[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

第37回反応と合成の進歩シンポジウムに参加してきました。

[スポンサーリンク]

 

11月7日、8日に徳島県のあわぎんホール(徳島県郷土文化会館)で開催された第37回反応と合成の進歩シンポジウムに参加してきました。

「反応と合成の進歩シンポジウム」は日本薬学会の化学系薬学部会が主催するシンポジウムで、「次世代を担う有機化学シンポジウム」とともに日本薬学会化学系薬学部会の活動の大きな柱で、薬学部の有機化学系領域全般の研究者が一同に会する学会です。今回の参加人数は473名で、演題数はポスターと口頭発表を合わせて本シンポジウムとしては過去最多の183題でした。

発表内容はライフサイエンスを志向した理論、反応および合成ということで、有機合成化学、創薬化学、天然物化学、物理有機化学、生物有機化学等を含む広範な有機化学を対象にしています。「次世代を担う有機化学シンポジウム」が若手研究者中心の学会であるのに対して、本シンポジウムでは口頭発表を博士後期程度の学生から教授まで行うため、かなり内容の濃い発表を聴くことができました。

 

今回、特別講演として広島大学の山本陽介先生と東京大学の藤田誠先生のお話を聴くことができましたので、感想を書かせていただきたいと思います。ちなみに筆者は某薬学系大学で有機合成化学の研究をしております。

 

広島大学大学院理学研究科・教授 山本陽介先生

 

「超原子価5配位及び6配位炭素・ホウ素化合物の合成とその後の展開」との題でお話されたのですが、正直な感想が「凄い」です。

山本先生は空想上の化合物とさえ思える5配位及び6配位状態の炭素とホウ素化合物を一貫して研究されているのですが、今回の講演では「一年半以上全く成果が出なかった」「学生の熱意と積極性が招いた成功」「いつまでも諦めないので学生が諦めている」「この仕事は8年間やっているがまだ一報も論文を出していない」「もう少し結合を短くしたい」などなどグッとくる言葉が多数あり、その研究姿勢に感銘を受けました。勝手な想像ですが先生自身および人類の知的好奇心を満たすという抽象化された願いに応えるために研究をされているのではないかと思いました。

 

東京大学大学院工学系研究科・教授 藤田誠先生

 

「自己組織化空間における反応制御」との題でお話されたのですが、正直な感想が「憧れ」です。

今回は主に自己組織化空間における有機反応についてお話されたのですが、なんか容易に教科書に載っている常識を書きかえている印象でした。藤田先生はもともと有機化学の研究を行っていたらしいのですが、1990年に自己組織化の論文を初めて出されたようです。その論文がM6L4組成の3次元中空錯体につながるものなのですが、その結果から現在の膨大で多岐にわたる成果を創り出せるとは筆者は想像すらできず、その想像力、視野の広さ、実行力に圧倒されました。今回の講演では「数えてみたらM6L4ケージだけで論文40報出していた」「構造から機能へ」「溶液の化学を結晶の化学へ」「触媒反応は不確実さが残るので量論反応を中心に行っている」「このことはスライド10枚使っても説明できない」「ここは私を信頼して」などなど、将来はこんなことを言える研究者になりたいなと思わせる講演でした。

 

余談ですが今回の学会は徳島で行われたので初めて阿波踊りを見ることができました。まあ、そういったことも含めてかなり楽しい学会となりました。

 

本年度は徳島で開催されたのでなかなか足を運びにくい方もいたのではないかと思いますが、来年度は東京方面で開催されるようですので、薬学系以外の大学や企業の皆さんもぜひ参加していただけたらと思います。

Avatar photo

ナカシマ

投稿者の記事一覧

化学と英語に関心があります。

関連記事

  1. ノーコードでM5Stack室内環境モニターを作ろう
  2. 軽量・透明・断熱!エアロゲル(aerogel)を身近に
  3. 2023年度第1回日本化学連合シンポジウム「ヒューメインな化学 …
  4. 有機光触媒を用いたポリマー合成
  5. 令和4年度(2022年度)リンダウ・ノーベル賞受賞者会議派遣事業…
  6. シリンドロシクロファン生合成経路の解明
  7. 有機合成化学協会誌2019年10月号:芳香族性・O-プロパルギル…
  8. 2010年ノーベル化学賞ーお祭り編

注目情報

ピックアップ記事

  1. マテリアルズ・インフォマティクスにおける分子生成の基礎
  2. JCRファーマとはどんな会社?
  3. Excelでできる材料開発のためのデータ解析[超入門]-統計の基礎や機械学習との違いを解説-
  4. COVID-19状況下での化学教育について Journal of Chemical Education 特集号
  5. 原油生産の切り札!? 国内原油生産の今昔物語
  6. ゾムレ・ハウザー転位 Sommelet-Hauser Rearrangement
  7. PdCl2(dppf)
  8. ノーベル化学賞・受賞者一覧
  9. 高速エバポレーションシステムを使ってみた:バイオタージ「V-10 Touch」
  10. リンダウ会議に行ってきた④

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2011年11月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
282930  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP