[スポンサーリンク]

スポットライトリサーチ

可視光で働く新しい光触媒を創出 -常識を覆す複合アニオンの新材料を発見-

[スポンサーリンク]

第148回のスポットライトリサーチは、東京工業大学 理学院 化学系 博士後期課程3年の栗木 亮(くりき りょう)さんにお願いしました。

なんと!栗木さんはスポットライトリサーチ2回目の登場です。とてもレアケースなのですが、最近拝見した栗木さんの論文とプレスリリース内容がとても興味深いものだったので、依頼させていただきました。(栗木さんの1回目のスポットライトリサーチはこちら:光触媒で人工光合成!二酸化炭素を効率的に資源化できる新触媒の開発)

加えて、なんと栗木さんの所属する石谷・前田研究室はスポットライトリサーチ3回目の登場です。(もう一つのスポットライトリサーチはこちら:光エネルギーによって二酸化炭素を変換する光触媒の開発)

光エネルギーから化学エネルギーへの効率的変換という一大分野において、石谷・前田研究室では非常に高いプロダクティビティで研究が行われていることが伺えます。

今回栗木さんらは、中央大学理工学部の岡研吾助教と共同で、鉛とチタンからなる酸フッ化物が可視光照射下で光触媒として機能することを発見しました。

Ryo Kuriki, Tom Ichibha, Kenta Hongo, Daling Lu, Ryo Maezono, Hiroshi Kageyama, Osamu Ishitani, Kengo Oka, and Kazuhiko Maeda

A Stable, Narrow-Gap Oxyfluoride Photocatalyst for Visible-Light Hydrogen Evolution and Carbon Dioxide Reductions

J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 6648. doi: 10.1021/jacs.8b02822

ぜひ原著論文と合わせて、インタビューをお楽しみください!

Q1. 今回のプレスリリース対象となったのはどんな研究ですか?

酸素と他のアニオンを有する金属酸化物の半導体(例えばTaONなど)は、太陽光の大部分を占める可視光を有効に利用できる光触媒材料として世界中で研究が行われています。しかし、半導体のバンド構造上の制約から、適用できるアニオンは “酸素より電気陰性度が小さいもの(つまりNやBr、Cl、Iなど)”に限られてきました。つまり、酸フッ化物は「可視光応答に不適当な材料群」だと広く認識されてきました。

今回私たちは、鉛とチタンからなる酸フッ化物の半導体(Pb2Ti2O5.4F1.2)が特異的に可視光照射下で安定な光触媒として機能することを発見し、さらに新しい視点から可視光応答の起源を明らかにしました。この成果は同様の視点に立った新しい材料群の発見に繋がると考えられます。

 

 

酸フッ化物半導体(Pb2Ti2O5.4F1.2)の特異的な可視光吸収と多様な光触媒反応の例

 

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

一般的に半導体を用いた光触媒反応は水中で行われますが、酸フッ化物の半導体(Pb2Ti2O5.4F1.2)は疎水性のため水中では反応が進行しませんでした。そのため、今回は一般的にあまり検討が行われていない有機溶媒に注目しました。結果として一連の反応は駆動し、酸フッ化物半導体(Pb2Ti2O5.4F1.2)が可視光で駆動する安定な光触媒であることの証明に成功しました。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

光触媒の有用性を証明する大切な反応の一つに、水を酸化し酸素を生成する反応があります。Pb2Ti2O5.4F1.2自身は水の酸化が原理的には可能な材料であることが実験から分かりましたが、疎水性であることも相まった結果、水との相性が悪く、実際の実験では水の酸化反応の駆動を確認することが困難でした。そこで通常とは少し異なる手法として、今回私は18Oで標識された水(H218O)を含む条件で反応を行い、少し強引に18O2の観測を試みることにしました。再現実験を何度も行なった結果、18O2の生成を証明し、Pb2Ti2O5.4F1.2の優れた酸化能力を実証しました。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

今まではアカデミアの視点で化学の研究を行ってきましたが、今後は企業の視点でも研究を行い、「化学」についての視野を広げたいと思います。将来的にはアカデミアの研究と企業の研究を何らかの形で繋げる「窓口」のような人材になりたいと考えています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究は指導教員である前田先生、石谷先生をはじめとして、中央大学の岡先生、北陸先端科学技術大学院大学の本郷先生など、様々な専門の先生方との協力のもとで生まれました。一連の研究を通して、多様なバックグラウンドを有する方と協力し分野をまたいで研究を行うことで、自分だけでは生み出せない新しい成果につながると痛感しました。人との繋がりを大切にし、また常に視野を広く持ち、今後も研究に取り組みたいと思います。

研究者の略歴

名前:栗木 亮 (くりき・りょう)

所属:

2016年4月-現在 東京工業大学理学院化学系, 石谷・前田研究室 (博士後期課程)

2017年4月-現在 日本学術振興会特別研究員 (DC2)

研究テーマ:

有機半導体と金属錯体からなる二酸化酸素還元光触媒系の創製

Avatar photo

めぐ

投稿者の記事一覧

博士(理学)。大学教員。娘の育児に奮闘しつつも、分子の世界に思いを馳せる日々。

関連記事

  1. Twitter発!「笑える(?)実験大失敗集」
  2. 第九回ケムステVシンポジウム「サイコミ夏祭り」を開催します!
  3. 電子実験ノートSignals Notebookを紹介します③
  4. Carl Boschの人生 その8
  5. 有機合成化学協会誌6月号:ポリフィリン・ブチルアニリド・ヘテロ環…
  6. 有機合成化学協会誌2022年10月号:トリフルオロメチル基・気体…
  7. テトラサイクリン類の全合成
  8. 結晶データの登録・検索サービス(Access Structure…

注目情報

ピックアップ記事

  1. トロンボキサンA2 /Thromboxane A2
  2. REACH規則の最新動向と対応方法【終了】
  3. リチウム二次電池における次世代電極材料の開発【終了】
  4. 第72回―「タンパク質と融合させた高分子材料」Heather Maynard教授
  5. 甘草は虫歯を予防する?!
  6. 樹脂コンパウンド材料におけるマテリアルズ・インフォマティクスの活用とは?
  7. 有機配位子による[3]カテナンの運動性の多状態制御
  8. 摩訶不思議なルイス酸・トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン
  9. コルベ・シュミット反応 Kolbe-Schmitt Reaction
  10. マシュー・ゴーント Matthew J. Gaunt

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2018年7月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP