしては除外されています。

日本のチームから発表された論文もたくさん掲載されていますし、日本の環境や食べ物について海外のチームが発表している論文もたくさんあります。例えば、カイワレ大根についてポーランドの研究グループが除草剤の影響を調べています。

カイワレ大根を題材とした研究のグラフィカルアブストラクト(出典:Effect of herbicide stress on the content of tyramine and its metabolites in Japanese radish sprouts (Raphanus sativus)

Marine Chemistry

地球化学は自然について調べる分野であり、その中でも海の環境について取り扱うのがこのMarine Chemistryです。例えば、韓国の研究グループは、日本海の金属元素の濃度について調べています。

島国である日本では海の環境に関する研究が盛んに行われているようで、かなりの論文が日本の研究グループからこのMarine Chemistryに発表されています。

Trend in Chemistry

タイトルからは取り扱う内容が全く分からないTrend in Chemistryは、全ての化学分野に関して大きな影響を与えたり、変革を起こすようなコンセプトの議論する新しいグローバルプラットフォームだとしています。自分が解釈するに、個々の結果や事象を議論するのではなく、大きな新しいコンセプトを持ちだしてきてその可能性を議論する論文誌のようです。例えば、電気活性のある共有結合性有機構造体は有機エレクトロニクスに新しい選択肢になると提案している論文が発表されています。

電気活性のある共有結合性有機構造体の応用例(出典:Electroactive covalent organic frameworks: a new choice for organic electronics

日本の研究者からも投稿されており、2020年には堂免 一成教授が可視光応答型光触媒を使った水の分解について発表しています。

 

自分が普段目にしている論文の分野はほんの一部分でしかなく、化学の中だけでも様々な分野があることをいろいろな論文誌を調べてみて分かりました。そして上記の紹介のために論文誌を読んだことは、自分が知らない研究内容を知ることができて大変面白かったです。ただし法科学の論文では、悲しい研究背景の論文も掲載されており、犯人や薬物常習者を捕まえる正義の武器という面だけではないことを痛感しました。時間があるときに、少し違う分野の論文も読んでみてはいかがでしょうか。新しいヒントが見つかるかもしれません。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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