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一般的な話題

始めよう!3Dプリンターを使った実験器具DIY:3D CADを使った設計編その2

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3Dプリンターを使って実験器具をDIYするこの企画ですが、第三弾はついにフラスコ受けを作ります。

復習・今回の目標

前回の記事では3D CADであるFusion 360を使ってNMRチューブホルダーを作りました。平面のスケッチを描き、それを押し出す操作の繰り返しだけで多機能の造形を作ることができました。

今回は、一口と三口のナスフラスコホルダーを作っていきます。

100 ml フラスコホルダー:受け部

フラスコホルダーの場合Z軸方向に変化が大きいモデルになるので、XZ(YZ)面にスケッチを描きそれを360°回転させて3Dモデルにします。まずフラスコの曲面に合わせたモデルを作る方法ですが、写真を撮ってそれを取り込み外形に合わせてスケッチを行いました。

最初にフラスコの写真を取り込みます。

写真を取り込んだ様子

次に実際のサイズに合わせるためにフラスコの一番太いところの円周を巻尺で測り、直径を計算します。その値を写真上のフラスコの直径の距離に入力してこれから作るモデルに合わせます。

上から三番目の位置合わせという機能を使う

さらに写真を移動させてフラスコがZ軸の中心、X軸の上に乗るようにします。これでフラスコに沿って図形を作ると回転で適切なモデルを作ることができます。最初はサイズ合わせとスケッチを描く位置が重要であることに気づかず、何度も失敗しました。

次にXZ面にスケッチを描きます。線分で外周と底面を作り、フィット点スプラインでフラスコの曲面に合わせて曲線を描きます。

直線を描くツールである線分

曲線を操るフィット点スプライン

 

フィット点スプラインは、Adobe Illustratorといったイラスト作成ソフトで曲線を作り出す機能とほぼ同じ機能で、変化点をいくつか置き、ハンドルで角度を微調整します。

フラスコの形に合わせてハンドル(緑色の点)を調節した様子

スケッチが完了したら回転によって3Dにします。今回はZ軸で360°回転させました。

スケッチを回転させて3Dモデルを作った様子

100 ml フラスコホルダー:受け部の拡張

フラスコホルダーとしての最低限の構造は完成しましたが、せっかくなので少し拡張しました。まず、転倒しないようにするため、土台を広げました。

底面の拡張

ホルダーに落ちた水滴などが下に排出されるように穴を空けました。方法は、NMRチューブホルダーを作った時のようにスケッチから押し出しを行いました。

排水用の穴の配置

土台を拡張したことで何かを書き込めるスペースができたので、サイズと名前を掘り出しました。こちらも前回と同様の方法です。

サイズの確認と強奪防止のための掘り出した文字。

100 ml フラスコホルダー:更なる安定性を求めて

このモデルではフラスコの深いところまでカバーされており安定性は高いと予想されますが、ロートを刺してろ過しながら液体を受けていると物を不意に当ててしまい、フラスコが傾いてしまうことがあります。それを防ぐために上から被せるサポーターを作りました。

作り方は同じはほぼ同じですが、印刷することを考えて上下逆で作りました。

フラスコに被せるホルダーの設計。写真を逆にしてスケッチを作成した。

印刷結果

当初は、二つのモデルを同時に印刷しようとしましたが、ステージの端は張り付きが悪く一つ一つ印刷せざるを得ませんでした。自分の機種ではステージをフルに使って印刷することは難しそうです。

完成品

印刷物はきれいな出来上がりですが、フラスコを乗せてみると滑ってしまい直立させることは少し難しいようです。もちろんある程度深さがあるので横になっても転がり落ちることはありませんが、それなりの量の液体が入っているとこぼれてしまうでしょう。

フラスコを乗せた様子

傾いた時の様子

被せるサポーターについても役に立ちますが、下のホルダーと引っかかりが無いので、フラスコと共に動いてしまいます。そしてサポーターをひっくり返してフラスコを置いた方が安定するというオチ。。。

被せた様子

サポーターをフラスコ受けに使用した様子

ということで使えないことはないものの、かなり使いにくいフラスコホルダーとなってしまいました。

200 ml フラスコホルダーでリベンジ

100 mlでの失敗を活かして200 mlナスフラスコのホルダーを作成しました。操作方法は同じなので省略しますが、よりフラスコが安定するように少し変更を行いました。まずサイズですが、100 mlの場合ではぶかぶかでしたので、フラスコよりも若干小さめにしました。また、倒れてもフラスコが寄りかかれるように外周を高くしました。

200 mlフラスコのホルダーのスケッチ。これを360°回転させて3Dモデルにした。

200 mlフラスコのホルダーのモデル

結果、フラスコはすぽっと入るようになり、安定性が格段に増しました。

印刷してフラスコを乗せた様子

少し傾いても安定しているところから、底面がよくフィットしていることが分かる。

100 ml同様、フラスコに被せるサポーターも作りましたが、かなり頑張らないと入らない造形になってしまいました。こちらは気が向いたら削って入るようにするつもりです。

ホルダー(左)サポーター(右)。フィラメントが無くなってしまい、新しく購入したカラフルなフィラメントで印刷した。好きな色の造形を作ることができるのも3Dプリンターで物を作る醍醐味の一つである。

被せた様子

三ツ口フラスコに挑戦

この記事での最終課題として三ツ口フラスコ向けのホルダーを作りました。

いろいろな三ツ口フラスコがありますが、100 mlの容量でサイドの口が斜めに接続しているタイプです。底から頭まで広がっているため一つ口のフラスコよりも傾きやすく、傾くと中央の大きな口から内容物がどばーっと出てしまう危険性があります。このフラスコを安定化させる方法はいくつかあると思いますが、外周を口元まで引き上げる戦略でモデルを作りました。

底部を支える部分の作成

途中までは上記と同じで、フラスコの底の形に合わせてスケッチを作り、回転によって受けるところを作ります。

次に最上部の形を作りますが、面が無いところにはスケッチはかけないので、オフセット平面で空中にスケッチを描けるエリアを作ります。

オフセット平面

オフセット平面を作った様子。造形上部の青い四角が作られたエリア。

そしてスケッチを描きます。フラスコの上部の写真を参考に平面を決めました。

上部のスケッチ。一部は折り返してコピーしているのでフラスコのふちをトレースしていない。

次に今あるモデル上部に円を描き、ロフトという方法で、モデル上部の円からフラスコ上部をイメージした図形までをつなぎ合わせます。これにより上部に行くほど側部が広がり、フラスコをサイドから支える構造になると考えました。

ロフトによるホルダー上部の作成

このままでは、中が埋まっていますので中を空洞にします。シェルという機能を使用しました。

シェルによって内部をくり抜いた

中は空洞になりましたが、ロフトした底面は抜けませんでしたので円を作って切り抜きました。最後に底部に足を付けて完成させました。

完成モデル

肝心のプリント結果ですが、すっぽりとフラスコが入りました!!!!フラスコが造形の底まで入っているかは分かりませんが、適度にフィットしているので実用性は高いです。

プリントしてフラスコを収めた様子。上部に行くほどイエローになっていてインスタ映えします。

今回、フラスコのホルダーを作ってみましたが、どの場合でも本で作り方を勉強しながら2時間以内で完成させました。たくさんの機能を覚える必要は無く、基本的な方法の習得とどう3Dにするかのアイディアで、作ることができるモデルは無限大になると思います。次回は、さらに複雑なガラス器具のホルダーを新たな道具を駆使して簡単に作ります。

関連書籍

3Dプリンターを使った実験器具DIYのケムステ過去記事

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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