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一般的な話題

ゲームプレイヤーがNatureの論文をゲット!?

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少し前の話題ですが、あまり取り上げられてないようなんでご紹介します。

研究に関わったことがあれば名を知らぬ者はいない、世界最高峰たるジャーナル・Nature
「一生に一度は自分の名前を載せたい」と誰もが掲載目標に据える雑誌の一つです。

しかしそんなことに一生懸命な研究者をすっとばし、なんとゲームで遊んでいただけの輩がNatureに載ってしまったという、前代未聞の事態が起きてしまいました。


こんな異例な事態が見られたのはこの論文(Nature 2010, 466, 756.)。

著者欄を見ると、おお確かに、最後になんか見慣れない感じのが・・・!

foldit_1.gifここに書かれているFold It! というのが、オンラインゲーム(ネトゲ)の名前です。なんでネトゲで遊んでるだけでにこんなことになってしまうのだオイ!?

foldit

・・・ここまで読まれた方はうすうす勘づいているでしょう。もちろん最大の理由は、Fold It!がそんじょそこらのゲームとは全く違う、ということにあります。

実はこれ、「タンパク質の折りたたみ構造をパズル形式で解かせる」という研究用マルチプレイヤーゲームなんですね。「ゲームでタンパク質の構造解析をする」というニュースで先立って話題となっていました。

タンパク質の構造を解く過程では、しらみ潰しな論理的アルゴリズムに頼ることが多くあります。しかしそれだけでは時間がかかりすぎてしまう。そのため「人間の直感」をうまく取り入れてショートカットすることが、現実的に必要となってきます。

そのためのインターフェースとして、オンラインゲームが選ばれた、というわけです。

そして驚くべきことに、この戦略は期待以上の結果をもたらしました。

Fold It!のトッププレイヤーともなれば、コンピュータよりもずっと早く折りたたみ構造を解いてしまう。そんなプレイヤーたちが協力しあうことで、思いもつかない戦略が生みだされ、みるみるうちに正しい構造へと近づいていく・・・こういうことも珍しくないのだそうです。そしてこの人間的過程は、コンピュータのアルゴリズムの効率化へと反映されてもいくそうです。

皆が寄ってたかってFold It!で遊ぶことが、タンパク質の折りたたみ構造の解析に貢献した。それは機械の手で成しえる以上の、まさに「人間的な貢献」そのものだった。

―「Fold It! Players」がNatureの論文著者に記載された事由は、どうやらこういうところにあるようです。

いやはや面白い話ですね。流石に世界最高のジャーナルともなれば、遊び心を理解する懐も深い。

ところで気になったのですがこの論文、いったい何人の人がPublication Listに書けるのでしょう?

自分も一度ぐらいは遊んでおくべきでしたなぁ・・・(笑)

関連動画

関連リンク

Fold It beta

この論文の詳細に立ち入ることは、専門から外れてしまうので筆者の手には負えません。
下に取り上げた解説はどれも分かりやすいので、理解の助けにしていただければ幸いです。

Foldit: タンパク質フォールディングを実感できるゲーム

「Foldit」がNature論文に!(その1)

タンパク質パズルで医療に貢献、米大学がゲーム開発(ITMediaNewsa)

Citizen science: People power (Nature News)

タンパク質の形状シュミレーションをゲームに「Foldit」 (DesignWorks)

cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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