[スポンサーリンク]

化学一般

Letters to a Young Chemist

[スポンサーリンク]

[amazonjs asin=”0470390433″ locale=”JP” title=”Letters to a Young Chemist”]

 概要

化学の道を志す架空の学部生アンジェラへの手紙、という体で、化学の各分野から現役の教授陣17人が執筆しているオムニバス形式の一冊。各教授が化学を選んだ理由、現在のポジションを得るまでの経緯、己の研究プロジェクトの概要とその意義、そして当面の解かれるべき問題などを熱く!かつ平易な普段着の英語で語りかけます。

 対象

ハイレベル理系高校生?他分野の化学を俯瞰的に知りたい研究者。

 解説

実験が忙しくて他分野のことまで勉強している余裕がない、大学に入学し化学科へ進もうと思うがいまいち希望の研究室(≒分野)を絞り込めない、という人に特にオススメの一冊。化学にまつわる気軽な読み物を楽しみながら、知識=好奇心の土台を広げる助けにもなる良書だと思います。

日本ではあまりメジャーではありませんが、北米や欧州では、意欲的な学部生が夏休みに企業または大学の研究室でインターンをして経験を積むことは珍しくありません(当然お給料も貰えます。インターンが必須の学校もあります。)。その為、大学の教授ともなると授業以外でも学部生(学外を含む)から接触を受けることはよくあることです。インターンのための推薦状依頼然り、インターン自体の受け入れ依頼然り。

この本に登場する手紙は、そんなやる気溢れる学部生アンジェラに向けて、一部は彼女が研究室に滞在していた(という設定の)頃を振り返りながら、彼女を自分の分野へ口説き落とすべくして書かれた(?)全17通です。いわゆるオープンキャンパスなどでの研究紹介とは違い、教授陣の現在に至るまでのプライベートを含む背景、アンジェラが仮にその分野を選択しなかったとしてもどういうことを学部生に知っておいて欲しいか、あるいは将来その分野を選択するのであればどういう教材で自習できるかなど、ざっとではあるものの、各手紙の終わりの参考文献まで含めて網羅的にまとめられています。

おおまかに

Part 1. From Fundamentals to Applications (5通)

Part 2. Chemistry and the Life Sciences (6通)

Part 3. Functional Materials (3通)

Part 4. Chemistry and Energy (3通)

の全四章に分かれています。

感想ですが、面白かったです。買って当たりだと思いました。そして世の中には、化学という括りの中だけでもまたこんなに知らない事があるんだなと改めて認識させてくれる一冊でした。(例えば麻酔の効き目はその化合物のオリーブオイルへの溶解度と相関がある、なんて全く知りませんでした。表面的な理屈は単純ですが、隣の常識はウチの非常識。)

巻頭言でLippard教授(MIT)が言うsynthesis is the heart of chemistry”は確かにそうかもしれませんが、一方Arms and legs, Eyes and earsとなるApplied ChemistryやAnalytical Chemistryの実際を垣間見られるような書籍やウェブサイトはまだまだ乏しいと思いますし、何よりこれだけの人数の教授が一度に易しく語ってくれることなど滅多にありません。時間のある学部生は自ら教授を尋ねて話を聞くのもアリですが(ちゃんと事前連絡をしましょう)、この一冊を読んでからだと先生方のお話もよりスムーズに頭に入ってくることでしょう。

将来、日本語翻訳版の発売もあるかもしれませんが、英語が苦手な方でもKindle版を購入してパソコンやスマートフォン、タブレットPCなどでシンクロし、隙間の時間に手元の端末で読まれてはいかがでしょうか。

 

より大雑把に、かつ日本語でざっと他分野を眺めたい方には↓の「感動する化学」も良い本です。学位論文のイントロで何か大きいことを言う際のネタ本にも役立ちます。関連書籍の二冊目は、科学全般の話題が平易に書かれた英語の読み物として良い本です。一般向け。

