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猛毒キノコ「カエンタケ」が各地で発見。その有毒成分とは?

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猛毒を持つキノコ「カエンタケ」が今夏、小山町や御殿場市など静岡県内で相次いで見つかった。触れただけで皮膚がただれ、食べると死に至る場合もあるといい、小山町などは「絶対に触らず、食べないでほしい」と注意を呼びかけている。
(中略)
県内では、8月に小山町の住宅街の公園で自生しているのを町民が発見し、町が取り除いた。今夏は、小山町の山中などや、御殿場市や裾野市でも発見の報告があり、県東部を中心に自生が広がっている可能性がある。神奈川県や山梨県でも確認が相次いでいる。

Yahoo!ニュース 2022年9月3日の記事より引用

 

鳥取県西部の山林で、猛毒キノコのカエンタケが過去に例を見ないほど大量発生している。雨量が多かったことに加え、近年のナラ枯れが影響し、既に昨年の発見数の5倍以上を確認。発生時期も前倒しになっている。触れただけで皮膚に炎症を起こすため、県西部総合事務所は「見つけても絶対に触らないで」と呼びかけている。

日本海新聞 – 2022年9月3日の記事より引用 

インターネット上では比較的話題に上がりやすい猛毒キノコの代表格「カエンタケ」の発生が各地で見つかっています。2022年8月末ごろより、東京都の他、神奈川県、静岡県、三重県、鳥取県の公園などで発見のニュースが上がっており、各自治体は注意を呼びかけています。

カエンタケ厚生労働省HPより

近年、カシノナガキクイムシ(カシナガ)が媒介するナラ菌により、ミズナラ等が集団的に枯損する伝染病「ナラ枯れ」が多く発生しており、このナラ枯れによってカエンタケが育ちやすい環境が広がったことが原因の一つと言われています。カエンタケはその見た目の特徴から、特に小さい子どもにとっては興味の対象となり、公園などに自生していればうっかり触ってしまうことも考えられます。今や身近に生息する生物となってしまったカエンタケには一層の注意が必要と考えられます。

石垣から生えたカエンタケ川崎市民プラザ様の HP より引用

カエンタケに関する報道 (ANNnewsCH より)

カエンタケの有毒成分

さて、経口摂取はおろか、触っただけでも炎症を引き起こしかねないカエンタケの猛毒とはいったいどんな成分なのでしょうか。

主要な有毒成分として現在までに同定されているのは、次の6種の化合物です。

・Satratoxin H (サトラトキシンH、1)
・Satratoxin H 12′,13′-diacetate (2)
・Satratoxin H 12′-acetate (3)
・Satratoxin H 13′-acetate (4)
・Roridin E (ロリジンE、5)
・Verrucarin J (ベルカリンJ、6)

これらはいずれもトリコテセン骨格を含むマイコトキシン (カビ類が産生する毒素) に該当します。キノコとカビは同じ菌界 (Regnum Fungi) に属する生物ですが、その間にはやや隔たりがあります。しかし、実際のところカエンタケのようなトリコデルマ類は「不完全糸状菌」と呼ばれ、「カビに近いキノコ」という扱いをされているようです。そのためか、普通のキノコ類では産生しないような特殊な猛毒を持つキノコとして名を馳せています。Satratoxin H、Roridin E、Verrucarin J はいずれも穀物由来のカビ毒としてカエンタケ以外からも古くから見つかっており、生物兵器として戦争で使われたとする説もあるようです[1]

Satratoxin H の毒性

カエンタケに含まれるマイコトキシン類の中でも、Sartatoxin H は子実体における含有量が最も多く、致死的毒性に関与する主たる成分であることが示唆されています[2]。 犀川・橋本らは、化合物 1~6 のうち溶解性に問題のあった 6 以外が 0.5 mg (腹腔内投与) でマウスに対する致死活性を示すことを明らかにしてます[2]。0,5 mgというとスパチュラでほんの一かけら以下程度ですので、如何にその毒性が強いかが分かります。またマイコトキシン類の含有量そのものも問題で、100 g のカエンタケには約 300 mg もの有毒成分が含まれているとされています [1]。小指の先程度の量のカエンタケを食べただけで死に至ると言われ、毒性そのものの強さと成分量が相まってカエンタケの危険性を高めていると考えられます。

Satratoxin H の毒性発現機序については、培養細胞系を用いた実験結果が報告されています。Nusuetrong らは、神経モデル細胞株 PC12 において、satratoxin H が DNA 二重鎖を破壊することによりアポトーシスを誘導することを明らかにしました[3]。この機構には、satratoxin H による活性酸素種 (ROS) の産生が関与していると報告されています[3]。Satratoxin H が ROS を産生する詳細な機序までは明らかになっていませんが、何らかのシグナルを介して ROS を産生し、その下流の経路を介して毒性を発現するというメカニズムが提唱されています。

類似するトリコテセン系マイコトキシンである T-2トキシンに関してはより詳しい毒性に関する総説 [4] が発表されており、やはり酸化ストレスの増大を介しミトコンドリア経路・デスレセプター経路の双方でアポトーシスを惹起して、さまざまな培養細胞や臓器に障害を与えると報告されています。T-2トキシン、サトラトキシン類共に構造中にエポキシドを有することからこの部分の毒性に関しても興味が持たれますが、詳細は分かっていないようです。

一方、これらマイコトキシンの強い毒性を利用しようとする研究例もあり、例えば Verrucarin J は抗がん剤としての利用法が示唆されています[5]

おわりに

カエンタケの毒性については江戸時代から知られていたとのことです (参考サイト) が、人の住むような場所でカエンタケが見つかるようになったのはここ数年のことのようです。猛毒が身近になるのは勘弁してほしいですね。近年の異常気象が関係しているのかは定かではありませんが、ともかく珍しいからといって触っては絶対にいけません。もしも掲示などの出ていない場所でカエンタケを見かけた際は、自治体の管理者や保健所などに報告するのが良いかと思われます。カエンタケに限らず、道端のキノコには御用心を!

参考文献

[1] 橋本貴美子、「きのこ毒について」、モダンメディア2018、64(9)、290-297.
[2] 犀川陽子ら、「カエンタケ(Podostroma corn u・damae)の毒成分の探索」、天然有機化合物討論会講演要旨集、2001、43、75/P-32、DOI: 10.24496/tennenyuki.43.0_443,
[3] P. Nusuetrong et al., J. Toxicol. Sci, 2012, 37(4), 803-812, DOI: 10.2131/jts.37.803.
[4] Tsubone H, et al., JSM Mycotoxins, 2016, 66(2), 129-143, DOI: 10.2520/myco.66.129.
[5] Udoh K., et al., StemCell Reviews and Reports, 2019, 15, 601-611, DOI: 10.1007/s12015-019-09874-7.

参考書籍

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創薬化学者と薬局薬剤師の二足の草鞋を履きこなす、四年制薬学科の生き残り。
薬を「創る」と「使う」の双方からサイエンスに向き合っています。
しかし趣味は魏志倭人伝の解釈と北方民族の古代史という、あからさまな文系人間。
どこへ向かうかはfurther research is needed.

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