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スポットライトリサーチ

国際宇宙ステーション「きぼう」日本実験棟でのColloidal Clusters 宇宙実験

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第541回のスポットライトリサーチは、名古屋市立大学大学院薬学研究科 コロイド・高分子物性学分野の三木裕之(みきひろゆき)さんにお願いしました。

コロイド・高分子物性学分野では、直径100nm程度のコロイド微粒子が液体に分散した「コロイド分散系」を主な研究対象とし、微粒子の自己組織化による規則配列(結晶)構造や、高分子ゲルで固定したコロイド系を用いた新規材料・物理化学センサーの創成など、コロイド・高分子系の構造形成および材料応用に関する研究を行っています。

本プレスリリースの研究内容は、コロイド粒⼦の会合についてです。本研究グループでは、国際宇宙ステーション・「きぼう」⽇本実験棟でコロイド粒⼦の会合に関する実験を行い、地上に輸送された後、会合体の構造について3次元顕微鏡や中性⼦散乱法などを⽤いた詳細な解析を⾏いました。

図2 (左)宇宙実験に⽤いたサンプルバッグ。 「きぼう」内で⾶散しないように、紐で結ばれている。(右)のように、サンプルバッグを押して隔壁を破ることができる。(出典:名古屋市立大学プレスリリース)

この研究成果は、「npj Microgravity」誌に掲載され、またプレスリリースにも成果の概要が公開されています。

Clustering of charged colloidal particles in the microgravity environment of space

Hiroyuki Miki, Teruyoshi Ishigami, Junpei Yamanaka, Tohru Okuzono, Akiko Toyotama, Jitendra Mata, Honoka Komazawa, Yushi Takeda, Madoka Minami, Minori Fujita, Maho Doi, Tsunehiko Higuchi, Hiroshi Takase, Satoshi Adachi, Tetsuya Sakashita, Taro Shimaoka, Masae Nagai, Yuki Watanabe & Seijiro Fukuyama

npj Microgravity 9, 33 (2023)

DOI:doi.org/10.1038/s41526-023-00280-5

研究室を主宰されている山中淳平 教授より三木さんについてコメントを頂戴いたしました!

三木裕之君は現在、博士後期課程3年に在籍して研究に励んでいます。当研究室ではコロイド微粒子の自己集合の基礎研究と、センサーなど医薬分野への応用研究を行っていますが、20年以にわたりJAXA宇宙実験に参加しています。三木君は今回の宇宙実験の準備段階から、他の学生とともに熱心に研究に打ち込んできました。実験に用いたチタニア粒子の合成から構造形成、顕微鏡観察による構造の解析に加え、計算機シミュレーションによる会合状態の研究など、宇宙実験の重要なプロセスに全て参加しています。本宇宙実験の準備には5年以上かかり、宇宙サンプルの解析にも、予想しなかった困難がありましたが、新しい工夫で何とか乗り越えられました。多くの共著者とともに今回の論文をまとめることができ、筆頭著者の三木君をはじめ、一同感慨深いものがあります。宇宙実験を運用された JAXAの方々をはじめ、多くの共同研究者の皆様にも、改めてお礼を申し上げます。

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

本研究では地上では困難である二酸化チタン(チタニア)粒子の会合体形成実験を実施しました。正負に荷電したコロイド粒子は、適切な条件下では粒子間に働くクーロン力によりお互いに引きつけ合い、会合体構造を形成します。クーロン力の大きさは媒体の塩濃度により調整可能で、モデル粒子の検討から、コロイド粒子の会合体構造も塩濃度によってある程度制御できることが分かっています。ダイヤモンド格子構造など、会合体を単位とするコロイド粒子の結晶構造は光学材料への応用が期待されており、近年盛んに研究されています。特にチタニア等の高屈折率材料で構築された構造は光学特性が顕著に見られることから高屈折粒子での検討が重要となります。しかし、一般に高屈折な物質は高比重で、地上では重力の影響を大きく受けます。チタニア粒子も比重がおよそ3–4と大きく、地上では重力により沈降し、マクロな凝集体を形成してしまいます。そこで本研究では微小重力下でコロイド粒子の会合実験を行い、会合体形成における重量の影響について検討し、将来の光材料開発の基礎となるデータの収集を目指しました。

Fig. 1 荷電コロイド粒子の会合体顕微鏡画像

Fig. 2 コロイド粒子の四面体会合体とダイヤモンド格子構造

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

サンプルの長期保存性を改善したことです。当初、サンプルは打ち上げてから実験までに最低3ヶ月間は国際宇宙ステーションで保管される予定でした。このため、保管期間中に試料が劣化しても実験可能な条件を検討する必要がありました。我々の実験ではサンプルをゲルで固めて持ち帰るため、試料中にゲル化試薬をあらかじめ添加しています。ゲル化試薬が実験前に反応せず、かつ、実験後に正常に反応してサンプルを十分に固定できることが重要でした。目標達成に向け、加速試験による最適条件の探索をはじめ、劣化の影響が少ない試薬への変更など試行錯誤を重ねました。最終的には試薬濃度を調整した上でゲル化試薬の成分を別々に保存しておき、実験直後に混合する方法を採用しました。その結果、本番では実験までに9ヶ月程度の保管期間がありましたが、全てのサンプルが宇宙で固定された状態で帰還しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

帰還したサンプルの解析が課題でした。チタニア粒子には正負荷電粒子を識別するため、それぞれ赤と緑の蛍光色素を導入しています。しかし、チタニア粒子は光触媒活性を持ち反応性が高く、長期保存中に赤い蛍光色素の一部を分解して緑の蛍光物質に変化させていました。このため正負粒子を識別できず会合体の解析が困難でした。検討を続ける中で、予め粒子に導入していた蛍光色素が全て分解されていないことに気がつき、蛍光特性の違いを利用することを思いつきました。それぞれの蛍光物質の励起/蛍光波長を調べ、顕微鏡の光学フィルタを適切に選択したことで粒子の識別が可能となり、目的であったチタニア粒子の会合体を観察できました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究は所属研究室の学生だけでなく、多くの研究者、技術者の方々のご支援・ご協力により遂行することができました。将来は、こうしたプロジェクトを支える研究者の1人として化学に貢献できれば幸いです。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回のプロジェクトを通して計画的に研究を行う重要性を実感しました。目標を達成する過程で必要な工程を常に意識することで研究の進捗状況を客観的に見ることができます。限られた時間内でまとまった成果を出すためにも短期的な目標や実行計画だけでなく、中・長期的な研究計画を組むことが大切だと思います。

最後になりますが、本研究の遂行にあたり多大なご尽力、ご指導いただきました山中淳平教授、奥薗透准教授、豊玉彰子准教授をはじめとして、ご支援いただいたプロジェクトの関係者の皆様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。また、予備検討から解析まで一緒に研究を支えてくれた学生の皆様に感謝いたします。

研究者の略歴

三木裕之(みきひろゆき)

所属:名古屋市立大学大学院薬学研究科 コロイド・高分子物性学分野

専門:コロイド、界面化学

経歴:

2019年3月 名古屋市立大学 薬学部 生命薬科学科 卒業

2021年3月 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 創薬生命科学専攻 博士前期課程 修了

2021年4月 名古屋市立大学大学院 薬学研究科 創薬生命科学専攻 博士後期課程 在籍

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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