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一般的な話題

「社会との関係を見直せ」とはどういうことか

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今回は現代化学の巨人、G.M.WhitesidesのNatureへの寄稿文のご紹介を致します(ご本人の写真はこちらより引用)。

Tshozoです。Haber-Bosch法の続き、と言いましたが気が変わった是非とも展開したいネタが出てきましたので今回はそちらを先に。前回と異なり文章がほとんどですが、お付き合い頂ければ嬉しいです。

そのネタというのは、現代化学の巨人 G.M. Whitesides(ハーバード大教授)が昨年Natureへ寄稿した記事(リンクはこちら)です。成立した特許は50件以上、創設したベンチャーは12社以上、IFランクで常に世界トップ10に居るという、まさに生ける伝説Whitesides教授。本サイト中でも何度か紹介されています(こちらこちらこちら)。

 

Whitesides.jpg

御大 George M. Whitesides教授(こちらより引用しました)

 

今回取り上げるその寄稿で述べていることは

 「化学(者)は社会との関係を見直し、社会における問題にもっと目を向けよ!」

 というものです。要旨のみ述べますと・・・

 1.化学界は成熟期を迎えているが、来たる社会的問題(水、エネルギー、資源確保など)に対し準備が出来ていると思えない。根本的な変革が必要である。

2.化学界を構成している3つの要素(政府、産業、学界)のうち学界だけに「自由」と「柔軟性」とが在る。旧態依然とした査読システム、それに紐付けられた政府からの研究資金獲得のみに汲々としてはいけない。化学者たちは自由と柔軟性を武器により挑戦的な「社会で実際に起きている問題」に視線を向けるべきだ。

3.だが学界(Academia)はその「実際に起きている問題」からの警告(圧力)に対し億劫であり臆病である。1990年代から学界内で数多くの歪み(化学分野外での先端研究域の発生、分子構造ではなく機能へのニーズの変遷、学界内の人口飽和、分野の細分化)が発生しているにも関わらず、だ。

4.化学者はそのように臆病でいるのでなく、次のことをすべきである

  • A:社会との関係を見直せ、社会にとって重要な問題に目を向けよ
  • B:旧態依然とした教育システムを廃止せよ、化学科と化学工学科の合併が手始めだ
  • C:化学の強みを生かせ、その独自性はあらゆる分野で有用になる
  • D:学生を使わずに育てろ、彼らの好奇心を生かさなければならぬ

・・・毎度ながらメッセージが明快なために「なるほど」とうなずいてしまいました。

中でも自分が本当に大事だと考えた項目はAです。おそらく多くの研究者の方々は、「エネルギー問題」「真水の確保」「食糧問題」等の「社会にとって重要な問題」に向き合っている、という自覚をお持ちと思います。

ただ、本当にそうでしょうか? 極端かもしれませんが例を挙げてみます。

PV

(こちらより引用しました)

  ○エネルギー問題には太陽光を生かす太陽電池、しかも高効率で廉価なものが必要、その実現に化学の力を生かそう

確かにその通りです。その通りなのですが、現実には下記のような見方もあります。

Nuke

(こちらより引用しました)

  ●エネルギー問題には原子力が安定した出力の面でやっぱり必要、太陽電池じゃ昼夜間の出力変動が大きすぎて使えない

この違いはどこにあるのでしょう。

それは「社会が何を要求しているか」の捉え方によると思います。前者(○)では、「社会は(実現しないかもしれないが)夢を求めている」とみている。後者(●)では「社会は現実的な安定性を求めている」とみている。実際にはどっちも正しいのですが、現実の社会と早く向き合うと、下線部のようなケチに早く気がつくことになります。

そこでそのケチに正面から向き合って「太陽エネルギーを電気として昼夜間でも安定供給するためには?」と掘り下げてみるとまた新しい見方につながる場合があります。電気は大量には貯めることが出来ない。それなら昼間に熱としてを貯めておけないか? そのために、幅広いスペクトルで吸熱する材料はできるのか。それを安価で実現するには、吸熱リアクタ構造はどのように、とテーマが膨らむ可能性があります。また、自分の思考の前提を見直す機会にもなる場合すらあります。(実際にこの蓄熱を生かした安定太陽「熱」発電はスペイン南部Andasol Projectなどで生かされようとしています・こちら)。

 

Andasol

(Andersolの発電プラント写真・リンクは同上)

 つまりは、「社会に向き合う」とは現実の問題(コスト、安定性、稼働率といったケチ)と向き合うこと、と言い換えられると思うのです。さらにその問題・課題設定に、化学の独自性と発想を生かすべきである、研究トレンドや研究資金の取得しやすさで決めるなかれ、というのが本文で書かれていることではないでしょうか。産業界でも学界でも極めて重要な視点であると考えたため、ポイントとして解釈・展開させて頂いた次第です。

ただ、今回のオチとしては「そんな偉そうなことは出来るようになってから言え! お前は今まで何をやってきたんだ!」なんですけどね・・・何もやってないので今やってますけどね・・・

ともあれ、Whitesides教授の講演録(たとえばこちらの発表資料は彼の研究開発観が満載で、一見の価値ありです)等を見て感じるのは、「実際の社会の問題に、化学を生かしたい」というご本人の強い信念です。貧しい発展途上国であってもたった数円で買える診断キットの開発などは、現実の社会に真摯に向き合い、その結果見出した課題の解決に対し、化学をどう使うかを真剣に考えた結果創生されたものではないでしょうか。もっとも最近はかなり目的の違うDARPA(米軍軍事用高等技術研究所)からの共研も受け入れているのでアレッ、とも思ってしまいますが。

今回は以上ですが、Whitesides教授はこれ以外にも色々なところで寄稿文を出しています。定期的に彼のHPをチェックしてみることをお勧めします。

なお余談ですが、共著者であるJohn Deutschという方、Jewishで化学者でもありながらDoEの要職やCIAの要職を勤めた経験のある不思議な方です。どういうご関係で共著になったのか非常に興味のあるところですが、今のところ背景はわかりません・・・。

 

関連文献

“Let’s get practical”

Whitesides, G. M.; Deutch, J.  Nature 469, 21 DOI:10.1038/469021a

 

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Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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