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スポットライトリサーチ

(+)-Pleiocarpamineの全合成と新規酸化的カップリング反応を基盤とした(+)-voacalgine Aおよび(+)-bipleiophyllineの全合成

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第564回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院薬学研究科分子薬科学専攻・医薬製造化学分野(徳山研)に在籍されていた岡田 康佑(おかだ こうすけ)博士にお願いしました。

徳山研では医薬に重要な生理活性を示すアルカロイド、中でも歪んだ中員環など、複雑な構造を持つために合成が困難な多環性高次構造アルカロイドをとりあげ、C–N結合の形成反応をはじめとして、様々な官能基の存在下用いることのできる新規合成反応の開発と、複雑な化合物を短段階で合成するための独創的合成経路の開発を目指して研究を行っています。

本プレスリリースの研究内容は、キョウチクトウ科の植物から抽出されるインドールアルカロイド、(+)-pleiocarpamineの全合成についてです。本研究グループでは、合成終盤に平面性の高いインドール環を構築する独自の合成戦略により、グラム単位での量的供給を可能にする(+)-pleiocarpamineの不斉全合成を達成しました。さらに、ヘム鉄を模倣して設計した鉄触媒を用いて、既存法を20倍上回る効率性で2つのPleiocarpamineのカップリングに成功し、生合成中間体を用いないBipleiophyllineの完全化学合成を達成しました。この研究成果は、「Journal of the American Chemical Society」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Concise Total Synthesis of (+)-Pleiocarpamine and Convergent Total Syntheses of (+)-Voacalgine A and (+)-Bipleiophylline via an Aerobic Oxidative Coupling

Kosuke Okada, Ken-ichi Ojima, Hirofumi Ueda*, Hidetoshi Tokuyama*

J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 30, 16337–16343

DOI:doi.org/10.1021/jacs.3c05811

研究室を主宰されている徳山英利教授と本研究を現場で指揮された植田浩史准教授より岡田博士についてコメントを頂戴いたしました!

徳山英利教授のコメント

フタロシアニン化学の世界的権威である小林長夫教授との何気ない会話から始まった、フタロシアン鉄錯体の酸化的化学変換のテーマが広がりをみせ、ついに合成最難関とされていた二量体型アルカロイドの全合成を達成することができました。実は、合成のドラマは、困難とされていた二量化ではなく、単量体の合成の段階で繰り広げられました。紆余曲折を極めたルート探索を岡田君と植田准教授がまさに二人三脚で乗り越えてくれました。発想の転換と成功を信じて最後まで粘り抜くことの大切さを痛感しました。

植田浩史准教授のコメント

岡田君の長所は、実験の洞察力も挙げられますが、やはり行動力と目標に向けての実行力だと思っています。彼のコメントにもありますが、学位論文の申請まであと一年といった時期に、残る一環を形成するだけで全合成を達成できる段階までこぎつけていました。そのゴール目前で、合成経路を一から始めようと提案しました。これまで頑張ってきた合成経路を切り離すことはなかなか勇気がいることであり、おそらく多くの方が難色を示すものと思います。私は、その時点での合成経路で頑張りたいと申し出たら、それを尊重するつもりではいました。しかし、岡田君は合成経路の変更を決断し、途中窒素の脱保護で苦戦したものの(やはり保護基を使う合成経路はなるべく避けようと改めて思いました)、新たな合成経路で全合成を達成しました。そこからの快進撃は目を見張るものであり、学位修了の時期を図ったように、論文未掲載の結果を含め複数のプロジェクトを仕上げてくれました。あの時の岡田君の決断力とタイムリミットが迫る中で最後まで諦めない精神力が、研究が成功した要因の一つと考えています。

彼の紹介にあたって、もう一つ欠かせないのが化学への探究心だと思います。結果に追われる日々にも関わらず、最新の論文に欠かさず目を通しており、他の学生と楽しそうに化学を話すのが印象的でした。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回の研究は,インドールアルカロイド(+)-pleiocarpamineの全合成と生体模倣触媒を用いた酸化的カップリング反応を基盤とした(+)-voacalgine Aおよび(+)-bipleiophyllineの全合成から構成されています。Pleiocarpamineは,それ単体ではほとんど生物活性を示しませんが,生体内において様々な単量体天然物と二量体を形成し,多彩で強力な生物活性を示す天然物へと変換されます。なかでもpleiocarpamineのホモ二量体であるbipleiophyllineは、Hanessian教授により”Mountain to climb in total synthesis”と称されるほどに合成最難関天然物の一つとして知られています。以上の背景のもと,我々は以下の二つを実現し,bipleiophyllineの全合成を達成しました。

① (+)-Pleiocarpamineの量的供給を可能にする効率的合成法の確立

② (+)-Bipleiophyllineの収束合成を指向した多官能基性単量体の酸化的カップリング反応の開発

まず①について説明します。Pleiocarpamineの全合成を達成する上で課題となる点は,熱力学的に不安定なC16位立体化学の制御と、歪んだかご型骨格の構築です。我々は、ラジカル環化反応を利用して,速度論的にC16位の立体化学を制御し,さらに、合成終盤でのC–H官能基化反応を活用することで,歪んだかご型骨格の構築に成功しました。その結果,市販化合物からわずか10工程でpleiocarpamineの全合成を達成し,グラムスケールでの供給を実現しました。

続いて②については,アミンやインドールといった酸化条件に敏感な官能基共存下,カテコールの選択的な酸化を行う必要がありました。実際に,先行研究であるbipleiophyllineの半合成では,官能基共存性が課題となり,カップリングの収率はわずか3%にとどまっています。ところで当研究室では,生体内の酸化酵素の活性中心となる,ヘム鉄を模倣したオクタカルボキシ鉄フタロシアニン(以下,FePc(COOH)8)を用い,無保護ペプチドの官能基選択的な酸化的修飾法を開発しております。我々はこの独自に開発した酸化反応をカテコールへと応用することで,良好な収率で合成最終段階でのカップリングに成功し,bipleiophyllineの世界初の全合成を達成しました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

ニトロ基を有する中間体を利用した,ラクタムの還元的環化反応とインドール環の構築です。ニトロ基を有する基質は酸性-塩基性いずれの条件にも不安定なため,しばしば分解がみられました。特にVaska錯体を用いたラクタムの部分還元を経る環化反応では,酸性条件下等では全く反応が進行しませんでしたが,HFIPのような高極性フッ素系アルコール溶媒を用いたところ,穏和な条件下イミニウムの形成と環化が進行することを見出しました。また,インドール環構築の検討中,C–H官能基化反応によって得られたインドリン化合物を冷蔵庫で保管していると,ニトロ基が一部脱離して,天然物が得られたときは驚きました。この結果をもとに,食塩水を添加する穏和な中性条件での芳香環化を見出しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

Pleiocarpmaineの合成計画です。Pleiocarpamineに関しては、画期的な骨格の構築を含む数多くの合成研究が報告されています。これらの先行研究を踏まえた上で、独自の合成設計を行うのは極めて困難でした。歪んだかご型骨格の構築とC16位の立体化学の制御という二つの課題を克服する合成法を模索する上で,ボツになった合成ルートは10種類にも及びました。最終的に,既存の合成法とは全く異なる,合成終盤でのインドール環の構築を行うことで,世界初のpleiocarpamineの不斉全合成を達成しました。当初,この逆合成に至ったとき,インドール環の新規構築法を開発する必要があったため,挑戦的であるように思いました。しかし,実際に合成を進める過程で,ニトロ基を起点として効率的に骨格構築が行えることを見出し,最終的に独自のインドール環の構築法を確立することができました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

全合成研究を通して,合成の面白さを感じると同時に自身が合成した化合物を通じて社会貢献したいと思うようになりました。そこで,私は今年度より製薬会社で低分子医薬品の探索研究に従事しております。当面の目標は,自分の合成力を生かして医薬品の創出したいと考えております。将来的には,化学を基軸として多角的な視点を養い,分野を横断して活躍できる研究者を目指しています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

最後まで読んでいただきありがとうございます。私はこの研究テーマを通じて諦めないことの重要さを改めて痛感しました。D1の夏ごろからこのテーマを始めD2の秋にはあと一環というところまでこぎ着けましたが、そこで確立した合成法を捨てて最初からやり直すことになりました。限られた時間の中で,半年以上苦しい時期が続きましたが,C–H官能基化反応がブレイクスルーとなり,pleiocarpamineの不斉全合成を達成し,最後には酸化的二量化にも成功してbipleiophyllineを全合成することができました。このように,何事も最後まで諦めずもがき続けることで,ブレイクスルーを掴めるチャンスはどこかにあると実感しました。

最後になりましたが,この場を借りて咤激励いただきました徳山先生,植田先生,酸化的二量化の端緒を開拓して頂きました小島博士に感謝申し上げます。

また,このような貴重なinterviewの機会を設けていただいたchem-stationのスタッフの方々にも感謝申し上げます。

研究者の略歴

岡田 康佑(おかだ こうすけ)

前所属 東北大学大学院薬学研究科分子薬科学専攻・医薬製造化学分野

研究テーマ (+)-Pleiocarpamineの全合成と二量体型マバクリンアルカロイドの収束的合成に関する研究

2018年3月 東北大学薬学部創薬科学科 卒業
2020年3月 東北大学大学院薬学研究科分子薬科学専攻 博士前期課程修了 (徳山英利教授)
2022年4月-2023年3月 JSPS特別研究員 (DC2)
2023年3月 東北大学大学院薬学研究科分子薬科学専攻 博士後期課程修了 (徳山英利教授)
2023年4月- 大塚製薬株式会社

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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