[スポンサーリンク]

日本人化学者インタビュー

第一回 福山透教授ー天然物を自由自在につくる

今回からこの日本人化学者のインタビューが始まりました。このコーナーでは第一線で活躍している主に日本人の化学者にケムステスタッフが突撃インタビューを行ないます。

記念すべき第一回目は生物学的に有用な天然有機化合物を効率的に合成する研究を行っている東京大学大学院薬学研究科(2013年より 名古屋大学大学院創薬研究科)の福山透先生にお話を伺いました。

 

Q. あなたが化学者になった理由は?

親父が画家であったためか、子供の頃、将来何か創造的なことをしなければ、というプレッシャーを自分にかけていたような気がします。小学生の頃は建築家になりたい、などと親父に話したことがありますが、今から思えば尊敬する親父に気に入ってもらいたいがためにそう言ったのでしょう。実際は中学2年の時に理科の先生に化学の実験中幾度か褒められたために、自分には化学の才能があるのだ、と思ったのがこの道に入るきっかけでしたね。

 

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

これは想像を絶する質問ですね。高校の数学の先生がすごく格好よかったので、高校の先生になるのもいいな、と、思った時もありました。その先生は東京帝大工学部を卒業されて海軍に入り、ドイツに留学した後に日本海軍が誇る酸素魚雷の開発に参加された方でした。この頃は野菜を育てるのに精を出していますので、晴耕雨読の生活もいいな、と思っています。ただし、これも親父が楽しんでいたライフスタイルですので、お釈迦様の掌中から未だに抜け出せないでいます。

 

Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

この頃は、スタッフに何をやっても良いからと言って彼らに考えてもらい、持ってきたプロポーザルを僕自身が評価して、面白ければ始めるし、もっと良いアイデアになりそうな時はダメ出しをします。プロジェクトが始まれば、良い時でも悪い時でもコンサルタントとしてコメントしています。ただし、いくつかのプロジェクトは実用的合成になるように自分でも真剣に考えますね。特にET-743の実用的合成ルートの確立には力を入れています。有用な化合物の実用的合成法の開発が一番面白くなってきました。

 

2013-04-21_02-00-06-thumb-300x264-7257-1

ET-743

 Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

遠い昔の人物といってもピンと来ませんが、まあ絶世の美女と夕食を共にするのも悪くはないですね。冗談はさておき、やはりR. B. Woodward先生にもう一度お会いしたいですね。どのような頭脳構造になっておられるのか、とても知りたい気がします。私のハーバード大学での博士審査はWoodward先生、Corey先生、そして岸先生でした。2時間続いた口頭試問でWoodward先生の物静かな話し振りや、クールな眼差しが印象に残っています。こちらの心の裏側まで見透かされている気がしました。僕に取ってはカリスマそのものであったWoodward先生をもっと知りたかったですね。

 Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

38歳の時にマイトマイシンCの合成中間体を作ったのが最後でした。2,6-Dimethoxytoluene25グラムから12段階でカルコンを合成したのですが、カラムクロマトを全く使わずに通算収率49%で目的物を結晶で得ました。実験ノートに一切記載せず、1週間くらいかけて合成したのですが、それを用いて院生が1年後にマイトマイシンCの全合成に成功しました。実験の腕が良かったのは確かでしょう。

 

2013-04-21_02-06-34-thumb-200x148-7259

マイトマイシンC

 Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

1つだけ、というのは厳しいですね。どちらかと言えば、ロマンチックなクライスラーのSchön RosmarinとかベートーベンのRomanceとかね。今までで一番印象に残った本は月並みですが、星の王子様です。言葉は少ないですが、人間が端的に表現されていますね。英語版を読んだのが最初で、次に和訳本、大学ではドイツ語版も読みました。家内がわけの分からないことを言ったときなんか、星に残してきた赤いバラのイメージが浮かんできます。

 

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

いの一番に、愛すべき北原武先生です。あの「人間臭さ」にたまらない魅力を感じます。自分が持っていない強烈な個性にひかれます。

*本インタビューは2010年8月12日に行いました。

関連リンク

東京大学大学院薬学研究科天然物合成化学教室/福山研究室
名古屋大学大学院創薬科学研究科 天然物化学分野
The following two tabs change content below.
webmaster
Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

関連記事

  1. 第29回 適応システムの創製を目指したペプチドナノ化学 ― R…
  2. 第三回 北原武教授ー化学と生物の融合、ものつくり
  3. 第二回 水中で超分子化学を探る-Bruce Gibb教授-
  4. 第32回「生きている動物内で生理活性分子を合成して治療する」田中…
  5. 第24回「アルキル-πエンジニアリングによる分子材料創成」中西尚…
  6. 第23回「化学結合の自在切断 ・自在構築を夢見て」侯 召民 教授…
  7. 第16回 教科書が変わる心躍る研究を目指すー野崎京子教授
  8. 第25回「ペプチドを化学ツールとして細胞を操りたい」 二木史朗 …

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 水 (water, dihydrogen monoxide)
  2. 毒を持ったタコにご注意を
  3. 米ファイザーの第2・四半期は特別利益で純利益が増加、売上高は+1%
  4. セルロース由来バイオ燃料にイオン液体が救世主!?
  5. 糖鎖を直接連結し天然物をつくる
  6. デンドリマー / dendrimer
  7. MFCA -環境調和の指標、負のコストの見える化-
  8. エレクトライド:大量生産に道--セメント原料から次世代ディスプレーの材料
  9. DNAに電流通るーミクロの電子デバイスに道
  10. 2,9-ジブチル-1,10-フェナントロリン:2,9-Dibutyl-1,10-phenanthroline

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

酵素触媒によるアルケンのアンチマルコフニコフ酸化

酵素は、基質と複数点で相互作用することにより、化学反応を厳密にコントロールしています。通常のフラ…

イオンの出入りを制御するキャップ付き分子容器の開発

第124回のスポットライトリサーチは、金沢大学 理工研究域物質化学系錯体化学研究分野(錯体化学・超分…

リチウムイオン電池の課題のはなし-1

Tshozoです。以前リチウムイオン電池に関するトピックを2つほど紹介した(記事:リチウムイ…

アルコールをアルキル化剤に!ヘテロ芳香環のC-Hアルキル化

2015年、プリンストン大学・D. W. C. MacMillanらは、水素移動触媒(HAT)および…

三種類の分子が自発的に整列した構造をもつ超分子共重合ポリマーの開発

第123回のスポットライトリサーチは、テキサス大学オースティン校博士研究員(Jonathan L. …

超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018

「超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2018」CEMS International Sy…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP