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スポットライトリサーチ

モノクローナル抗体を用いた人工金属酵素によるエナンチオ選択的フリーデル・クラフツ反応

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第234回のスポットライトリサーチは、大阪大学大学院理学研究科・安達 琢真さんにお願いしました。

安達さんが学生時代に所属していた原田明研究室は、シクロデキストリンを用いたホスト/ゲスト化学の研究で世界的にも著名な研究室・・・だと筆者(副代表)は理解していたのですが、ラボの主流テーマとは全く毛色が異なっているモノクローナル抗体を使った不斉触媒反応(!)を開発し、Scientific Reportsに報告されたという驚きの成果が今回の題材です。プレスリリースとしても公開されています。

“Atroposelective antibodies as a designed protein scaffold for artificial metalloenzymes”
Adachi, T.; Harada, A.; Yamaguchi, H. Sci. Rep. 2019, 9, 13551. doi:10.1038/s41598-019-49844-0

安達さんを指導された原田 明 教授山口 浩靖 教授両名から、人物評を下記のとおり頂いています。全くの独立独歩で進め、見事な形に仕上げるに至った研究姿勢には、大いに感銘を受ける次第です。

研究室内で抗体を使う学生は安達くん一人で、他の人はまったく違うものを扱う研究をしていました。そのために先輩、同期にも聞くことができる人がいませんでした。この環境が彼の自立心を芽生えさせたと思われます。自らのアイデア・提案をもとに着実にいくつものハードルをクリアして素晴らしい結果にたどり着きました。日々の努力も怠らず、普通の学生だったら挫折してしまいそうな時間のかかる実験操作を黙々と真面目に取り組んでいた姿が目に焼き付いています。実験量は研究室で一番でした。この研究は安達くんにしかできません。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

モノクローナル抗体 (均一な化学構造を有する抗体) と遷移金属錯体の複合体からなる人工金属酵素による不斉触媒反応に関する研究です。

ビナフチル化合物 (BN) の軸不斉を認識するモノクローナル抗体と1,1’-ビ-イソキノリンを配位子とする銅錯体 (BIQ-Cu) を複合化しました (図1 (a))。この超分子錯体はエナンチオ選択的にフリーデル・クラフツ反応を触媒しました (図1 (b))。BIQ-Cu を用いてこの反応を行うと、エナンチオ選択性は見られませんでした。抗BN抗体が形成する反応場が BIQ-Cu にキラル構造を誘起し、これによって触媒反応のエナンチオ選択性が制御されたと考えられます。

本研究はモノクローナル抗体を用いた人工金属酵素による炭素-炭素結合形成反応の初の例です。また、モノクローナル抗体を用いることにより、従来はキラル構造の不安定さのために困難だったBIQ型金属錯体の不斉触媒としての活用にも初めて成功しました。

図1. (a) 軸不斉を認識するモノクローナル抗体を作製する際に使用した抗原である BN (R) と BN (S) の構造式. (b) フリーデル・クラフツ反応の反応式.

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

どのようなところにキラル認識抗体の付加価値を求めるかという点について一貫して考え続けてきました。

抗体は原理的にはどのような化合物に対しても作製することが可能であり、研究者のアイデア次第で様々な超分子錯体および機能を追求することが可能です。この自由度が私の取り組んできた研究の醍醐味であり、同時に難しさでもあると思います。

もしキラル認識抗体をキラル触媒と複合化したらどのような価値を追求できるだろうかということを出発点に考え続け、最終的に私は次の2点を中心に研究を組み立てました。

  1. 抗体が金属錯体にキラル構造を誘起し、このことがエナンチオ選択的な触媒反応を可能にするという点。
  2. 抗体と結合することによって、従来はあまり注目されてこなかった金属錯体の活用が可能になるという点。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

金属錯体の設計に苦労しました。抗体と金属錯体の超分子錯体の機能を追求する場合、金属錯体の水溶性と金属錯体が抗体と強く結合することの2点が一般に要請されます。

上記2点を満たすために、BINAP系の構造を始め、種々の構造を検討しました。この過程で構造式や合成スキームは複雑になっていきました。ある時、1年前の自分の学振の申請書に書かれたシンプルな構造式を見て、既知化合物である BIQ に行きつきました。この化合物は1段階で合成することが可能であり、ビピリジン誘導体と見れば金属錯体の合成や触媒反応系の設定について非常に多くの先行研究を活用することも可能です。この構造に行き着いてからはまるで動く歩道を走っているような感覚で研究が進展しました。複雑化しがちな思考を逆行することも、ときには必要だと学びました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今回の研究において、主に生命科学において利用されてきた抗体と、生体には存在しない触媒を組み合わせることで、抗体を化学の領域で活用することが可能になりました。これにより抗体単独でも金属錯体単独でもなしえない不斉触媒反応を実現しました。生体系と合成系の融合することにより、新たな機能を実現できました。この経験をもとに、異なる分野や物質を融合することで新たな価値を創造していきたいです。基本的なことですが、科学的な価値を追求することに注力していきたいです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

私が原田明先生の研究室に配属された時、自分以外はほぼ全員シクロデキストリンを用いた研究をしていました。抗体を用いる研究テーマが自分だけの特別なものであると愛着を感じたことが、博士課程に進学してさらに研究を続けようと思った重要な動機でした (正確には1990年頃からの歴史ある研究なのですが)。読者の皆さんにも自分の研究テーマに愛着を感じ、情熱を注いでほしいと思います。山口浩靖先生からは研究のいいときと苦しいときを共有する過程で、研究の楽しさとともに難しさも教わりました。研究者としての今 (とこれから) の私があるのは、尊敬する2人の先生のご指導のおかげです。この場を借りて御礼申し上げます。

参考文献

  1. Adachi, T.; Odaka, T.; Harada, A.; Yamaguchi, H. ChemistrySelect 2017, 2, 2622. DOI: 10.1002/slct.201700231
  2. Odaka, T.; Adachi, T.; Harada, A.; Yamaguchi, H. Chem. Lett. 2017, 46, 1173. DOI: 10.1246/cl.170296
  3. Adachi, T.; Harada, A.; Yamaguchi, H. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2019, 92, 1462. DOI: 10.1246/bcsj.20190135
  4. Adachi, T.; Harada, A.; Yamaguchi, H. Sci. Rep. 2019, 9, 13551. DOI: 10.1038/s41598-019-49844-0
  5. Harada, A.; Okamoto, K.; Kamachi, M.; Honda, T.; Miwatani, T. Chem. Lett. 1990, 19, 917. DOI: 10.1246/cl.1990.917

研究者の略歴

名前:安達琢真

ORCiD: 0000-0003-4611-994X

所属:住友化学株式会社 先端材料開発研究所

研究テーマル:モノクローナル抗体のキラル認識能に基づく機能性超分子システムの創成

略歴:

2014年3月 大阪大学理学部生物科学科生命理学コース 卒業

2016年3月 大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 博士前期課程修了

2019年3月 大阪大学大学院理学研究科高分子科学専攻 博士後期課程修了

2019年4月より現職

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cosine

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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