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「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦」を聴講してみた

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bergです。この度は2023年9月8日(金)に慶応義塾大学 矢上キャンパスにて開催された西林教授のご講演「ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦―「窒素社会」の実現に向けて―」を聴講してきました。この記事では会の模様を簡単に振り返ってみたいと思います。

演題と講師の先生方は以下の通りです。

 

演者: 西林 仁昭 教授(東京大学大学院工学系研究科)

題目: ハーバー・ボッシュ法を超えるアンモニア合成法への挑戦

―「窒素社会」の実現に向けて―

場所: 慶應義塾大学理工学部(矢上キャンパス) 12棟207番教室

日時: 2023年9月8日(金)16:30-18:00

詳細:https://chem.keio.ac.jp/topics/report/lab07/20230821-3876/

 

西林教授といえば前周期遷移金属錯体を駆使した常温常圧での窒素固定の第一人者として著名で、ケムステでも何度も(https://www.chem-station.com/blog/2022/08/nh3.html)紹介させていただいていますが、本公演ではご自身の研究の足跡や今後の展望についてご紹介いただきました。

 

まず近年叫ばれている環境問題ですが、増大を続ける人類のエネルギー消費を賄うために化石燃料や地下資源(ウラン鉱)に依存しない再生可能エネルギーが脚光を浴びていることは周知のことかと思います。その利用の功罪はさておき、水力、風力や太陽光などのエネルギー源はいずれも電気の形としてしか取り出すことができず、貯蔵性に大きな難を抱えています。これを化石燃料や核燃料のようなエネルギー”資源”へ高効率で可逆的に変換し、安全な保管・運搬を可能とする技術の開発は急務であり、窒素固定はそれに資するものであると力説されていました。

 

昨今の燃料電池車などは水素燃料を用いているものの可燃性気体であることから安全な貯蔵・運搬には課題が残り、現状ではその製造に化石燃料を使用しているという欠点もあります。その点、窒素固定反応の生成物であるアンモニアは炭素を含まず、容易に液化し、貯蔵・運搬が容易で、燃料以外にも有用な窒素源として工業的に重要な地位を占めています。

 

一方、従来のアンモニア合成法であるハーバー・ボッシュ法は高温・高圧の反応環境を維持するために化石燃料を用いるエネルギー多消費型プロセスであり、全人類の消費エネルギーの数%(!)にものぼるとされています。エンタルピー的には有利な反応であることから、高効率な人工窒素固定の開発は理論上可能です。

 

生体反応に目を向けると、マメ科植物に共生する根粒菌は中心に炭素、その周囲にFe、Moを配するS架橋多核錯体骨格を含む酵素、ニトロゲナーゼを保有しており、遷移金属錯体の利用がこの問題を解決する一助となることは以前から示唆されていました。実際に、一連の研究のルーツともいえる窒素錯体のプロトン化によるアンモニア生成は1970年代には報告されていましたが、この系では窒素が中心金属によって形式的に還元されていることから化学量論反応となる点が課題でした。一般に窒素錯体と単体水素を反応させると所望のアンモニア生成は起こらずに単純な配位子交換反応が進行してしまうことから、新たなアプローチが求められました。

 

そこで西林教授らは遷移金属窒素錯体が求核種として、水素錯体がブレンステッド酸として作用しうることに着目、1998年にWの窒素錯体とRuの水素錯体の反応でアンモニアを得ることにはじめて成功します。本反応は量論反応でしたが、のちにSchrockらがプロトン源に嵩高いルチジニウム塩、還元剤にクロモセンを利用することで触媒反応へと展開し、ここに窒素錯体・酸・還元剤の組み合わせによる触媒的窒素固定の端緒が開かれました。

 

一方でこれらの反応における還元剤や酸は高価で特別に合成する必要があり、反応性も高いため取り扱いに難点がありました。そこで西林教授らは還元剤に有機合成において広く利用されているSmI2、プロトン源に水を利用できないか検討を重ねたところ、2019年にMo二核錯体を活性種とする高速・高効率な窒素固定反応を見出しました。反応の様子を動画で拝見しましたが、わずか数分で系の色合いがドラスティックに変化する(Smの酸化数が増加するため)模様は非常に印象的でした。

この系の利点として、不活性なMoオキソ錯体をoxophilicなSmにより再活性化できる点、ほとんど活性化障壁のないPCETを経由するため迅速な窒素固定が可能な点が挙げられますが、当初大手のジャーナルには懐疑視されて査読を通らず、トレーサとして高価な15N2を使用してNMRデータを取ったために100万円近くかかったエピソードを披露されており、これだけの偉業でも一筋縄に報告にこぎつけられない研究の難しさを垣間見ることができました。

 

今後の展開としても、Sm(III)種を電解還元することで還元剤を再生し真の「窒素循環社会」を実現すること、より安価なFe系触媒を用い、還元剤ではなく光駆動の反応を開発すること、アンモニアそのものを合成するのではなく炭素求核種と反応させて有用な有機窒素化合物を直截的に得ることなど非常に大きな夢を語られており、非常に感銘を受けました。

 

民間企業に就職して以来このような最先端の研究に触れる機会がめっきり減ってしまっていたので、今回の講演会は非常に刺激的で新鮮で、あっという間の90分でした。最後になりましたが、ご講演くださった西林教授、講演をセッティングしてくださった慶応義塾大学の垣内教授に心よりお礼申し上げます。

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berg

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化学メーカー勤務。学生時代は有機をかじってました⌬
電気化学、表面処理、エレクトロニクスなど、勉強しながら執筆していく予定です

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