 関連書籍

[amazonjs asin=”4487804094″ locale=”JP” title=”感動する化学 未来を開く化学の世界”][amazonjs asin=”4860430964″ locale=”JP” title=”実感する化学 (上巻)”][amazonjs asin=”076790818X” locale=”JP” title=”A Short History of Nearly Everything”][amazonjs asin=”4759810803″ locale=”JP” title=”化学者たちの感動の瞬間―興奮に満ちた51の発見物語”]
Avatar photo

せきとも

投稿者の記事一覧

他人のお金で海外旅行もとい留学を重ね、現在カナダの某五大湖畔で院生。かつては専ら有機化学がテーマであったが、現在は有機無機ハイブリッドのシリカ材料を扱いつつ、高分子化学に

関連記事

  1. 2009年10月人気化学書籍ランキング
  2. 先制医療 -実現のための医学研究-
  3. 化学知識の源、化学同人と東京化学同人
  4. 食品添加物はなぜ嫌われるのか: 食品情報を「正しく」読み解くリテ…
  5. 絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている
  6. その病気、市販薬で治せます
  7. 最新有機合成法: 設計と戦略
  8. 元素のふるさと図鑑

注目情報

ピックアップ記事

  1. MEDCHEM NEWS 32-3号「シン・メディシナルケミストリー」
  2. 実験計画・試行錯誤プラットフォームmiHubの大型アップデートのご紹介 ー研究者を中心としたマテリアルズ・インフォマティクスの組織的活用ー
  3. コーンフォース転位 Cornforth Rearrangement
  4. 第23回 医療、工業、軍事、広がるスマートマテリアル活躍の場ーPavel Anzenbacher教授
  5. 住友化学、Dow Chemical社から高分子有機EL用材料事業を買収
  6. 【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都
  7. KISTEC教育講座 「社会実装を目指すマイクロ流体デバイス」 ~プラットフォームテクノロジーとしての超微量分析ツール~
  8. 化学反応のクックパッド!? MethodsNow
  9. ギ酸 (formic acid)
  10. ChemRxivへのプレプリント投稿・FAQ

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2012年4月
 1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30  

注目情報

最新記事

アクリルアミド類のanti-Michael型付加反応の開発ーPd触媒による反応中間体の安定性が鍵―

第622回のスポットライトリサーチは、東京理科大学大学院理学研究科(松田研究室)修士2年の茂呂 諒太…

エントロピーを表す記号はなぜSなのか

Tshozoです。エントロピーの後日談が8年経っても一向に進んでないのは私が熱力学に向いてないことの…

AI解析プラットフォーム Multi-Sigmaとは?

Multi-Sigmaは少ないデータからAIによる予測、要因分析、最適化まで解析可能なプラットフォー…

【11/20~22】第41回メディシナルケミストリーシンポジウム@京都

概要メディシナルケミストリーシンポジウムは、日本の創薬力の向上或いは関連研究分野…

有機電解合成のはなし ~アンモニア常温常圧合成のキー技術~

(出典:燃料アンモニアサプライチェーンの構築 | NEDO グリーンイノベーション基金)Ts…

光触媒でエステルを多電子還元する

第621回のスポットライトリサーチは、分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域(魚住グループ)にて…

ケムステSlackが開設5周年を迎えました!

日本初の化学専用オープンコミュニティとして発足した「ケムステSlack」が、めで…

人事・DX推進のご担当者の方へ〜研究開発でDXを進めるには

開催日:2024/07/24 申込みはこちら■開催概要新たな技術が生まれ続けるVUCAな…

酵素を照らす新たな光!アミノ酸の酸化的クロスカップリング

酵素と可視光レドックス触媒を協働させる、アミノ酸の酸化的クロスカップリング反応が開発された。多様な非…

二元貴金属酸化物触媒によるC–H活性化: 分子状酸素を酸化剤とするアレーンとカルボン酸の酸化的カップリング

第620回のスポットライトリサーチは、横浜国立大学大学院工学研究院(本倉研究室)の長谷川 慎吾 助教…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP