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化学者のつぶやき

飽和C–H結合を直接脱離基に変える方法

 

炭素—水素(C–H)結合直接変換反応は、分子内に存在するC–H結合を事前の官能基化を必要とせずに変換する反応です。特に遷移金属触媒による触媒的なC-H結合変換反応は現在の有機合成化学の一大潮流となっており、この化学者のつぶやきでも多くのC–H結合直接変換反応を紹介してきました。最近の関連する記事は以下の通り(遷移金属なしも含む)。

さて、研究者の努力によりsp2 C–H結合を変換することは比較的自在にできるようになりましたが、sp2 C–H結合に比べて不活性なsp3 C–H結合の変換は難しく、導入可能な位置や官能基に制限が多いのが現状。望みの位置のsp3C–H結合を変換するためには「配向基」(DG: directing group)と呼ばれる、遷移金属触媒を呼び寄せる “タグ”が必要となります。sp2C–H結合の変換も含めてこれまでに多くの”タグ”が見出されてきました。

最近、テキサス大オースティン校のDongらは、自身で開発した”タグ”を活用することで、アルコールβ位のsp3 C–H結合を様々な求核剤と反応しうる官能基、スルホニルオキシ基に変換する反応を見出しました。今回はこの論文を紹介したいと思います。

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Y. Xu.;  Guobing, Y.; Zhi, R.; Dong, G. “Diverse sp3 C−H Functionalization Through Alcohol β-Sulfonyloxylation”. Nature Chem. 20157, 829-834. DOI: 10.1038/nchem.2326

 

直接sp3C-H結合を使える官能基に変換する(図1)

様々な求核剤と反応しうる官能基といえば、代表的なものはハロゲン原子。例えば、ハロゲン化アルキルの求核置換反応は、分子の誘導化ならびに官能基化におけるもっとも汎用的な手法です。従来のsp3C-H結合を直接ハロゲンに変換する反応は、教科書で習う通り、ラジカル的なハロゲン化反応が主流です。しかしながら、副反応が起きやすく、反応位置の制御が困難であり、一般的に反応は基質特異的に進行します。

一方、近年では、遷移金属触媒を用いた手法が開発されており、パラジウム触媒をもちいた位置選択的なsp3C–Hハロゲン化[1]が報告されてます。同反応は配向基の効果によりカルボニルのβ位にハロゲンが導入されるため、下手をすると酸性度の高いカルボニルα位のプロトンを引き抜き、脱離反応(遷移金属が絡んでいればβ水素脱離)が進行します。つまり、オレフィンとなってしまい、せっかく入れた官能基をうまくつかえません。そのため、基質は脱離反応が起こらないネオペンチル構造に大きく制限されています。

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図1 C–H結合ハロゲン化反応の現状

 

そこで、Dongらは、カルボニル化合物を使わないsp3C–H官能基化反応の開発を目指しました。具体的にはアルコールのβ位に官能基を直接導入する反応です。官能基にはハロゲン等価体である「スルホニルオキシ基(特にトシルオキシ基)」に着目しました。

 

アルコールβ位直接スルホニルオキシ化反応への展開

ヒントとなったのは、著者らは2012年にアルコールを基質として用いた、触媒的sp3 C–H結合酸化反応[2]。配向基としてオキシム構造をもったアルコール誘導体に対して、酢酸パラジウム存在下、酸化剤にジアセトキシヨードベンゼン(PhI(OAc)2)を用い、酢酸/無水酢酸混合溶媒中で反応させる[3]ことにより、β位のC–H結合を選択的にアセトキシ化しました。N–O結合とアセチル基を除去すれば、1,2-ジオールも合成できます。

 

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図2 アルコールβ位の触媒的sp3 C–H結合酸化反応

 

彼らは配向基と反応条件を工夫し、アセトキシ基のかわりにスルホニルオキシ基を導入する反応を開発しました。配向基としては特に、DG1をアルコールに導入することで最も効率よくβ-トシルオキシ化体が得られます。ここで、スルホニルオキシ基は脱離基ですが、カルボニル化合物のように隣に酸性度の高いプロトンがないため、脱離せずそのまま残ります。最終的に酢酸パラジウム触媒存在下、酸化剤にN-フルオロベンゼンスルホンイミド(NFSI)を用い、90 ℃でトシル酸を作用させることにより、対応するトシルオキシ体を収率68%で得ています(図3)。本反応は水及び空気存在下でも進行するとのことです。

 

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図3. アルコールβ位のsp3 C–Hスルホニルオキシ化反応

 

本反応の応用

最適化した反応条件のもと、著者らは基質適用範囲を調査しました。本反応の特長は、より置換基の少ないsp3 C–H結合を選択的にトシルオキシ化する点と、アミノ基やアルケンなど様々な官能基を有するアルコールにも適用できる点が挙げられます。

 

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図3 基質適用範囲の調査

さらに本反応を、ステロイド骨格を持つアルコールに対して応用しました(図4)。その結果、計2段階、総収率42%でスルホニルオキシ化したステロイドを合成することに成功しました。スルホニルオキシ基は御存知の通り様々な求核剤と反応します。実際に求核剤との反応により、9種類のステロイド誘導体を迅速に合成しています。また配向基は、水素添加条件で、高収率でアルコールに戻すことができます。

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図4 ステロイド化合物の誘導化

 

まとめ

本反応は、本来脱離基であるスルホニルオキシ基を、求核的に導入できる点が面白いと思います。さらに、彼らが開発した配向基は、様々な置換基に変換できるスルホニルオキシ基を導入できるだけでなく、アルコールの保護(エポキシ化の抑制)としての役割も担っているところもキーポイントです。独自の”タグ”を用いるsp3C–H官能基化反応の登場でC–H結合官能基化反応に新たなレパートリーが加わりました。

 

関連文献

  1. (a) Giri, R.; Chen, X.; Yu, J.-Q. Angew, Chem., Int. Ed. 2005, 44, 2112. DOI: 10.1002/anie.200462884 (b) Rit. R. K.; Yadav. M. R.; Ghosh, K.; Shankar, M.; Sahoo, A. K. Org Lett. 2014, 16, 5258. DOI: 10.1021/ol502337b
  2. Ren, Z.; Mo, F.; Dong, G. J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 16991. DOI:10.1021/ja3082186
  3. Desai, L. V.; Hull, K. L.; Sanford, M. S. Am. Chem. Soc. 2004, 126. 9542.DOI: 10.1021/ja046831c

 

関連書籍

 

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