[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

自分の強みを活かして化学的に新しいことの実現を!【ケムステ×Hey!Labo 糖化学ノックインインタビュー④】

[スポンサーリンク]

2021年度科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)に採択された『糖鎖ケミカルノックインが拓く膜動態制御(略称:糖化学ノックイン)』について、研究チームのメンバーにお話を伺いました。

 

インタビュー第4回は、京都大学化学研究所物質創製化学研究系・助教の上田善弘先生のインタビューです!

 

 

糖鎖機能のオン/オフを「あやつる」

 

はじめに、ご自身の専門領域について聞かせてください。

 

上田

触媒反応の開発をしていて、化合物の中でも主にを扱っています。
糖は構造に水酸基がいっぱいあるのですが、その一つを狙って変換させる触媒反応の開発をしています。研究のモチベーションとしては、超酵素様反応ともいえる酵素でもできないような変換を開発してみたいということで研究を行っています。

 

酵素でもできないような変換!

 

上田

専門用語で難しいかもしれないですけど、酵素はいろんな選択性を制御しながら反応しています。

 

選択性?

 

上田

例としては、グルコース誘導体は水酸基が4つありますが、普通に反応させると制御が非常に困難で全部反応してしまう。僕の先生だった川端先生が開発した有機分子触媒は、決まった場所だけに反応を起こすことができるんです。
これを使って糖由来の有用化合物の全合成、つまり簡単な化合物からちょっと複雑な化合物をつくる研究をやっていました。

 

今回の領域ではどのような研究をされていますか。

 

上田

3つのグループのうち「あやつる」を担当しています。
糖鎖をタンパク質にくっつけると分子認識されてタンパク質の行き場所が決まるんじゃないかと考えていているのですが、ある部分だけを反応させておくと分子認識が起こらなくなる。そして、修飾が外れると糖鎖認識が起こってタンパク質が動いていくというようなプランを立てています。

 

タンパク質の動きをあやつるのですね!

 

上田

糖鎖には水酸基がたくさんあるのですが、選択的変換は現状ではほぼ不可能です。僕の役割としては、これまでやってきた触媒反応を活かして、糖鎖のある一部分だけを変換させて研究に用いることですね。
「つくる」グループが作った糖鎖に修飾を施して糖鎖機能のオン/オフを実現したいというイメージです。

 

ご自身のこれまでの研究と近いのでしょうか。

 

上田

そうですね。ただ糖鎖構造を識別して一個だけ水酸基を変換させることは、これまでやったことないので非常にチャレンジングです。方法論がないのでなかなか難しいと思います。

 

 

自分の強みを活かして化学的に新しいことを実現したい

 

反応化学と生命科学の異分野融合のテーマだと思いますが、その点についてどのように考えていますか。

 

上田

僕のバックグラウンドは化学ですが、今回のテーマは生命科学よりの研究ですね。化学的な観点から見て、生体内では「こんなこともできるのか!」という反応が多くあり、新しいチャレンジをしているような気持ちです。
生命科学の方と話すことで、今まで自分では考えてこなかった用途の反応開発が求められていることがわかり、そこにこれまでの強みが活かせるんじゃないかと思っています。

 

他分野の方と一緒にやっていくことで刺激などはありますか。

 

上田

多くありますね。今回のテーマ以外でも一緒にやれたらいいなというテーマも出てきていて楽しいです。

 

それは良いですね!
今回の領域への意気込みや思いについて聞かせてください。

 

上田

学生時代からずっと化学を研究してきたので、応用的な興味というより自分の強みを異分野で活かして化学的に新しいことを実現したいという思いが一番強いです。

 

新しい分野への挑戦になるかと思いますが、難しさなどは感じられますか。

 

上田

これまで生命科学の人とはあまりディスカッションをしたことがなく、使っている用語から分からないこともありました。分野が変わると考え方も用語も違うので最初は大変でしたね。
でも勉強していくと、自分の中に少しずつ知識が付いてきてディスカッションできるレベルになる。それだけでも研究が広がったなという実感があります。

 

打ち合わせはずっとオンラインでされていると聞いたのですが、研究自体は問題なく進められるのでしょうか。

 

上田

ディスカッションという意味では全く不便はないですね。物のやりとりも郵便で送ってしまえばいいので。
実際に実験している風景を見たりとか、実験技術を伝え合ったりっていうのはなかなか難しいかもしれない。

 

皆さんの研究がオンラインで繋がり、そこから新しいものが生まれるというのは新しい気がします!

