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化学者のつぶやき

カリフォルニア大学バークレー校・化学科への学部交換留学

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ケムステ海外研究記の第38回はカリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)の化学科に学部交換留学をされていた勝山湧斗さんにお願いしました。

勝山さんは、東北大学での学部3年時に、UC Berkeleyに1年間交換留学をされていました。ケムステでは大学院やポスドク留学の記事が多いですが、今回は学部での化学分野の留学経験について、現地での授業の様子などを語ってもらいます。勝山さんはその後、さらにアメリカへの大学院進学を選ばれ、今年9月からカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)・化学科のPhD課程に進まれる予定です。

それでは、記事をお楽しみください!

UC Berkeleyに留学をした経緯を教えてください。

初めは留学を躊躇していました。なぜなら、私が所属していた東北大学 化学・バイオ工学科では1年間留学をすると留年してしまうからです。それでも「未知の世界へ飛び込みたい!」という気持ちが勝り、また周囲が背中を押してくれたこともあり交換留学へ出願しました。

交換留学先は迷わずにカリフォルニア大学と決めていました。理由は、

  1. 中学2年生の時にカリフォルニアにホームステイした経験が刺激的で忘れられなかったから
  2. どうせ留学するなら世界トップの大学が良かったから

です。特に化学世界ランキングで上位だったバークレー校やロサンゼルス校に留学したかったため、そこへ出願しました。結果としてバークレー校で採用となりました。

UC Berkeleyでの授業はどうでしたか?

とても面白かったです!化学の授業では、先生によって授業スタイルが千差万別でした。Computational Quantum Chemistryの授業では、Matlabを用いてMolecular Dynamicsを行いました。Quantum Chemistryに基づき立式を行い行列計算を行うことで、それまで何の役に立つのかわからなかった波動関数やハミルトニアンが有用なものである!と気づくことができました。この時は感動しました。

図1. 宿題の一部です。Lennard-Jones Particlesのthermostatted Molecular Dynamics SimulationやMonte Carlo法を用いたMolecular Dynamics Simulationを行いました。温度や密度を変化させています。

一方でNuclear Chemistryの授業では、先生が言葉のみで講義を行い、必要に応じて絵を描いて説明するスタイルでした。それに加えて内容は量子化学なのでもちろん難しく、ちんぷんかんぷんでした。先生が授業中に発した単語や絵を頑張ってメモし、家に帰ってから指定の教科書をひたすら読み込む、ということを繰り返し、なんとか授業についていきました。

図2. 授業のメモ。基本的に理解できなかったので、重要そうな単語と絵を記録し、帰宅後に指定教科書を読みこんだ。

総じて苦労しましたが、なんとか全部単位を取ることができました。海外経験なくて英語が苦手でもなんとかなるな、と自信がつきました。

留学先では、どんな生活をされていましたか?

化学の授業は半分くらいに抑え、残り半分は純粋に興味がある授業を広く履修しました。というのも、私の場合は東北大学での留年が確定していたため、単位互換のための必修科目がなかったからです。また、東北大学では高い成績を取るために追い込まれながら必死に勉強していましたが、Berkeleyでは成績に追われず自由に伸び伸びと興味に従って勉学に励みたいという気持ちもありました。

化学の授業は、UC Berkeleyが得意としている物理化学の授業を中心に履修しました。上述の通り、Computational Quantum ChemistryやNuclear Chemistry、Nuclear Engineering、Materials Chemistryなどを履修しました。とても難しく授業についていくのが大変でした。

化学以外では、スタートアップや異文化コミュニケーション学、言語学、地球科学などを履修しました。化学の授業とは異なり、クラスメートとの衝突や挫折などを経験することで視野が広がり人間的にも成長できました。

図3. UC Berkeleyのランドマーク「Sather Gate」前にて。入学オリエンテーションで賑わっていました。

留学中、特に大変だったことは何ですか?

授業と研究です。

まず授業に関して。日本ではほとんどAAかAの成績を取っており所謂優等生だった私ですが、UC Berkeleyでは授業についていくので精一杯で劣等生でした。ディスカッションでもなかなか発言できず、悔しい思いを沢山しました。さらに宿題の量も日本の倍近くありました。日本と違う点を挙げるとしたら、教科書を予習するという宿題が多かったように思います。先生が「次回までにChapter 2を全部読んできてね~」と言って授業が終わります。それに加えて宿題(Problem Set)があったので、余暇時間のほとんどは勉強に溶けていた気がします。

次に研究について。留学中に研究したかった私は、たくさんの教授にコンタクトを取りました。しかし、英語も上手くない、研究経験がない、しかも1年間しか滞在せず、よく知らない大学から来た留学生を受け入れてくれる研究室はなかなかありませんでした。(詳しい数は覚えていませんが)約20人くらいのUC Berkeleyの教授にメールを送りましたが全滅でした。冬休みにロサンゼルスに旅行に行ったのですが、その際にも約20人くらいのUCLAの教授にメールを送りました。なんと、そのうちの一人が受入れに対して前向きに検討してくださり、最終的にはUCLAで3ヶ月間受け入れてくれました。驚くことに、世界的にも超著名な先生でした。大学院受験では複数の大学院に合格しましたが、最終的には彼の研究室に進学することに決めました。

今後、大学院ではどんな研究をしたいですか?

まだ詳細には決めていませんが、再生可能エネルギー向けの蓄電デバイスを開発したいです。Organic batteryやZn-ion Battery、Mg-ion Battery、Na-ion Battery、Flow Battery、触媒など、幅広く興味を持っています。とても自由な研究室なので、Creativityを培いながら、その時々で面白いと思える研究をしたいと考えています。また、いろんな方々と関わりながら研究を進めたいと考えていますので、是非共同研究など興味がございましたら手伝わせていただきたく思います。

最後にメッセージをお願いします。

予想もしなかったことが起こるのが留学の醍醐味だと思いました。私は交換留学していなければ、アメリカの大学院には進学していなかったと思います。交換留学をきっかけに、アメリカの大学院は給料がもらえて自己負担額0で学位が取得できることを知りました。さらに運よく、世界トップレベルでの研究に触れることができ、それがUCLAのPh.D.プログラム進学にも繋がりました。「道を踏み外したい!普通じゃない人生を送りたい!」と考えている人にとっては、交換留学は将来の幅を広げてくれる選択肢になるかもしれません。

研究者のご略歴

名前:勝山 湧斗(かつやま ゆうと)

所属:UCLA, Chemistry PhD課程

研究テーマ:再生可能エネルギー向けのエネルギー貯蔵デバイス

海外留学歴:1年(アメリカ)

略歴:
2015­–2020年 東北大学 工学部 化学・バイオ工学科 渡邉研と本間研に所属(学部)
2017年–2018年 UC Berkeley, Chemistry(交換留学、1年間)
2018-2018年 UCLA, Kanar研(研究インターン、3ヶ月間)
2020年–現在 UCLA, Chemistry(PhD課程)

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kanako

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アメリカの製薬企業の研究員。抗体をベースにした薬の開発を行なっている。
就職前は、アメリカの大学院にて化学のPhDを取得。専門はタンパク工学・ケミカルバイオロジー・高分子化学。

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