[スポンサーリンク]

ケムステニュース

MIT、空気中から低濃度の二酸化炭素を除去できる新手法を開発

[スポンサーリンク]

MITの化学工学 Ralph Landau教授のT. Alan Hatton氏らは、空気中から二酸化炭素を除去する新しい方法を開発した。およそ400ppmという低濃度にも対応できるもので、研究成果は2019年10月1日、『Energy and Environmental Science』誌に掲載されている。 (引用:fabcross 12月4日)

工場や発電所などから二酸化炭素を回収することは地球の温暖化を防ぐ上で重要な研究課題であり、吸着剤やアミンを使って二酸化炭素を吸着させるなど様々な方法が研究されています。しかしながら多くの方法は、排出されるときの二酸化炭素濃度が高いとき(10%以上)に効果を発揮するものであり、低濃度では効率が悪いのが現状です。また、吸着させた二酸化炭素を放出する際に、圧力を変えたり熱をかけたりとたくさんのエネルギーが必要なことも課題の一つです。

そこで本研究では、電気化学反応を使って二酸化炭素の吸着と脱着を行う方法を開発しました。鍵となる分子はPoly-1,4-anthraquinonePolyvinylferroceneで、それぞれを負極と正極に用いることで、充電と放電現象とともに二酸化炭素の吸着と脱着を可能にしました。具体的には充電する際にはPoly-1,4-anthraquinoneが電子を受け取り還元されると同時に二酸化炭素と反応して炭酸イオンに変化し、Polyvinylferroceneの鉄が電子を放出して酸化されます。放電する際には、Poly-1,4-anthraquinoneが電子と二酸化炭素を放出してPolyvinylferroceneの鉄イオンが電子を受け取り還元される仕組みです。

吸着時の電極反応

脱着時の電極反応

このPoly-1,4-anthraquinoneは、二段階の酸化還元電位があり2電子を受け取ることができます。ただし、一段階目で還元されると、求電子性が低くなり二段階目の還元反応は起きにくくなります。一方で、二酸化炭素が存在する系では、一段階目で還元された後に二酸化炭素が結合します。この一置換体の場合、炭酸イオンが電子を吸引されるためPoly-1,4-anthraquinone自体の求電子性が低下せずに、還元されやすいまま2分子目の二酸化炭素と反応することできます。このような機構によって効率的に二酸化炭素を吸着することに成功させました。

還元反応

有望な反応機構でも反応効率は、装置によって大きく変化します。本研究でも効率の良い反応を促進するため、上記の化合物をカーボンナノチューブ(CNT)に吸着させて使いました。具体的には、Poly-1,4-anthraquinoneとPolyvinylferroceneそれぞれをCNTに吸着させ、それを電極板となるカーボンマットの不織布に染み込ませ乾燥させました。どちらの電極においても染み込ませた後ゆっくり乾燥させることが重要で、これによりCNTとPoly-1,4-anthraquinone、Polyvinylferrocene複合体が均一にコーティングされることがわかりました。このような製法で作られた電極を使い、二酸化炭素を吸着できるシステムを試作したところ、7000回以上の繰り返し性能を60%から70%のquinone 利用率、90%のファラデー効率で二酸化炭素を吸着させる能力があることがわかりました。二酸化炭素の濃度を変えて実験を行ったところ、化石燃料を燃焼させたときの典型的な二酸化炭素の濃度である10%だけでなく、低い濃度 (0.6–0.8%)でも吸着能を発揮できることがわかりました。他の二酸化炭素吸着方法では圧力や温度の差が吸脱着能力を左右するものの、この方法では環境に依存せず常に一定の能力を発揮できることが大きなメリットであり、二酸化炭素の濃度によらずいろいろな場所で使うことができると主張しています。具体的には、他の方法では、二酸化炭素の濃度に応じて1トンあたり1~10ギガジュールのエネルギーを使うものの、この方法では、濃度によらず1ギガジュールのエネルギーで回収できるとしています。

温度変化による吸脱着反応(左上)では温度差によって、圧力変化による場合(右上)では、圧力差によって有効吸着容量が変わる。一方でこの方法(下)では、圧力によって変化しないため有効吸着容量は変わらない。

 