 

上田

コロナ禍前からのことなので慣れてしまえばストレスはほとんどないです。
ただ一回どこかで会いたいなという話はずっとしていますが、なかなか会えない状況で一年が経ちました。(笑)

 

 

自分で面白さを発見することで熱中する

 

もともとご自身の研究分野に興味を持った背景や研究者になろうとしたきっかけについて聞かせて下さい。

 

上田

僕は漠然と薬を作りたいと思って薬学部に入りました。それで分子を作れないとどうにもならないかなという気持ちで、有機化学の研究室に入っていきました。

 

もともと化学に興味があったという感じではないんでしょうか。

 

上田

そうですね、すごく漠然としていました。
それで研究室に入ってドクターの先輩方や研究活動がとても刺激的でドクターに行ってみようという気持ちになりました。

 

研究室のときの経験が今に繋がるのですね!
最後になにか伝えたいメッセージなどを聞かせてください。

 

上田

学生には何かに熱中してみることをしてほしいなと思います。
元々これがやりたいと思ってなくても、真剣に取り組んでみると面白さが分かってくる。自分で面白さを発見したときが一番楽しいんじゃないかなと思います。

 

やりたいことが分からないという人も多いと思いますが、まずはやってみるということですね!

 

上田

たぶん僕もそういう感じで、自分であれこれやってみている内に面白さを発見していったような気がするので、そんなにやりたいこととか難しく考える必要はないと思いますね。時には流されてみてもいいんじゃないかなと思います。

 

 

*本記事は研究室が発信するブログメディア「Hey!Labo」(運営:株式会社ロフタル)による寄稿記事です。

Hey!Labo記事URL:https://hey-labo.com/labo/glycan-chemical-knockin/blog/623

 

インタビュー担当:株式会社ロフタル

Loftal株式会社ロフタルは「ITを通じて楽を追求する」をテーマに、ITの専門性の高いメンバーが中心となって事業を行う技術系の会社です。研究室のホームページを簡単に作成できるサービス「Labby」、研究室が発信するブログメディア「Hey!Labo」、顧客管理やお問い合わせ管理、画像や文書ファイルなどあらゆるデータをブラウザ上でらくらく管理できるサービス「Pigeon Cloud」など、様々なサービスを展開しております。

 

 

 

糖化学ノックイン

投稿者の記事一覧

2021年度科学研究費助成事業 学術変革領域研究(B)「糖化学ノックイン」の広報アカウントです。生体分子現象の一つ「糖タンパク質の膜動態」にフォーカスし、生命系を理解し制御するための新たな反応化学技術「ケミカルノックイン」の確立を目指しています。
領域ホームページ:https://glycan-chemical-knockin.com/

関連記事

  1. 第17回ケムステVシンポ『未来を拓く多彩な色素材料』を開催します…
  2. ヒドリド転位型C(sp3)-H結合官能基化を駆使する炭素中員環合…
  3. 不斉Corey-Chaykovskyエポキシド合成を鍵としたキニ…
  4. 直鎖アルカンの位置選択的かつ立体選択的なC–H結合官能基化
  5. シリルエノールエーテルのβ位を選択的に官能基化する
  6. 生物発光のスイッチ制御でイメージング
  7. ハロゲン原子の受け渡しを加速!!新規ホウ素触媒による触媒的ハロゲ…
  8. ゲルのやわらかさの秘密:「負のエネルギー弾性」を発見

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 工程フローからみた「どんな会社が?」~タイヤ編 その3
  2. 最近の有機化学注目論文1
  3. 「えれめんトランプ2.0」が発売された
  4. ポットエコノミー Pot Economy
  5. 有機合成の進む道~先駆者たちのメッセージ~
  6. 千田憲孝 Noritaka Chida
  7. ペロブスカイト太陽電池が直面する現実
  8. エリック・アレクサニアン Eric J. Alexanian
  9. 周期表を超えて~超原子の合成~
  10. ChemRxivへのプレプリント投稿・FAQ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2022年2月
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28  

注目情報

最新記事

保護基の使用を最小限に抑えたペプチド伸長反応の開発

第584回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 薬学系研究科 有機合成化学教室(金井研究室)の…

【ナード研究所】新卒採用情報(2025年卒)

NARDでの業務は、「研究すること」。入社から、30代・40代・50代……

書類選考は3分で決まる!面接に進める人、進めない人

人事担当者は面接に進む人、進まない人をどう判断しているのか?転職活動中の方から、…

期待度⭘!サンドイッチ化合物の新顔「シクロセン」

π共役系配位子と金属が交互に配位しながら環を形成したサンドイッチ化合物の合成が達成された。嵩高い置換…

塩基が肝!シクロヘキセンのcis-1,3-カルボホウ素化反応

ニッケル触媒を用いたシクロヘキセンの位置および立体選択的なカルボホウ素化反応が開発された。用いる塩基…

中国へ行ってきました 西安・上海・北京編①

2015年(もう8年前ですね)、中国に講演旅行に行った際に記事を書きました(実は途中で断念し最後まで…

アゾ重合開始剤の特徴と選び方

ラジカル重合はビニルモノマーなどの重合に用いられる方法で、開始反応、成長反応、停止反応を素反応とする…

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP