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スポットライトリサーチ

振動強結合によるイオン伝導度の限界打破に成功

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第429回のスポットライトリサーチは、北海道大学大学院理学研究院化学部門 物理化学研究室(村越研究室)の福島 知宏(ふくしま ともひろ)講師にお願いしました。

村越研究室では、効率的な再生可能エネルギー生産に直結する電極反応系の開拓に取り組んでいます。具体的には、電極表面の構造制御による水電解技術の開発や、物質の電子励起状態を極端に安定化させる金属・誘電体の規則的ナノ配列構造の設計・作製、イオン導電体の抵抗損失を飛躍的に低減する新しい技術開発などについて研究を行っています。

本プレスリリースの研究成果はイオン伝導度に関する内容で、電解質水溶液のイオン伝導度を向上することができれば、エネルギー損失の少ない有効な電気化学エネルギー変換が可能となりますが、一般に水の動的物性は制御できないため向上は不可能でした。一方で、量子光学の分野においては、振動強結合と呼ばれる分子の物性改革手法が知られつつあり、化学反応の制御や結晶化過程の制御などが可能とされており、分子間の相関や基底状態でのポテンシャルエネルギーを変化させることが提案されてきました。

振動強結合状態におけるエネルギー図。分子振動のエネルギーと、共振器のエネルギーを一致させたときに真空場―分子混成状態である振動強結合状態が誘起される。(出典:北海道大学プレスリリース)

そこで本研究では、イオンのとりまく水分子の動的物性を制御可能とする振動強結合を用いることにより、電解質水溶液におけるイオン伝導度の向上に挑戦しました。

この研究成果は、「Journal of the American Chemical Society」誌およびプレスリリースに公開されています。

Inherent Promotion of Ionic Conductivity via Collective Vibrational Strong Coupling of Water with the Vacuum Electromagnetic Field

Tomohiro Fukushima, Soushi Yoshimitsu, and Kei Murakoshi

J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 27, 12177–12183
DOI: doi.org/10.1021/jacs.2c02991

研究室を主宰されている村越 敬 教授より福島講師についてコメントを頂戴いたしました!

福島知宏さんは、しっかりした物質観を大学院から博士研究員までのキャリアを積む間に涵養して来ました。また単に物質系を創るだけではなく、物理化学的な理解に基づく機能化を推進した経験も有します。さらに特徴的なキャラクターとして、ものごとを包括的にかつ限界まで理解しようとするその貪欲とも言える知識欲も持っています。まだ若いのに(まあ、比較的)こんなことまで知っているのかというような旧い文献も引っ張り出してきて議論を挑んでくることもしばしばです。今回の研究は、当研究室で世界の最先端を見極めて自分なりにチャレンジすべきポイントを明確に定めて、辛抱強く諦めず学生と連携して得られた成果基づきます。周囲は興味深い現象に色めき立ち、世界中から「面白い」「本当か?」「・・・の理論に照らしておかしい」などのコメントが来ていますが、本人は飄々とした顔で「これは始まりに過ぎない。」とか言っています。今後の発展も含めて、是非、見守って頂ければと思います。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

電解質水溶液においてイオンを高速に流すことができれば、燃料電池や水電解などのエネルギー変換デバイスの高効率化が可能となります。特に水の有する反応性や輸送特性などの基礎物性は上記デバイス特性を決定づけますが、水の物性は一般に不変です。

今回我々は振動強結合と呼ばれる物性制御手法に着目しました。強結合現象は量子光学などの分野で知られている光―物質相互作用の研究対象ですが、近年では分子の有する物性の変調が暗条件でも可能との提案がされています。これまでにフランスのThomas Ebbesenらのグループを中心として有機化学反応の反応性制御や結晶化過程の制御などが提案されています。今回我々は電気化学的に重要な水に着目し、共振器モードを利用することにより、イオン伝導度の限界打破に成功しました。特にプロトン伝導においては10倍以上ものイオン伝導度の向上が可能となりました。さらには本系が振動強結合状態において重要となる結合強度との相関があることを実験的に明らかとしました。

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

測定系には特にこだわりました。今回の計測では厚さがサブµmレベルで制御された電解質水溶液の分光計測と電気化学計測が必要です。そのため電気化学セルの開発においては試作機の作成を繰り返し、セルを作成しました。また研究室でも振動強結合の研究が初めてだったために、学生実験の赤外分光装置を利用して、コツコツとコントロール実験を繰り返すことで水のOH伸縮振動が振動強結合を示すことを明らかとしました(T. Fukushima, S. Yoshimitsu, K. Murakoshi, J. Phys. Chem. C 2021, 125, 46, 25832–25840.)。そのうえで電気化学特性評価においても、分光計測による共振器モード、ポラリトン状態を決定しながら、交流インピーダンス計測により、イオン伝導度、誘電率の物性変化を同時に観測し、電解質水溶液の種類を検討することにより、得られた物性変化が共振器モードに依存し、かつ振動強結合に由来しているということを明らかとしました。

この研究はちょうど2020年のコロナ禍が始まった頃に当時B4だった吉光創之くんと始めた研究ですが、研究を始めた頃にちょうど子供が生まれ、1歳になる頃に論文を投稿し、2歳になる頃に論文が受理されました。プライベートな意味でも研究の面でも色々と転換期となったという意味で多分忘れることができない研究と思います。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

サブµmレベルでの物性計測も大変だったのですが、論文出版には長い時間を要しました。そもそも振動強結合の実験研究が世界的に少なく、電気化学特性評価などの論文はこの論文が初めてでした。そのために非常に懐疑的あるいは感情的なコメントが査読者から来て、実験事実を丁寧に説明する必要がありました。実際には電解質水溶液の水和の寄与に関して種々の説明を行った上で、振動強結合における分野の現状を再整理し、論文を改定することにより、論文が受理されました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

その時代の流行を取り入れつつも、原理原則に立ち返り温故知新となるような研究を着実に進めることは重要なのかと考えています。ちょうど今回の研究は量子光学や電気化学、水の物性など様々な知見を必要として、境界領域で研究をすすめると、新たな発見があるかと考えています。物理化学的な手法を利用しながら、分子の有する特性を最大に引き出せるようなアプローチを進めていきたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

日本の化学をみんなで盛り上げられるような研究をしたいです。一見常識だと思っていたものや同じ物質でも視点を変えたり、新たな手法を取り入れることで色々な側面を見せることができるというのも化学の良いところかなと思っています。

研究者の略歴

名前

福島 知宏(ふくしま ともひろ)

所属

北海道大学大学院理学研究院化学部門 講師

略歴

2005-2009 京都大学工学部工業化学科

2009-2014 京都大学大学院工学研究科合成・生物化学専攻

2014-2016 マサチューセッツ工科大学化学科 日本学術振興会海外特別研究員

2016-2017 JST-ERATO伊丹分子ナノカーボンプロジェクト博士研究員

2017-2022 北海道大学大学院理学研究院化学部門助教

2022-現在  現職

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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