[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

生体深部イメージングに有効な近赤外発光分子の開発

[スポンサーリンク]

第48回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 生命理工学院・口丸高弘 助教にお願いしました。

口丸先生の属する近藤研究室では、とりわけがん組織に特徴的な微小環境のバイオイメージング法の開発を一つの柱として取り組んでいます。今回紹介する成果は、問題点の一つだった、蛍光分子の長波長化を達成し、それが実際に深部イメージングに有効であることを実証したという内容になります。プレスリリースおよび論文として公開されたことを機に、紹介させて頂く運びとなりました。

“A luciferin analogue generating near-infrared bioluminescence achieves highly sensitive deep-tissue imaging”
Kuchimaru, T.; Iwano, S.; Kiyama, M.; Mitsumata, S.; Kadonosono, T.; Niwa, H.; Maki, S.; Kizaka-Kondoh, S. Nat. Commun. 2016, 7, 11856. doi:10.1038/ncomms11856

研究室を主宰されている近藤科江 教授は、口丸先生をこう評しておられます。

口丸さんは、大学・大学院で量子工学を専攻し、X線顕微鏡を組み立てる研究をしていました。しかし、X線顕微鏡で観る対象である細胞に興味をもち、生物をほぼ独学で習得し、現在は、工学・生物学・医学の境界領域の研究に取り組んでいます。好奇心・探求心が彼の研究を、より大きく、深いものにしています。これからの成長が楽しみです。

それではいつも通り、現場のお話を伺ってみました。

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

生物発光イメージングの重要な課題であった発光波長の長波長化を達成し、生体深部組織の高感度イメージングを可能にする実用的な合成基質AkaLumine-HCl (Aka-HCl)を報告しました。

生物発光イメージングは、バックグラウンドシグナルが非常に小さく、生体組織や小動物の非侵襲イメージングにおいて、蛍光イメージングよりも高感度に生命現象を可視化できます[1]。しかし、現在、標準的に用いられているホタルルシフェラーゼ (Fluc)とその天然基質のD-luciferinによって生成される生物発光の最大波長は約560 nmと生体組織に吸収されやすく、生体深部組織のイメージングに課題を残していました[2]。 Aka-HClとFlucの反応によって生成される最大発光波長677 nmの生物発光は(図1a)、D-luciferinよりも生体深部を高感度にイメージング可能であることをマウスのがん転移モデルなどを使って示しました (図1b)。

図1 (a) Aka-HClとD-luciferinの化学構造とFlucとの反応によって生成によってされる生物発光 (BL)スペクトル。(b) Flucを発現するがん細胞によって形成されたマウス肺転移の検出感度の比較。

図1 (a) Aka-HClとD-luciferinの化学構造とFlucとの反応によって生成によってされる生物発光 (BL)スペクトル。(b) Flucを発現するがん細胞によって形成されたマウス肺転移の検出感度の比較。

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

私自身は、生体光イメージングを使ったがん生物学の研究に従事しており[3, 4]、化学者ではありません。本研究論文の共著者である、発光基質の有機合成を専門に研究している電気通信大学の牧昌次郎先生と岩野智さんとは、2013年頃に知り合いました。当時、牧グループは、近赤外発光基質の合成に成功しており[5]、この発光基質の生体発光イメージングにおける有用性評価を細胞や動物を使って私が担当するという形で共同研究が始まりました。細胞や動物での評価を始めると、生体内環境における合成基質の興味深い特性が幾つか見つかり、今回の論文でも重要な論点になりました。これらについて考察する過程で、私自身、酵素・基質反応や発光基質の生体内動態などに理解が深まり、生物発光イメージングについてより多面的視点を持てるようになったことが大きな収穫です。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

材料の持っている可能性をどのように評価してアピールするかという点です。私自身、共同研究を始めた当初は合成発光基質の評価方法などに関する知識が余りなかったので、過去の文献をくまなく調査して、必要な実験系を選び出すところから始めました。結果として、それほど特殊な実験を行ったわけではありませんが、Aka-HClの特性を多角的に評価できたと考えています。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

化学は今後、生物・医学研究をより高度に発展させる上で益々重要な学問になるかと思います。化学者とより深い対話ができるように、化学の素養を少しでも身につけることが私の当面の目標です。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

異分野間での共同研究は、ユニークな研究テーマを探しだす良い機会になるかと思います。皆さん、共同研究を通して新しい世界を目指しましょう!

 

関連文献

  1. A. Paley and J. A. Prescher, Bioluminescence: a versatile technique for imaging cellular and molecular features. Med. Chem. Commun. 2014, 5, 255-267.
  2. T. Adams Jr. and S. C. Miller, Beyond D-luciferin: expanding the scope of bioluminescence imaging in vivo. Curr. Opin. Chem. Biol. 2014, 21, 112-120.
  3. Kuchimaru et. al., Bone resorption facilities osteoblastic bone metastatic colonization by cooperation of insulin-growth factor and hypoxia. Cancer Sci. 2014, 105, 553-559.
  4. Kuchimaru et. al., In vivo imaging of HIF-active tumors by an oxygen-dependent degradation probe with an interchangeable labeling system. PLoS ONE, 2010, 5, e15736.
  5. Iwano et. al. Development of simple firefly luciferin analogs emitting blue, green, red, and near-infrared biological window light. Tetrahedron 2013, 69, 3847-3856.

関連リンク

研究者の略歴

kuchimaru口丸 高弘 (くちまる たかひろ)

所属: 東京工業大学生命理工学院 近藤科江研究室 助教

研究テーマ: 生体光イメージング、がん生物学

経歴: 1980年兵庫県生まれ。2009年3月大阪大学工学研究科電気電子工学専攻博士後期課程修了、博士 (工学)取得 (飯田敏行研究室)。同年4月京都大学医学研究科特任研究員 (CKプロジェクト)。その後、2010年5月より東京工業大学近藤科江研究室で、科研費研究員、JSPS特別研究員を経て、2013年2月より現職。

Avatar photo

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 夢の筒状分子 カーボンナノチューブ
  2. 第9回 野依フォーラム若手育成塾
  3. Glenn Gould と錠剤群
  4. ものづくりのコツ|第10回「有機合成実験テクニック」(リケラボコ…
  5. その反応を冠する者の名は
  6. 有機合成化学協会誌2022年10月号:トリフルオロメチル基・気体…
  7. Skype英会話の勧め
  8. ChemDrawの使い方【作図編③:表】

注目情報

ピックアップ記事

  1. プロテオミクス現場の小話(1)前処理環境のご紹介
  2. 吉岡里帆さん演じる「化学大好きDIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」シリーズ、第2弾公開!
  3. 第59回「希土類科学の楽しさを広めたい」長谷川靖哉 教授
  4. 有機合成化学協会誌2022年5月号:特集号 金属錯体が拓く有機合成
  5. アーウィン・ローズ Irwin A. Rose
  6. モノクローナル抗体を用いた人工金属酵素によるエナンチオ選択的フリーデル・クラフツ反応
  7. ヒストリオニコトキシン histrionicotoxin
  8. 水素化リチウムアルミニウム Lithium Alminum Hydride (LAH)
  9. ポットエコノミー Pot Economy
  10. 多才な補酵素:PLP

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2016年7月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

注目情報

最新記事

条件の「前後」も実験条件である【プロセス化学者のつぶやき】

前回まで1. 設定温度と系内の実温度のお話2. 温度値をどう判断するか3. 反応操作をし…

そのpH、“本当にその場所”の値ですか?ニードル式pHセンサーを使ってみた!

突然ですが、「培養の再現性がなんか悪い」「同じ条件のはずなのに結果がズレる」といった経験はあ…

「骨格編集」×「ナノカーボン合成」〜ナノカーボン合成の新戦略を実証〜

第719回のスポットライトリサーチは、名古屋大学大学院工学研究科(忍久保研究室)博士後期課程2年の平…

【書評】立体化学 はじめの一歩

立体化学は,分子の三次元構造を理解するための重要な分野であり,有機化学や…

水のシミュレーション入門 — 水分子を計算機の中でどう”描く”か —

身近なのに、計算機にとって手強い"水"。本記事では、点電荷モデルから機械学習まで、その"描き方"の進…

◆◇◆◇ 第36回フォーラム・イン・ドージン開催のご案内 ◆◇◆◇

同仁化学研究所が熊本から世界へ情報発信するフォーラム・イン・ドージンの開催ご案内です。今年は『な…

『力』による円偏光発光のon/off制御を単一分子レベルで実現

第718回のスポットライトリサーチは、東京科学大学 物質理工学院(相良研究室)博士後期課程2年の野中…

数日かかっていた反応機構解析を、わずか数分に!

機械学習ポテンシャルが変える計算化学の現在近年、DFT計算による反応機構解析は広く行われるよ…

海外ポスドクのオファーをもらう【アメリカで Ph.D. を取る: 進路編】

ポスドクとして海外に留学する場合、希望する研究室の教授に直接連絡を取り、面接などを通して適性を判断さ…

MDで観るトライボロジー 〜原子が擦れるその場をシミュレーション〜

軽くて強いのに摩耗に弱いチタン合金は、航空機や人工関節に広く使われています。原子が擦れ合うその場を分…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP