[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

天然物の構造改訂:30年間信じられていた立体配置が逆だった

[スポンサーリンク]

天然物アミプリマイシンおよびミハラマイシンの構造が改訂された。従来の合成品と天然物のNMRスペクトルの矛盾も解決することができた。

アミプリマイシンとミハラマイシンの構造決定

アミプリマイシン(1)は1976年にStreptomyces novoguineensisから単離されたペプチジルヌクレオシドであり、稲熱病菌に対する抗菌活性を示す[1]。名古屋大学の後藤らによって1982年に11H NMRスペクトルと誘導化により推定構造が提案されたが、C6’位の絶対立体配置は未決定であり、C2”位とC3”位についてもcis型であることしか明らかにされていなかった(図1A)。一方で、1967年にミハラマイシンA(2a)およびB(2b)という1と類似構造をもつ天然物が報告されていた[2]。1983年、東京大学の瀬戸らはアミプリマイシン誘導体(3)との比較により、2がもつジオキサビシクロ[4.3.0]ノナン骨格はシス縮環であると推定した(図1B)。その後2008年にUPMCのBlériotらが、NMRスペクトル解析によりC6’位の絶対立体配置を(S)であると報告した。1980年代以降、この立体構造をもとにした1および2の部分合成が多数報告された。
本論文の著者である上海有機化学研究所のYuらは2018年に1の相対立体配置の完全決定のためC2”位とC3”位に関するジアステレオマー4種類およびそれらのC6’とC8’位エピマーを合成した(計8種類)[3]。しかし、天然物と合成品のNMRスペクトルに明らかな相違が見られたことから、C3’位の立体配置を逆転すべきだと結論付けた。
今回、Yuらは12の生合成経路に関連性があると考え、2のC3’位の絶対立体配置も逆でありトランス縮環である可能性を提案した(図1C)。そこで、改めて推定した立体配置をもつ1および2b誘導体(2c)の全合成を達成し、天然物とNMRスペクトルを比較することで全ての不斉炭素における絶対立体配置を決定した。さらに、X線結晶構造解析により天然物の正確な構造が明らかとなった。

図1. (A) 以前の推定構造 (B) 改訂後の絶対立体配置

 

“The Miharamycins and Amipurimycin: their Structural Revision and the Total Synthesis of the Latter”

Wang, S.; Zhang, Q.; Zhao, Y.; Sun, J.; Kang, W.; Wang, F.; Pan, H.; Tang, G.; Yu, B. Angew. Chem.,Int. Ed. 2019, 58, 10558.

DOI: 10.1002/anie.201905723

論文著者の紹介

研究者:Biao Yu (URL: http://biaoyu.sioc.ac.cn/index.asp)
研究者の経歴:
1985-1989 B.S., Department of Technical Physics, Peking University
1989-1995 Ph.D, Shanghai Institute of Organic Chemistry (SIOC)
1995-1996 Postdoc, Department of Chemistry, New York University
1996-1997 Assistant Professor, SIOC
1997-1999 Associate Professor, SIOC
1999- Professor, SIOC
研究内容:糖を含む天然物の全合成、反応開発、ケミカルバイオロジー

論文の概要

Yuらは2018年に合成した1のジアステレオマー8種類と天然物の1H NMRスペクトルを比較した。詳細は論文SIを参照されたいが、H8’(最も天然物との化学シフトが矛盾する)の化学シフトが類似している合成品を選び、1の絶対立体配置は6’S、8’Rとし、2のC8’位も同様にR配置と推定した。さらに1のC2”位、C3”位の立体配置に関しては、この残基と同じ骨格である天然物シスペンタシン(15)が(1R,2S)型のみ単離されていることから、2”R、3”Sであると示唆された[4]
推定した立体配置に基づき、1および2cの全合成を目指した。D-アラビノース(4)を出発物質とし、3工程で5を合成、続く6とのアルドール反応により単一の立体をもつ7aを与えた(図2)。保護基を変換した7bのC5’位をZn(BH4)2によってヒドリド還元し、立体選択的に二級アルコール8を得た。8より導いたヘミアセタール9からHf(OTf)4を触媒とした環化反応によりピラノース骨格を形成した[3]10は1,3-ジアキシアル反発のため、いす型配座よりもねじれ舟型配座が安定となる[5]。続いて11のC2’位のヒドロキシ基を酸化、立体選択的に還元することで1212から2工程で合成した13のC1’位にプリン塩基骨格を導入し、共通中間体14を得た。最後に、15もしくはアルギニン骨格1614のC6’位のアミン部位を縮合し、保護基を除去することでアミプリマイシン(1)および4’-デオキシミハラマイシンB(2c)の全合成を達成した。合成した12cのNMRスペクトルは天然物とよく一致し、X線結晶構造解析によって立体構造を最終決定した[6]

図2. アミプリマイシン(1)および4’-デオキシミハラマイシンB(2c)の全合成とX線結晶構造(論文より引用)

 

以上、天然物の全合成により、約30年前に報告されたそれらの立体構造を改訂することに成功した。これらの生合成経路は現在関心が高まっており[7]、今回の結果が解明の助けとなるに違いない。

参考文献

  1. (a) Iwasa, T.; Kishi, T.; Matsuura, K.; Wakae, O. J. Antibiot. 1977, 30, 1. DOI: 10.7164/antibiotics.30.1(b) Harada, S.; Kishi, T. J. Antibiot.1977, 30, 11. DOI: 10.7164/antibiotics.30.11(c) Goto, T.; Toya, Y.; Ohgi, T.; Kondo, T. Tetrahedron Lett. 1982, 23, 1271. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)87080-X
  2. (a) Noguchi, T.; Yasuda, Y.; Niida, T.; Shomura, T. Ann. Phytopath. Soc. Jpn.1968, 34, 323. DOI: 10.3186/jjphytopath.34.323(b) Seto, H.; Koyama, M.; Ogino H.; Tsuruoka, T.; Inouye, S.; Otake, N. Tetrahedron Lett.1983, 24, 1805. DOI: 10.1016/S0040-4039(00)81775-X
  3. Wang, S.; Sun, J.; Zhang, Q.; Cao, X.; Zhao, Y.; Tang, G.; Yu, B. Angew. Chem., Int. Ed. 2018, 57, 2884. DOI: 10.1002/anie.201800169
  4. Kawabata, K.; Inamoto, Y.; Sakane, K.; Iwamoto, T.; Hashimoto, S. J. Antibiot.1990, 43, 513. DOI: 10.7164/antibiotics.43.513
  5. Markad, P. R.; Kumbhar, N.; Dhavale, D. D. Beilstein J. Org. Chem. 2016, 12, DOI: 10.3762/bjoc.12.165
  6. 合成品2cと天然物2b1H NMRスペクトルのJ値(H2’, H8’, H9’)を比較した。また、X線結晶構造解析には自身で単離した天然物1および2bを用いた。
  7. (a) Kang, W.-J.; Pan, H.-X.; Wang, S.; Yu, B.; Hua, H.; Tang, G.-L. Lett.2019, 21, 3148. DOI: 10.1021/acs.orglett.9b00840(b) Romo, A. J.; Shiraishi, T.; Ikeuchi, H.; Lin, G.-M.; Geng, Y..; Lee, Y.-H.; Liem, P. H.; Ma, T.; Ogasawara, Y.; Shin-ya, K.; Nishiyama, M.; Kuzuyama, T.; Liu, H.-w.J. Am. Chem. Soc. 2019,Just Accepted Manuscript. DOI: 10.1021/jacs.9b03021
Avatar photo

山口 研究室

投稿者の記事一覧

早稲田大学山口研究室の抄録会からピックアップした研究紹介記事。

関連記事

  1. MEDCHEM NEWS 32-2号 「儲からないが必要な薬の話…
  2. 嘘か真かヒトも重水素化合物をかぎわける
  3. 一重項励起子開裂を利用した世界初の有機EL素子
  4. EDTA:分子か,双性イオンか
  5. アメリカ企業研究員の生活①:1日の仕事の流れ
  6. 化学素人の化学読本
  7. 化学工業で活躍する有機電解合成
  8. 高純度フッ化水素酸のあれこれまとめ その2

注目情報

ピックアップ記事

  1. 日宝化学、マイクロリアクターでオルソ酢酸メチル量産
  2. 本当の天然物はどれ?
  3. 元素名を名字にお持ちの方〜
  4. 第172回―「小分子変換を指向した固体触媒化学およびナノ材料化学」C.N.R.Rao教授
  5. 生命が居住できる星の条件
  6. トリフルオロメタンスルホン酸ベンゾイル:Benzoyl Trifluoromethanesulfonate
  7. 記事評価&コメントウィジェットを導入
  8. 触媒と光で脳内のアミロイドβを酸素化
  9. 藤田 誠 Makoto Fujita
  10. チャン転位(Chan Rearrangement)

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年8月
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031  

注目情報

最新記事

CIPイノベーション共創プログラム「有機電解合成の今:最新技術動向と化学品製造への応用の可能性」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「有機電解合…

CIPイノベーション共創プログラム「世界を変えるバイオベンチャーの新たな戦略」

日本化学会第106春季年会(2026)で開催されるシンポジウムの一つに、CIPセッション「世界を変え…

年会特別企画「XAFSと化学:錯体, 触媒からリュウグウまで –放射光ことはじめ」

放射光施設を利用したX線吸収分光法(XAFS)は、物質の電子状態や局所構造を元素選択的に明らかにでき…

超公聴会 2026 で発表します!!【YouTube 配信】

超公聴会は、今年度博士号を取得する大学院生が公聴会の内容を持ち寄ってオンライン上で発表する会です。主…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part II

さて、Part Iに引き続きPart II!年会をさらに盛り上げる企画として、2011年より…

凍結乾燥の常識を覆す!マイクロ波導入による乾燥時間短縮と効率化

「凍結乾燥は時間がかかるもの」と諦めていませんか?医薬品や食品、新素材開発において、品質を維…

日本化学会 第104春季年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I

まだ寒い日が続いておりますが、あっという間に3月になりました。今年も日本化学会春季年会の季節です。…

アムホテリシンBのはなし 70年前に開発された奇跡の抗真菌薬

Tshozoです。以前から自身の体調不良を記事にしているのですが、昨今流行りのAIには産み出せな…

反応操作をしなくても、化合物は変化する【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか温度を測ること…

ジチオカーバメートラジカル触媒のデザイン〜三重項ビラジカルの新たな触媒機能を発見〜

第698回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(大井研究室)博士後期課程1年の川口…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP