[スポンサーリンク]

ケムステニュース

TSMCを支える化学企業

[スポンサーリンク]

TSMCが、2022年に技術協力、材料開発、量産支援、施設建設管理、品質管理分野において卓越した成果をあげたサプライヤ18社に対して「2022 TSMC Excellent Performance Award」を授与したことを発表した。  (引用:TECH+2月13日)

ドイツの化学大手Merckは2023年2月8日、台湾・高雄市において、半導体材料の新工場の建設を開始した。2025年に稼働予定で、薄膜、パターニング用の特殊ガスおよび半導体材料を生産する。(引用:EE Times 2月13日)

世界有数の半導体製造会社であるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)と取引を行う化学企業についてのニュースを2件紹介します。

1件目は、1月18日に発表された2022 TSMC Excellent Performance Awardについてで、卓越した貢献とサポートを行った優秀なサプライヤーをTSMCが表彰したものです。

日本からは、JSRKOKUSAI ELECTRIC, 信越半導体, SUMCO, 住友重機械イオンテクノロジー, トクヤマ, 東京エレクトロンが選出されました。このうち材料メーカーはJSR, 信越半導体, SUMCO, トクヤマで、トクヤマ以外の三社は昨年もこの賞を受賞しました。

JSRでは、光を使ってシリコンウェハに微細なパターンを作るフォトリソグラフィと呼ばれる半導体の製造工程で使う材料を製造しています。特に照射される光に反応して変化を起こすフォトレジストや、液浸露光の際に使われる液体からフォトレジスト材料を守る液浸露光用トップコートでは、高いグローバルシェアを持っているそうです。

フォトリソグラフィのイメージ(出典:Inpriaとは? ~フォトレジスト業界の重要トピック~

JSRではリソグラフィー材料の他にもCMP(Chemical Mechanical Planarization:化学的機械的研磨)に使われるスラリーやその洗浄剤も製造しています。

信越半導体は信越化学工業のグループ会社で、半導体製造において様々な表面加工を施す土台となるシリコンウェハーを製造しています。SUMCOも同様にシリコンウェハーを製造している企業です。トクヤマでは、シリコンウェハーと半導体の洗浄に使うIPAなどを製造しています。

材料メーカーの中では、日本企業以外で唯一2022 TSMC Excellent Performance Awardを受賞したeChem Solutionsは、台湾の企業でありフォトレジストや反射防止膜などのフォトリソグラフィに関連した材料の製造を行っています。日本にも拠点を持ち、フォトレジストに関連した研究開発を主に行っているようです。

材料メーカー以外に目を向けるとKOKUSAI ELECTRIC, 住友重機械イオンテクノロジー, 東京エレクトロンは、半導体製造プロセスで使われる装置を製造している会社です。

2件目は、メルクの台湾での活動に関するニュースです。メルクでは、半導体製造で使う特殊ガスと成膜・パターニング材料を製造する新工場を台湾の高雄市に建設開始しました。工場の面積は150,000 m2で東京ドーム3.2個分の広さとなり、段階的に拡張していくそうです。メルクではフォトレジスト材料やリンス液、エッチングガス、成膜材料など様々な半導体材料を製造しており、新しく建設している工場でも幅広い製品を製造していくそうです。

さらにメルクはエレクトロニクス事業に対して積極的な投資を継続的に行うことを発表しており、2022年には同じく台湾の高雄市に特殊ガスの安全な供給装置の製造拠点を、上海にOLEDの製造・開発拠点をそれぞれ開所しました。日本も例外ではなく、静岡県掛川市にある研究開発・製造拠点を強化することを発表しています。

2021年1月に開所した静岡県掛川市のセントラルオフィス(出典:メルクニュースリリース

1件目に関して、日本の化学企業が半導体製造を材料の分野で支えていることは過去に何度か紹介しましたが、本ニュースでも品質の高さや供給安定性が示された結果だと言えます。ここで挙げた多くの企業が台湾で材料の製造を行っているようで、昨今の物流の危機的状況がどれほど影響があるかは分かりませんが、原料の輸入なしでは製品の製造することは難しく安定供給を維持するのに大変な努力があると想像できます。TSMCは熊本に工場を建設しており、2024年末の稼働を目指しています。ここでも日本の化学企業が活躍することを期待します。一方2件目は、ドイツの化学大手メルクの動向についてで、積極的にアジアでの研究開発・製造の能力を高めているようです。製造・開発拠点の検討においては、顧客との物理的距離は重要な要素ですが、国の情勢によっては拠点を閉鎖せざる負えなくなる場合もあり、いろいろなリスクも加味して各社、拠点の新設・強化を行っていると想像されます。メルクとしては、半導体製造拠点が集まる中国・台湾だけでなく日本にも投資を行っているようです。日本の企業の動きだけでなく、海外企業の日本での活動にも目が離せません。

関連書籍

半導体に関するケムステ過去記事

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 赤キャベツから新しい青色天然着色料を発見 -青色1号に代わる美し…
  2. 画期的な糖尿病治療剤を開発
  3. 米国ACSジャーナル・冊子体廃止へ
  4. アルツハイマー病に対する抗体医薬が米国FDAで承認
  5. 世界5大化学会がChemRxivのサポーターに
  6. JSR、東大理物と包括的連携に合意 共同研究や人材育成を促進
  7. 関大グループ、カプロラクタムの新製法開発
  8. アラン・マクダイアミッド氏死去

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ケイ素置換gem-二クロムメタン錯体の反応性と触媒作用
  2. モータースポーツで盛り上がるカーボンニュートラル
  3. N,N-ジメチルアセトアミドジメチルアセタール : N,N-Dimethylacetamide Dimethyl Acetal
  4. 千田憲孝 Noritaka Chida
  5. 「オープンソース・ラボウェア」が変える科学の未来
  6. 第77回―「エネルギーと生物学に役立つ無機ナノ材料の創成」Catherine Murphy教授
  7. その構造、使って大丈夫ですか? 〜創薬におけるアブナいヤツら〜
  8. 第一三共/イナビルをインフルエンザ予防申請
  9. ファンケル、「ツイントース」がイソフラボンの生理活性を高める働きなどと発表
  10. Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 5th Edition

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2023年2月
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728  

注目情報

最新記事

第8回 学生のためのセミナー(企業の若手研究者との交流会)

有機合成化学協会が学生会員の皆さんに贈る,交流の場有機化学を武器に活躍する,本当の若手研究者を知ろう…

UBEの新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇、放映開始

UBE株式会社は、2023年9月1日より、新TVCM『ストーリーを変える、ケミストリー』篇を関東エリ…

有機合成化学協会誌2023年9月号:大村天然物・ストロファステロール・免疫調節性分子・ニッケル触媒・カチオン性芳香族化合物

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2023年9月号がオンライン公開されています。…

ペプチドの精密な「立体ジッパー」構造の人工合成に成功

第563回のスポットライトリサーチは、東京大学大学院 工学系研究科応用化学専攻 藤田研究室の恒川 英…

SNS予想で盛り上がれ!2023年ノーベル化学賞は誰の手に?

さてことしもいよいよ、ノーベル賞シーズンが到来します!化学賞は日本時間 10月4日(水) 18時45…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2023年版】

各媒体からかき集めた情報を元に、「未来にノーベル化学賞の受賞確率がある、存命化学者」をリストアップし…

DMFを選択的に検出するセンサー:アミド分子と二次元半導体の特異な相互作用による検出原理を発見

第562回のスポットライトリサーチは、大阪府立大学(現:大阪公立大学)大学院 工学研究科 電子・数物…

イグノーベル賞2023が発表:祝化学賞復活&日本人受賞

今年もノーベル賞とイグノーベル賞の季節がやってきました。今年もケムステではどちらについても全速力で記…

ポンコツ博士の海外奮闘録XXII ~博士,海外学会を視察する~

ポンコツシリーズ国内編:1話・2話・3話国内外伝:1話・2話・留学TiPs海外編:1話・…

マテリアルズ・インフォマティクスの導入・活用・推進におけるよくある失敗とその対策とは?

開催日:2023/09/20 申込みはこちら■開催概要近年、少子高齢化、働き手の不足の影…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP