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マイクロ波加熱を用いた省エネ・CO2削減精製技術によりベリリウム鉱石の溶解に成功

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国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子エネルギー部門六ヶ所研究所とマイクロ波化学株式会社は、令和3年12月22日、マイクロ波加熱を用いたレアメタルの省エネ精製技術に関する共同研究契約を締結して活動を進めてきました。リチウム鉱山で採鉱し選別された実際のリチウム鉱石であるスポジュミン精鉱の溶解成功に続き、この度、より溶解が困難なベリリウムの実鉱石ベリルを溶解することに成功しましたのでご報告いたします。  (引用:3月30日マイクロ波化学プレスリリース)

マイクロ波化学ではマイクロ波プロセスの研究を行っており、これまでに共同研究などを通じて様々な分野での活用を開拓してきました。今回、ベリリウム鉱石を溶解させる応用で新たな発表がありましたので紹介させていただきます。

化学ではあまり登場しないベリリウムですが実は注目されている元素であり、銅に2%程度添加するだけで、導電性を維持したまま強度がステンレス並みになり、スマホや電気自動車の電子部品、第5世代通信(5G)通信アンテナに使用されているそうです。また、未来の発電方法として研究が進んでいる核融合ではベリリウムが中性子倍増材として重要な役割を担っています。

中性子増倍材の役割とベリリウムの安定確保の必要性(出典:量子科学技術研究開発機構プレスリリース

多くの無機材料は、天然から採掘される原料を精錬して純度を高めてから各製品に使われます。今回の題材となったベリリウムの場合、従来技術では、2,000℃もの高温で鉱石を溶融し、その後急冷して、より溶解しやすいガラス構造に変化させるガラス化処理と、そのガラスを250℃以上の濃硫酸で加熱溶解処理(焙焼処理)する2段階の加熱処理が必要であり、非常にコストがかかっているのが現状です。

そこで量子科学技術研究開発機構 核融合エネルギー部門六ヶ所核融合研究所 増殖機能材料開発グループでは、環境性に優れる新しいベリリウム精製技術を開発しています。具体的に化学処理とマイクロ波加熱を組み合わせたアルカリ・マイクロ波溶融技術を研究しており、2021年には0.2グラムのベリリウム結晶単体を使用し、机上試験規模での原理実証に成功しています。

そして今回、マイクロ波化学が製作した直径約 50 cm、高さ約 100 cmの反応器を有するマイクロ波加熱ベンチ装置を用いて、アルカリ・マイクロ波溶融技術による溶解性を調べる実証試験を行いました。その結果、ベンチ規模の100グラムのベリリウム鉱石を300℃の加熱処理のみでベリリウムを酸に溶解可能であることを実証し、同時に精製プロセスの簡素化も実現しました。

ベリリウム(Be)とリチウム(Li)の従来の精製技術(左右のプロセス)と新たな低温精製技術(中央のプロセス)(出典:マイクロ波化学プレスリリース)

2022年には、リチウムについてもマイクロ波を使って加熱温度300℃で溶解することに成功しており、両元素に対して精製に係る対環境負荷の低減のみならず、同一の溶解設備で異なる鉱石の溶解処理も可能になり、価格の低下にも期待できるそうです。

従来技術と新たな低温精製技術におけるCAPEX/OPEX/CO2排出量の相対比較 (出典:量子科学技術研究開発機構プレスリリース

化学品の製造において加熱するプロセスは数え切れないほどあり、それらをすべてマイクロ波での加熱に置き換えることができれば、相当量の使用エネルギーを削減でき、二酸化炭素の排出を抑えることができます。一方で製造プロセスは一つ一つ異なるため、状況に合わせて設備の最適化する必要があると考えられます。また大規模設備の更新には、多大な投資が必要であり、技術が確立しても導入は簡単ではありません。そのため、このマイクロ波を活用する技術が広く普及するような技術開拓に期待します。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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