実用面に関して、電池の電極はロールツーロールで製造することができ、電極1平方メートルあたり数十ドルで生産できると推定しています。研究チームではVerdoxというスタートアップを設立し商業化を進めるそうです。二酸化炭素の回収については、吸着材の研究が広く行われている中、これは興味深い機構の二酸化炭素回収技術だと感じました。高効率を引き出すために、高い温度や圧力が必要な場合、付随設備も高価で巨大になりがちです。その点、使用環境に依存せずに高効率で二酸化炭素を回収できることは、大規模な工場だけでなく小規模な二酸化炭素の発生拠点でも実用レベルで活用できる可能性があるように思います。

二酸化炭素の問題は、回収して終わりではなく、貯蔵か他の物質に変換するところまで開発しなくてはなりません。地下貯蔵が有望な最終処分方法のように思えますが、貯蔵できる場所は土地の地形によって限られています。そのため、プラントなどで変換する技術も必要で、上記のような回収技術と二酸化炭素を原料とする化学反応を組み合わせ、回収から化学変換までを限られた場所で完結させるのが理想の処理方法ではないかと思います。

関連書籍

関連リンク

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. ナノチューブを大量生産、産業技術総合研が技術開発
  2. ノーベル賞・田中さん愛大で講義
  3. ソウル大教授Nature Materials論文捏造か?
  4. 三共、第一製薬が統合へ 売上高9000億円規模
  5. 大麻複合物が乳がんの転移抑止効果―米医療チームが発見
  6. がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却…
  7. 歯のバイオフィルム除去と病原体検出を狙ったマイクロロボットの開発…
  8. サリドマイド、がん治療薬に

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第99回日本化学会年会 付設展示会ケムステキャンペーン Part I
  2. 人前ではとても呼べない名前の化合物
  3. 第47回「目指すは究極の“物質使い”」前田和彦 准教授
  4. 軽くて強いだけじゃないナノマテリアル —セルロースナノファイバーの真価
  5. 金属原子のみでできたサンドイッチ
  6. 胃薬のラニチジンに発がん性物質混入のおそれ ~簡易まとめ
  7. 貴金属触媒の活性・硫黄耐性の大幅向上に成功
  8. 99.7%の精度で偽造ウイスキーを見抜ける「人工舌」が開発される
  9. Chemistry on Thanksgiving Day
  10. 有機化学命名法

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年12月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

先端事例から深掘りする、マテリアルズ・インフォマティクスと計算科学の融合

開催日:2023/12/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

最新の電子顕微鏡法によりポリエチレン分子鎖の向きを可視化することに成功

第583回のスポットライトリサーチは、東北大学大学院 工学研究科 応用化学専攻 陣内研究室の狩野見 …

\脱炭素・サーキュラーエコノミーの実現/  マイクロ波を用いたケミカルリサイクル・金属製錬プロセスのご紹介

※本セミナーは、技術者および事業担当者向けです。脱炭素化と省エネに貢献するモノづくり技術の一つと…

【書籍】女性が科学の扉を開くとき:偏見と差別に対峙した六〇年 NSF(米国国立科学財団)長官を務めた科学者が語る

概要米国の女性科学者たちは科学界のジェンダーギャップにどのように向き合い,変えてきたのか ……

【太陽ホールディングス】新卒採用情報(2025卒)

■■求める人物像■■「大きな志と好奇心を持ちまだ見ぬ価値造像のために前進できる人…

細胞代謝学術セミナー全3回 主催:同仁化学研究所

細胞代謝研究をテーマに第一線でご活躍されている先生方をお招きし、同仁化学研究所主催の学術セミナーを全…

マテリアルズ・インフォマティクスにおける回帰手法の基礎

開催日:2023/12/06 申込みはこちら■開催概要マテリアルズ・インフォマティクスを…

プロトン共役電子移動を用いた半導体キャリア密度の精密制御

第582回のスポットライトリサーチは、物質・材料研究機構(NIMS) ナノアーキテクトニクス材料研究…

有機合成化学協会誌2023年11月号:英文特別号

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年11月号がオンライン公開されています。…

高懸濁試料のろ過に最適なGFXシリンジフィルターを試してみた

久々の、試してみたシリーズ。今回試したのはアドビオン・インターチム・サイエンティフィ…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP