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有機トリフルオロボレート塩 Organotrifluoroborate Salt

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有機トリフルオロボレート塩(R-BF3)は、熱・空気・湿気に安定で扱いやすい結晶性ホウ素化合物である。

フッ素が置換した4配位型ホウ素構造をもつため、ルイス酸性を示さず、酸化条件に対し安定である。ボロン酸・ボロン酸エステルの保護体と見なすことが出来る。

有機溶媒中では安定であるが、プロトン性溶媒下にて加溶媒分解を受け、三価ホウ素種を露出する。これをそのまま鈴木クロスカップリングなどに伏すことができる。ボロン酸と違って必ず単量体で存在するので、当量関係の厳密な制御が可能。

基本文献

  • Chambers, R. D.; Clark, H. C.; Willis, C. J. J. Am. Chem. Soc. 1960, 82, 5298. DOI: 10.1021/ja01505a007
  • Vedejs, E.; Chapman, R. W.; Fields, S. C.; Lin, S.; Schrimpf, M. R. J. Org. Chem. 1995, 60, 3020. DOI: 10.1021/jo00115a016
  • Vedejs, E.; Fields, S. C.; Hayashi, R.; Hitchcock, S. R.; Powell, D. R.; Schrimpf, M. R. J. Am. Chem. Soc. 1999121, 2460. DOI: 10.1021/ja983555r
  • Darses, S.; Michaud, G.; Genet, J.-P. Eur. J. Org. Chem. 1999, 1875. [abstract]
  • Churches, Q. I.; Hooper, J. F.; Hutton, C. A. J. Org. Chem. 2015, 80, 5428. DOI: 10.1021/acs.joc.5b00182

<review>

反応機構

トリフルオロボレート塩は4配位アニオン性構造を持つにもかかわらず、フッ素の強力な電子求引性ゆえに求核性が弱く、トランスメタル化が遅いことで知られる。

鈴木クロスカップリングなどにおいては、加水分解して生じたボロン酸が反応に関与すると考えられている。化学種がslow-releaseされるという特性から、ホモ二量化などの副反応が少なくなる傾向がある。(参考:Angew. Chem. Int. Ed. 2010, 49, 5156.

 

反応例

カウンターカチオンをテトラアルキルアンモニウムに変更したものは、非極性有機溶媒への溶解性に優れる[1]。

organoBF3_3

無保護ペプチドカップリングへの応用[2]

organoBF3_4

溶媒の選択によって化学選択性を発現させることが可能。[3]

organoBF3_4

(+)-frondosin Bの短工程合成[4]: MacMillan触媒を用いる不斉共役付加[5]が鍵。

organoBF3_5

可視光レドックス触媒を用いるトリフルオロメチル化[6]

organoBF3_6

 

 

実験手順

有機トリフルオロボレート塩の調製法[7]:有機ボロン酸もしくはボロン酸エステルをKHF2で処理することで合成できる。

organoBF3_2

フェニルボロン酸(ca. 169 mmol)をメタノール(50 mL)に溶解し、激しく攪拌子ながら、過剰量の飽和KHF2水溶液(ca. 563 mmol)ゆっくり加える。15分後、沈殿した生成物をろ過で集め、冷メタノールで洗浄する。最小量のアセトニトリルから再結晶することで純粋なフェニルトリフルオロボレートカリウム塩を得る(25.5 g, 138 mmol, 82%)。

 

参考文献

  1. Batey, R. A.; Quach, T. D. Tetrahedron Lett. 200142, 9099. doi:10.1016/S0040-4039(01)01983-9
  2. (a) Noda, H.; Eros, G.; Bode, J. W. J. Am. Chem. Soc. 2014, 136, 5611. DOI: 10.1021/ja5018442
  3. Molander, G.A.; Sandrock, D. L. Org. Lett. 200911, 2369. DOI: 10.1021/ol900822j
  4. Reiter, M.; Torssell, S.; Lee, S.; MacMillan D. W. C. Chem. Sci. 2010, 1, 37. DOI: 10.1039/c0sc00204f
  5. Lee, S.; MacMillan, D. W. C. J. Am. Chem. Soc. 2007129, 15438. DOI: 10.1021/ja0767480
  6. Yasu, Y.; Koike, T.; Akita, M. Chem. Commun. 201349, 2037. DOI: 10.1039/C3CC39235J
  7. Vedejs, E.; Chapman, R. W.; Fields, S. C.; Lin, S.; Schrimpf, M. R. J. Org. Chem. 1995, 60, 3020. DOI: 10.1021/jo00115a016

 

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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