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一般的な話題

SFTSのはなし ~マダニとその最新情報 前編~

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注意1:この記事は人にとってはやや苦手と思われる画像を載せております ご注意ください
注意2:厚生労働省の発信しているダニに関する情報が最も大事です リンク 是非ご一読ください
注意3:ダニの概要を楽しく解説されている森林総合研究所 岡部女史のこちらのエッセイも必読です

Tshozoです。奈良が好きで時々訪問しているのですが、最近その際に気になるのが鹿。というかそれに付いてるダニ。

筆者が法隆寺付近で撮影 向こうの方に何匹か神の御使いがいる

鹿の頸部に大量に付いているダニの図の例 (文献2)
体力が弱ったりしているとこのようなケースがあるらしい

蚊とかノミなら潰して終わりなのですが、ダニの場合獲物の体に頭を突っ込んでセメントで固めてブクブクに膨れるまで(下図・文献1)離れようとしないし途中で叩くとダニ体内のウイルスや寄生虫が獲物の体内に大量に押し込まれかねない。しかも吸血が終わるとセメントは自分で溶かして離脱できるという高機動型節足動物です。

(文献1)より引用 絵だけでも結構ゾワっとしますね
一説によると頭部以外が外れて千切れても復活するとか…

ということは噛まれてしまったら、固まる前にこういう↓道具(回転式クギ抜きのようなもの)またはピンセットでそっと外すか、液体窒素で凍らせて殺してから外すか、時すでに遅くもう固まってしまったら皮膚科でセメント物質と一緒にえぐり出す以外にないという、非常に厄介な相手。なおダニが離れるまで待っていると病原体がうつりやすくなるので、もっと危険です。

昔から山野にそこそこいましたが、最近はメディア発達のおかげか、地方で活躍されている写真家や猟師の方々が捕獲したシカやイノシシの体表を撮影・記録されている例(こちらこちら など)をよく目にするため、日本中の山野の草木にはこのダニ類がウヨウヨいるのではという妄想に憑りつかれているわけで。特に夏。実際には獣害は対策などにより減ってきており(環境省調査/下図・(文献2))、過度に怖がる必要はないとは思うのですが…

(文献3)より引用 額面的に一番ひどかった10年前より低い(やや増加傾向だが)
なお後述するように実際のシカの活動範囲は日本国内でかなり広がってきている

ということでインドア派の筆者がもう少し奈良や山野に出ていって色々と知見を広げる下準備に、このダニと最近新聞によく取り上げられる怖い病気、SFTS(重症熱性血小板減少症候群/Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)について現状と対策を正しく知ろうと思い、少々調べてみることにしてみました。要は奈良とか鹿とか草むらを過度に怖がらず正しく楽しみたいわけで。お付き合いください。

ダニとは

一般に筆者はダニと呼んでいますがその種類は非常に多く、日本でみられるのは2019年時点で50種類くらい、そのうちよくみられるのがマダニ系統のタカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニ、シュルツェマダニ(日本皮膚科学会 リンク)の4種類らしく(地域によってはクリイロコマダニやタネガタマダニなど差があるもよう)。なお足が8本あるのでクモの仲間ですよ。

(文献4)および厚労省HP(リンク)より筆者が編集して引用
なおフチトゲチマダニは本記事を述べるうえで重要な存在です

生活環は下図(文献1)で、卵から孵った直後の幼ダニから成ダニまで全てが吸血を行うという困った連中。特に幼ダニは1mmに満たず極めて見つけにくい。筆者は平和主義者ですがこれらをこの世から根絶させなくてはならないと強く思います。

更に血液を食料とするためウイルスやリケッチア等の原虫類の媒介者になりやすく、たとえば昔からあるツツガムシ病は昔妖怪として描かれたこともあるように恐れられていまして、元々は”ツツガムシ”というダニの一種により媒介されるリケッチアの一種によって発生する風土病でした(日本皮膚科学会 リンク)。現在ではこれに加えマダニ類がほぼ同類の疾病である日本紅斑熱も媒介するようになっており厄介者以外の何物でもありませんので死滅させry

(文献1)より引用 図は犬&バベシア症に限定したものだが、ここに人など
他の生物が入り、バベシア症に限らず人畜共通の疾患となり得る病原体を数多く媒介する

ダニは基本的に有性生殖により増殖するのですが、どうも一部の種類は単為生殖(メスだけで増殖できる)らしく、一番厄介そうなフタトゲチマダニは単為生殖が出来ることが1960年以前からわかっています(文献5)。こうなるともう根絶は難しい。特に最近では鹿や猪に多く取り付いてあっちこっちに拡散され、また絶食状態でも1年以上(長いもので20年とか…(文献6))生きているものがいるなどほぼ妖怪でしょう。見かけたら物理的に徹底的に駆除しましょうね(薬剤含めた防除方法は後述)。

(文献5)より引用 岡部女史のエッセイによるとこれはにおいを嗅いでいるらしい
林道縁のススキとかの裏にはかなり居るもよう(参考動画 リンク)

SFTSとは

で、今回話題に挙げるSFTSとダニとはどういう関係があるのか。上記の通りダニは昔から原虫類(に由来する疾病)を媒介することがわかっていますが、加えてウイルスも媒介するとわかったのは比較的近代になってから。そのウイルス性疾患のうち厚労省が感染症として注意喚起しているのがクリミア・コンゴ出血熱、ダニ媒介脳炎、そして今回のSFTS(重症熱性血小板減少症)の3つ。今回紹介するSFTSはかなり死亡確率が高く(最大で30%という試算も・後述)、また感染者からも周辺に伝染しやすい(後述)という特徴を持ち、またダニという身近な生物が媒介するという観点からも重要性は高いと言えます。

まずは身近なところから(以下(文献7)に全面的に頼ります)。現在の日本での感染状況ですが2013年から2022年までで累積800人くらい、年を追うごとに増えていて、発症者の多くは60~80歳の方が多い(厚労省HP:リンク)ようなので体力が低い老齢者や子供にはしんどい病気であると推定されます。

2013年からの発症者数 推移 (文献7)の数値から筆者が編集して引用

地域的には西日本に多く(下図)、この点は正直謎。SFTSウイルスが世界で最初に発見されたのは大陸なのですが(後述)、そこからの伝染経路は容易には推定しづらいためです。

2013年からの地域別発症者数 マップ (文献7)の図から少々編集して引用
人の往来だけなら都市部に流行っていてもいいはずだが、
感染者が野生動物などと接触する機会が無ければ伝染しないのがこの地域差の理由かも

感染すると発熱、血小板・白血球減少や全身倦怠、リンパ節腫脹にはじまり、進行するにつれ嘔吐、頭痛、腹痛、筋肉痛などが発生し、重症では出血傾向、紫斑、消化管出血などのキツい症状が出てくるとのこと(文献7)。重症を除けば他の疾病でも出得る症状が並ぶだけに、素人では診断は無理。また感染から発症まで1~2週間程度かかり(日本感染症学会 リンク)、原因の早期確定も難しいように思います。また発症後死亡率が15~30%(国立感染症研究所が示している資料(文献7)では27%程度…)という恐ろしい値を示している点も恐怖です(追記:何故上記のような症状が出るかの詳細な話は同じく国立感染症研究所によるこちらのリンクに詳しい)。

このSFTSの正体は原虫などのデカいものではなく、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に属するフアイヤンシャン・バンヤンウイルスという奇妙な語感のウイルス。2010年に見つかったかなり新しいタイプです(日本感染症学会 リンク)(文献9)。ちなみにこのブニヤウイルス等を含むさらに大きいグループはアルボウイルスと呼ばれ、節足動物媒介性ウイルスを総称しているのですが、偏見だけで言うとウイルス世界のならず者グループな感じです(下表)。やはりこの世から殲滅する必要があります。

アルボウイルスの一例・人類の敵とも言える媒介者とそのウイルスたち (文献8)より引用
SFTSウイルスは下から2番目、コンゴ出血熱と同じ箱の中

ウイルスの形態としては、3分節のマイナス鎖RNA を保有し,4種の構造蛋白をもち,細胞質内で増殖するという共通の性質をもつ(文献9)直径100nm前後の形状をしており(文献7)ウイルス外壁がたんぱく質膜で強固に囲まれている、なかなかしんどそうな形状。

ウイルスの外観と構成予想図 (文献7)より筆者が少々編集して引用

こうしたガードの硬いウイルスは概して直接的な薬などが効きにくく、このSFTSウイルスもその一種。(文献9)にあるように猫や犬の咬傷からうつる他、後述のとおり条件がそろうとヒト→ヒトでもうつり得る(空気感染ではありません)ため媒介者のダニだけでなくこのウイルス本体も厄介者であることは容易に推定できるでしょう。

どこから来たのか、どう広がっているのか

中国のある地域での奇病として見つかったのが2009年前後。そこから日本で2013年あたりに初めて確認されている(実は2005年時点で発生していたとの説もあり)ほか韓国、台湾、ベトナムでも後に確認されていますが、今のところこの5国以外には認められていないようです(2020年時点・(文献7), (文献10))。ただ韓国での拡大傾向も結構なペースで、2020年に年間で230人近く出ている(文献7)ので人やモノの移動∝感染速度、なのでしょう。

中国での’19年までの患者数傾向と死亡率推移
患者数は徐々に増えてきているものの
死亡率はかなりの勢いで抑制出来ている

しかしながら当初予想していたほどの速度で拡大・蔓延するということはなく、むしろ2016年あたりからは何をしたのかわかりませんが抑制気味に推移していて(上図 中国 NNDRSデータを編集して引用)、何らかの施策が数字上で功を奏している可能性がうかがえます。

ただ、その中でも中国での感染拡大の状況がかなり興味深い経緯をたどっておりますので少し詳細に述べますと、空気感染はなくとも血液・体液への接触で十分に感染し得るということがわかっています。この詳細を扱った案件として浙江省湖州市である患者からクラスター的に11人に感染した例が示されています(下図・(文献12))。

(文献12)より引用 2014年に浙江省湖州市で感染した女性(のちに死亡)から
血液接触有無(blood-contact)に対してどのように感染したかを示した図
皮膚や粘膜にウイルス入りの体液が接触するとうつる可能性があるという、かなり怖い話

この他(文献12)の表1に示すように、かなりの場所で体液経由でクラスターが発生していることが明らかになっていて、韓国でも2020年あたりに病院スタッフにSFTSがうつってしまう問題が発生していたこともわかっています(文献7)。このように感染力が強くダニさえ気を付けていればいいという話ではないということは十分認識しておく必要があるでしょう。(文献12)にはそれぞれのケースでの感染確率を示してあり、国際的にも非常に重要な研究であると言えます。アウトドアレジャーでも気を付けるのは当然ですが日ごろからダニに関わり得る農作業、畜産業の方には本当に気を付けて頂きたい話ですわ。

同じく(文献12)から引用 まずは野外でダニに刺されないことが最重要
なおSAR=Secondary Attack Rate 「二次感染率」のこと

(文献13)より引用 意外と海浜部に近い省に集中している
山野に入るようなことは工学系技術者の方々にとっては可能性は低いでしょうが、
都市部でも後述のように感染したイヌ等と触れ合うと感染の危険性はあり得る

で、国内では西日本を中心に広がっているというのが上のほうで述べた現状ですが、実はケモノの感染はもっと厳しい状況(下図・文献7)。もう東北の方までウイルスに罹患したシカが存在してるという…つまり冒頭で話していた奈良公園での鹿も野生環境に置かれているため確率的には既に存在し得るとも考えられる(注:2022年時点での奈良県でのSFTS感染者はゼロで、本当に感染鹿が同県内に存在するかどうかの明確なバックグランドデータはありません・ご注意ください)。いずれにせよ各自の自衛は必至な状況ではあります。

野生のシカ(~2000頭)の何%がSFTS抗体を保有しているか=感染歴があるか、を示した分布図(文献7)
抗体を持っている=感染歴がある、ということで、ウイルスを現有しているかどうかは判断できないが
少なくとも分布を推し量ることはできる

なお山に入らなければ大丈夫、と思う方も居るかもしれませんが今やダニなんてちょっとした公園などにもいますし、このSFTSのウイルスでめんどうなのが犬や猫などのペットにもうつり、そこから更に面倒が増すのが犬、猫から人間にもうつり得る点(下図・文献7)。

(文献7) 2018年~2020年以降のペットからの感染
気を付けているであろう獣医師の方々が感染しているのがまた怖い

普通に郊外に住んでて犬を庭などで放し飼いしてりゃダニの一匹や二匹ついてたりしますし、いちいち気にもしてられんでしょう、というのが常識的な反応なのですが、感染がこの後どんどん広がってしまうと(脅すつもりではないのですが)宅地でも楽観的に構えていられる話ではなくなってきているのかもしれません。なお(文献12)では重症には60歳以上の方々がなりやすくその年齢未満の方が至ったのはごくわずかということでしたが、若ければ重症化しないという話ではなく、また今後の拡大に伴い有害性が増すようなケースもありえますので油断は禁物です。

治療方法は

日本紅斑熱やツツガムシ病は原虫相手なので対処法と治療薬候補はあるのですが、SFTSはウイルス相手なのでかなり分が悪そうというのは大方予想でき、日本には現時点でどうも明確な治療薬が無いようです・・・と書こうと思っていたのですが、なんと数か月前の2023年6月末に富山化学殿の「ファビピラビル(通称アビガン)」がこのSFTSへのオーファンドラッグに指定されました!(リンク)。以下はこの材料を中心に、色々模索されている案件をまとめてみます。

抗ウイルス薬というのはその増殖過程でジャマをして増やさないようにするのが一般的。ということは同じ自己増殖機能を持たずに生体内の細胞を利用する”ウイルス”のなかまであれば、もしかしたら既に臨床で使われている抗ウイルス薬が今回のSFTSウイルスに効く可能性もゼロではない(雑)…という乱暴な考えに基づいてかどうかはわからないのですが、実際そうした試みは継続的に行われており、ファビピラビルもどうもその流れでみつかったもののようですね。

①ファビピラビル

ファビピラビルの分子構造 通称アビガン (文献15)より引用
既にエボラウイルス、インフルエンザウイルスへの効果があることがわかっている(た)

これは抗ウイルス薬としては非常に有名で、昔から特徴ある医薬品を産み出してきた富山化学殿が発明したお薬、通称”アビガン”。非常に汎用性の高い抗ウイルス薬として重要性は年々高まっています(残念ながらコロナウイルスへの適用はドロップしたようではあります)。

その薬効の機序は下図のようであり、細胞内ウイルス増加プロセスに到達するよう細胞膜を通ってもぐりこみ、細胞内でリン酸化プロセスを経ながらRNAポリメラーゼの反応コードを書き換えてしまい、ウイルスが入り込んできても複製が行われないようにするという、生体反応をうまく活用した巧妙なお薬です(なお最初からリン酸化している分子だと細胞内に潜り込めないらしい)。同じタイプのものは色々議論を呼んだ塩野義製薬のゾフルーザですが、分子構造は相当異なります。ファビピラビルはどっちかというと以前こちらの記事で取り上げたDNAメチル化阻害薬のアザシチジンに近い仕組みであるような気がします。

ファビピラビルの細胞内の作用機序(文献16)
細胞内に取り込まれた後にリン酸化で活性化、ウイルスのRNA増幅を阻害する
本来は図右のATP・GTPの構造が入ってくるところをジャマする
アナログと言い切れないのではと思うが、ちゃんと機能するのが謎

ではアビガンが何故SFTSに適用出来ると考えられるようになったのか。

上記でも概要は書きましたが経緯を見ていると、国立感染症研究所の西条部長(当時)が2014年前後からSFTSウイルスに対する効果のあたりを付け(資料リンク)、ナイル熱やエボラ出血熱等にも効能があることを前提に愛媛大学と共同で医師主導治験をもとにその薬効を確認する地道な取り組みとその著しい効能を明らかにする活動(資料リンク)を行い、その結果今年めでたく採用されたとのこと。世界全体の見込みで年間2000人前後であろう疾病に対し治験を行うのは商売的にはかなりリスクの伴う話だったとは思いますが、今後の人間社会の脅威になり得ると判断しての開発だったのでしょう。個人的にはあと数十年単位で重要な位置を占める薬であり続ける気がしております。

ただ効果があると判明はしたものの、重症化した場合にはそのまま命を失うケースがあったようでですのでやはりウイルスに罹患しないことが一番大事になるという認識は捨てないでいただきたいものです。

②リバビリン

主に中国でウイルス発見以降かなり使われてきた治療薬がこのリバビリン。こちらも①同様にATP・GTPアナログとしてはたらき機序は基本的に①とほぼ一緒。ただその効果については議論が分かれており、中国では「軽傷にだいたい効く、また重症にも部分的なグループには効く」とする主張がある一方、日本ではあんまり効かねぇぞ(または限定的)、という声が多く正確な効果検証にはもう少し時間がかかるでしょう。分子構造的には細胞内でリン酸化さえされれば確かにRNAポリメラーゼ反応阻害薬となりそうなのですが、左端のOHがそうそう簡単にリン酸化されるのか不安な気がしますね。もしかしたらそういうところが効能の差異やばらつきに影響を与えているのかもしれません。

リバビリン分子構造(wikipediaより)
もともとはC型肝炎用の治療薬として上市されたらしい

なお上記の中国でのこのリバビリンを用いた大規模な治験(と言っていいのか・・・中国での薬承認制度がよくわからないが、医師主導での予備的臨床治験の情報をまとめたもの、と捉えた方がいい気がします)をまとめた結果は下図。確かに使用した数はすごいのですが、統計的には確かになんとも言い難い結果になっています(文献17)。

(文献17)より引用 リヴァビリンは抗生物質の投与(=ウイルスと関係のない感染症の防止)と
ほぼ同じ効果しか出せていないが、効果自体は否定されないと推定される

実際のところ論文著者が文内サマリーで”It was shown that ribavirin may have a positive therapeutic effect, and patients with SFTS in the double-positive and single-positive groups were suitable for preventive antiviral treatment. Future studies should also investigate the effect of gamma globulin on patients with SFTS. Lastly, antibiotic use in the early disease stages of SFTS may reduce mortality risk.”と述べていますが、結局抗生剤の早期投与と大して変わらんのじゃないかとなると後述するようにわざわざ催奇性のある薬を使う必要があるのか、という議論になってくるように、この程度の効果だと正直使いづらいという感は否めません。

個人的な印象としてはもっと範囲を広げるのではなく、効いている患者群には他とどういう差異があるのかを深堀りした方がいいような気もします。ファビピラビルが使えればいいのですけど状況によってはリバビリンしか使えない、じゃあ効くのか効かんのかの判断が要る場合も今後発生し得るでしょうからそうした形でなんとか効能の糸口を見つけて頂きたいもんです。

③そのほか

実は上記以外にあんまり検証が見つけられませんでした。もちろんファビピラビルと同様RNA複製阻害機序をもつお薬であれば同様の効果を示し得る可能性はあると思いますが、今のところSFTSに対し比較的広範囲かつ治験的に用いられているのは上記2種類のみのようです(2023年時点)。患者数が多く見積もっても5000人/年を対象とする疾病に対し創薬または適用薬を開発するのはなかなか勇気のいることですから仕方ないとは思いますが、数は少なくても武器があるだけマシなのかもしれません。ただ上記2点いずれもRNAポリメラーゼのはたらきを阻害するということは催奇性の危険性があるということで、いずれも妊婦さん等の使用は許されておりませんので十分注意しましょう。

一方その中でSFTSウイルスに対しワクチンが出来ないか、という話もあり、その中で特徴的なのが国立感染症研究所の(文献17)によると、なんと種痘(若い人は知らないかも…)のような形でワクチンを得るという研究(文献18)。まだ動物実験レベルですが、マウス、猿で結構な効果が示されており、やりようによっては農作業をされる方や林野に出向かなければならない方々の重要なツールになるのでは、という期待が持てる内容。

(文献17)より筆者が編集して引用
かなり大量のSFTSウイルスを投入した場合でも種痘的ワクチンがある個体は
マウスの死亡率、体重減少(≒体力消耗)が大きく抑制できている

もちろんワクチンはコロナウイルスのような特殊なケースを除くと一般になかなか商売になりづらいので、有効だからと言ってすぐ治験が始まるか、というわけにはいかないのでしょうけどダニ類があちこちにいるということを考えるとぜひとも商品化まで繋げて頂きたい案件であると同時に、個人的には筆者の知らないところで知らない方々がこうした難儀なことに日夜努力されていることを理解できたことだけでも、今回のこの調査をした甲斐があったもんだ、これで安心して奈良とかにも足を運べるようになるのでは、と思った次第です。

・・・ということで後編へつづく。次回はダニそのものをターゲットにした、おなじみの殺虫剤に関わる取り組みを整理してみます。

【参考文献】

1. “マダニの生存戦略と病原体伝播” 化学と生物, 化学と生物 Vol. 50, No.2, 2012  リンク

2. “Evidence of Ehrlichia chaffeensis in Argentina through molecular detection in marsh deer (Blastocerus dichotomus)”, International Journal for Parasitology: Parasites and Wildlife Volume 8, April 2019, Pages 45-49, リンク

3. “全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和3年度)”, 農林水産省,  リンク

4. “媒介節足動物の分布と感染症、気候変動との関り”, 沢辺 京子, 国立感染症研究所 昆虫医科学部 2021年9月7日
第6回気候変動適応中部広域協議会, 協議会リンク資料リンク

5. “ダニとその生物学”, 化学と生物, 1968 年 6 巻 6 号 p. 331-339, リンク

6. “Record Longevity and Reproduction of an African Tick, Argas brumpti (Ixodida: Argasidae) “, Journal of Medical Entomology, Volume 59, Issue 2, March 2022, Pages 777–778, リンク

7. “SFTSの最新の状況について”, 令和2年度 動物由来感染症対策技術研修会, 国立感染症研究所, 資料リンク

8. “デング熱に関する最近の話題”, 2014年10月16日 (国立感染症研究所ウイルス第一部), リンク

9. “ブニヤウイルスとその生態”, ウイルス 第 62 巻 第 2 号, pp.239-250, 2012, リンク

10. “高病原性ウイルスの増殖機構の解明及びその創薬への応用”, ウイルス 第70巻 第1号,pp.69-82, 2020, リンク

11. “The changing epidemiological characteristics of severe fever with thrombocytopenia syndrome in China, 2011–2016”,  Seienfitic Reports  7: 9236 , リンク

12. “Transmission and mortality risk assessment of severe fever with thrombocytopenia syndrome in China: results from 11-years’ study”, Infectious Diseases of Poverty (2022) 11:93, リンク

13.”Mapping ticks and tick-borne pathogens in China”, Nature Communications volume 12, Article number: 1075 (2021), リンク

14. “ダニ媒介感染症”, 日本内科学会雑誌 106 巻 11 号, リンク

15. “重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の疫学的,臨床的,病理学的知見”, 国立感染症研究所,  リンク

16. “Efficacy and Safety of New and Emerging Drugs for COVID-19:Favipiravir and Dexamethasone”, Current Pharmacology Reports (2021) 7:49–54, リンク

17. “A new model for predicting the outcome and effectiveness of drug therapy in patients with severe fever with thrombocytopenia syndrome: A multicenter Chinese study”, PLoS Negl Trop Dis 17(3): e0011158, リンク

18. “SFTSに関する治療薬・ワクチン開発”,  国立感染症研究所ウイルス第一部 吉河智城, 2020年, リンク 

Tshozo

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メーカ開発経験者(電気)。56歳。コンピュータを電算機と呼ぶ程度の老人。クラウジウスの論文から化学の世界に入る。ショーペンハウアーが嫌い。

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