[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

アジドの3つの窒素原子をすべて入れる

[スポンサーリンク]

ホスフィン触媒を用い、アジド化合物とαエノンからβアミノαジアゾカルボニル化合物を合成した。ホスファジド中間体から窒素分子を放出せず、3つの窒素原子すべてをαエノンに導入できる。

ホスフィン(触媒)を用いたアジド変換反応

アジド化合物は有用なビルディングブロックとして頻用される[1]。代表的なアジドの変換法としては化学量論量、もしくは触媒量のホスフィンを用いた反応が数多く知られている。その中でもStaudinger反応に代表されるホスファジド中間体1から窒素が脱離し生じるイミノホスホラン2を利用した反応は精力的に開発されている(1A)2の加水分解によりアミン(Staudinger反応)、カルボン酸誘導体との反応によりアミド(Staudingerライゲーション)、アルデヒドやケトンと反応しイミン(aza-Wittig反応)へと変換可能である。これらはアジドを窒素原子一つからなる官能基へ変換する手法であるが、二窒素をもつ官能基、ジアゾへ誘導する手法も知られる。Rainesらは、活性エステル部位をもつホスフィン反応剤を用いてアジドをジアゾ化合物へ変換することに成功した(1B)[2]。ホスファジド1を経由して、アジドの三窒素原子すべてを化合物へ導入する例としては、Molinaらが報告したイミン部位をもつ芳香族アジドの2Hインダゾール骨格構築法のみである(1C)[3]

今回、復旦大学のZhang教授らは触媒量のホスフィン存在下、フッ素原子を有するαエノン3TMSアジドを作用させることでβアミノαジアゾカルボニル化合物4を合成することに成功した(1D)。キラルホスフィン触媒を用いればエナンチオ選択的な反応もできることを示した。

図1. ホスフィン(触媒)を用いたアジド変換反応 (A) Staudinger反応など、 (B) Rainesらの手法、 (C) Molinaらの手法、 (D) 今回の反応

“Phosphine-Catalyzed Difunctionalization of b-Fluoroalkyl a,b-Enones: A Direct Approach to b-Amino a-Diazo Carbonyl Compounds”

Wang, H.; Zhang, Li.; Tu, Y.; Xiang, R.; Guo, Y.-L.; Zhang, J. Angew. Chem., Int. Ed.2018, 57, 15787

DOI: 10.1002/anie.201810253

論文著者の紹介

研究者:Junliang Zhang

研究者の経歴:

1993-1997 BSc, Tianjin University (Prof. Wenqin Zhang and Prof. Chunbao Li)
1997-2002 PhD, Shanghai Institute of Organic Chemistry (Prof. Shengming Ma)
2002-2003 Research Chemist, Shanghai Institute of Organic Chemistry (Prof. Shengming Ma)
2003-2004 Humboldt Fellow, University of Colongne (Prof. Hans-Günther Schmalz)
2005-2006 Postdoc, The University of Chicago (Prof. Chuan He and Prof. Stephen Kent)
2006-2017.9 Professor and Vice Dean, East China Normal University
2017.10-present Professor, Fudan University

研究内容:共役化合物と小員環を用いた新規反応開発、キラル配位子の開発と応用、重合触媒開発

論文の概要

本手法ではホスフィン触媒としてdppbを用い、TMSN3b位にフルオロアルキル基(Rf)をもつαエノン3を作用させると、βアミノαジアゾカルボニル化合物4が高収率で得られる(2A)。また、dppbのかわりに彼ら独自のキラルホスフィン触媒P1を用いると、高収率かつ高エナンチオ選択的に4を合成することができた。興味深いことにβ位にトリフルオロメチル基を含むβ二置換エノンやb位にフルオロアルキル基をもたないエノン5に本反応条件を適用すると、ジアゾ化合物は得られず、アジド基が1,4-付加した生成物6が生成する(2B)

本反応の推定反応機構を図2Cに示す。まず、アジドの末端窒素原子にホスフィンが求核付加し、ホスファジド中間体7が生成する。その後、βフルオロアルキルαエノン371,4-付加し、エノラート中間体8が生じ、続く分子内求核付加によって中間体9が生成する。9は加水分解(水の由来は不明)によりホスフィンを再生するとともに10を生成する。最後に10は直ちに分子内開裂し[4]4を与える。この反応機構における鍵の一つは、用いているTMSアジドの嵩高さにより、異性体Z-7の生成が抑制され、副反応経路である脱窒素しにくくなっていることである。

図2. (A) 3とTMSN3を用いた-アミノ-ジアゾカルボニル化合物の合成法 (B) 二置換エノン5の1,4-付加反応 (C) 推定機構

以上、ホスファジド中間体の3つの窒素原子すべてをαエノンへと導入し、βアミノαジアゾカルボニル化合物が合成できた。この反応によりさらなるアジド変換法の発展が期待される。

参考文献

  1. (a) Bräse, S.; Gil, C.; Knepper, K.; Zimmermann, V. Angew Chem., Int. Ed. 2005, 44, 5188. DOI: 10.1002/anie.200400657(b) Shin, K.; Kim, H.; Chang, S. Acc. Chem. Res. 2015, 48, 1040. DOI: 10.1021/acs.accounts.5b00020
  2. (a)Myers, E. L.; Raines, R. T. Angew. Chem., Int. Ed. 2009, 48, 2359. DOI:10.1002/anie.200804689(b)Chou, H.-H.; Raines, R. T. J. Am. Chem. Soc.2013, 135, 14936. DOI:10.1021/ja407822b
  3. Molina, P.; Arques, A.; Vinader, M. V. Tetrahedron Lett.1989, 30, 6237. DOI:1016/S0040-4039(01)93353-2
  4. Ouali, M. S.; Vaultier, M.; Carrié, R. Tetrahedron1980, 36, 1821. DOI: 1016/0040-4020(80)80081-0
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. マンガン触媒による飽和炭化水素の直接アジド化
  2. マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくあ…
  3. ADC薬 応用編:捨てられたきた天然物は宝の山?・タンパクも有機…
  4. 文具に凝るといふことを化学者もしてみむとてするなり : ② 「ポ…
  5. 【日産化学】新卒採用情報(2026卒)
  6. 第24回ケムステVシンポ「次世代有機触媒」を開催します!
  7. 鉄触媒を使い分けて二重結合の位置を自由に動かそう
  8. 3.11 14:46 ①

注目情報

ピックアップ記事

  1. 三菱化学の4‐6月期営業利益は前年比+16.1%
  2. Dead Endを回避せよ!「全合成・極限からの一手」⑥(解答編)
  3. 今年の名古屋メダルセミナーはアツイぞ!
  4. シャピロ反応 Shapiro Reaction
  5. バンバーガー転位 Bamberger Rearrangement
  6. ロナルド・ブレズロウ Ronald Breslow
  7. 「リチウムイオン電池用3D炭素電極の開発」–Caltech・Greer研より
  8. Skype英会話の勧め
  9. 原子状炭素等価体を利用してα,β-不飽和アミドに一炭素挿入する新反応
  10. フラーレンの中には核反応を早くする不思議空間がある

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年1月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031  

注目情報

最新記事

Host-Guest相互作用を利用した世界初の自己修復材料”WIZARDシリーズ”

昨今、脱炭素社会への実現に向け、石油原料を主に使用している樹脂に対し、メンテナンス性の軽減や材料の長…

有機合成化学協会誌2025年4月号:リングサイズ発散・プベルル酸・イナミド・第5族遷移金属アルキリデン錯体・強発光性白金錯体

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2025年4月号がオンラインで公開されています!…

第57回若手ペプチド夏の勉強会

日時2025年8月3日(日)~8月5日(火) 合宿型勉強会会場三…

人工光合成の方法で有機合成反応を実現

第653回のスポットライトリサーチは、名古屋大学 学際統合物質科学研究機構 野依特別研究室 (斎藤研…

乙卯研究所 2025年度下期 研究員募集

乙卯研究所とは乙卯研究所は、1915年の設立以来、広く薬学の研究を行うことを主要事業とし、その研…

次世代の二次元物質 遷移金属ダイカルコゲナイド

ムーアの法則の限界と二次元半導体現代の半導体デバイス産業では、作製時の低コスト化や動作速度向上、…

日本化学連合シンポジウム 「海」- 化学はどこに向かうのか –

日本化学連合では、継続性のあるシリーズ型のシンポジウムの開催を企画していくことに…

【スポットライトリサーチ】汎用金属粉を使ってアンモニアが合成できたはなし

Tshozoです。 今回はおなじみ、東京大学大学院 西林研究室からの研究成果紹介(第652回スポ…

第11回 野依フォーラム若手育成塾

野依フォーラム若手育成塾について野依フォーラム若手育成塾では、国際企業に通用するリーダー…

第12回慶應有機化学若手シンポジウム

概要主催:慶應有機化学若手シンポジウム実行委員会共催:慶應義塾大学理工学部・…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP