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化学書籍レビュー

その病気、市販薬で治せます

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概要

「風邪を引いたらまず医者へ」――そんな常識は過去のものに!? 国のセルフメディケーション政策で、おなじみの病院薬は次々に市販化、処方薬と市販薬の間の壁は融解しつつある。解熱鎮痛剤、花粉症薬、胃腸薬など定番の常備薬から、水虫薬、痔の薬、発毛剤、精力剤など人には言いにくい薬まで、最新の成分と実際の効能を解説。激変する市販薬事情をふまえ、薬局と薬剤師を大活用する方法を分かりやすく伝授する。(引用:新潮社

対象

化学の専門書ではないので、どなたでも読み進めることができる書籍です。数多くの市販薬が登場しその有効成分を紹介していますので、化学的、または薬学的に有効成分をより詳しく調べる時の取っ掛かりにもなる書籍だと思います。

目次

はじめに

第1章 「風邪で病院へ行くべきか」問題
病院と薬への思い込みと誤解/病院で処方される「風邪薬」の正体/本当に風邪に抗菌薬(抗生物質)は必要ない?/知識を生かし、ドラッグストアを活用する

第2章 ドラッグストアと市販薬で起きている「激変」
薬剤師の間で高まるドラッグストア人気/「アレグラ」解禁がすべてを変えた/市販薬は病院薬の劣化版?/病院薬と市販薬の「壁」が融解する未来

第3章 「バファリン」と「イブ」は何が違うのか?
日本人ばかり大量消費する「ロキソニン」/医療従事者にもファンの多い「葛根湯」/「温湿布」vs「冷湿布」/「コンビニの胃薬」と「ドラッグストアの胃薬」の違い/止めていい下痢、止めてはいけない下痢/「正露丸」は何の薬?/トレンドは「超高級目薬」/防腐剤入りは本当に目に悪いのか/「一番効く薬」が飲み薬とは限らない/中国で〝神薬〟と呼ばれたパッチタイプ/社会問題になった「ヒルドイド美容処方」

第4章 人には聞けない「あの薬」
「コッソリ治したい」に役立つ市販薬/そもそも「それは水虫かどうか」問題/「ナイシトール」(防風通聖散)の本当の効果と副作用/インターポールも追う「偽造品」/安全でユニークな日本の市販精力薬/「リアップ」一強を崩した「スカルプD」/副作用を転用した「ドリエル」の注意点

第5章 毎日を元気に乗り切るために
「カタカナ漢方」の時代/漢方薬の科学的根拠/日本のソウルメディシン/「栄養ドリンクよりも養命酒」?/1本2000円だから効果大?

第6章 「最強の薬箱」作りの罠と注意点
市販薬は究極の「時短」になる/「飲むタイミング」は効き目に影響するか/災害時に需要度が高い市販薬一覧/「長期連用」でいつのまにか乱用者に/頭痛薬で頭痛が起きる無限ループ/「本当は危険な市販薬」話の危険性

第7章 インフォデミックとコロナ禍
アイドルで市販薬を選んでもいい?/誤解を招く売り出し方――〝早く治す〟〝新商品風〟/コロナ禍の失敗――消毒薬をめぐる混乱/「医師が選んだ市販薬」はいい薬なのか?/SNS空間を襲う「インフォデミック」/正確な医療情報を見分けるコツ

第8章 市販薬2.0――「セルフメディケーション」の未来
これからの市販薬の買い方/国の医療負担を抑える「セルフメディケーション税制」/年々増えるドラッグストア発のPB品/ツイッター懸賞、ゆるキャラ/日本型セルフメディケーションの問題点/拡大するネット通販/ドラッグストアを「身近な健康相談所」に

おわりに 引用文献一覧

解説

サイエンスライターである佐藤健太郎氏がインタビューを行った記事を読んで本書に興味を持ち、読んでみました。もちろん一般向けの新書なので、構造式は全く出てきませんが、化学的に興味深い内容に着目して下記、各章を紹介していきます。

第1章では、風邪と思われる症状が出た時に人々がどんなことを考えるか、そしてその考えにはどんな誤解があるのかから話が始まり、抗菌剤(抗生物質)が多用されている問題に踏み込んでいます。自分は化学科出身であり、薬理活性については知識が無いため、本書に書かれていているように「市販の薬=副作用のリスクが低い分だけ弱い、病院で処方される薬=医者が患者を診て分量を正しくコントロールしているため、良く効く」と思っていましたが、多くの市販薬の有効成分は病院で処方される薬と同じであることを知り驚きました。化学的に興味深い点は、風邪薬の症状別の有効成分が示されている点で、本書に示されている化合物名を調べれば、どんな構造の化合物が風邪の症状に効くかを知ることができます。第2章は、市販薬の種類と市販薬を取り扱う免許について紹介しています。こちらに関しても全く無知で、第一類や二類医薬品が強くて良く効くと思っていましたが、本書によりその違いを理解することができました。ドラックストアに行くと、販売登録者と書かれたタグをぶら下げているスタッフの方もいらっしゃいますが、この販売登録者が薬剤師とどう違うのかについても触れられています。この章の序盤は花粉症の薬を題材にしており、第1章同様に有効成分を紹介しています。

第3章は、市販薬でも一般的な鎮痛薬や胃薬、湿布、目薬について触れています。一般的な薬であるほど、ドラックストアには各社の商品が数多くラインナップされており、どれを買えば良いのか迷うことがあります。本章では成分別に違いを解説しており、自分の症状や希望の使い方に応じて使い分けられることが分かります。第4章では、やや特殊な市販薬について解説しています。価格帯に幅がある薬について、成分にどんな違いがあるのかを忖度なく解説しているところが興味深かったです。この2章で登場する目薬や”神薬”、ユニークな名前の市販薬についての内容を読む中で、薬にも価格差がパフォーマンスの以外の違いでつけられることが分かり、特別な化学品と思っていた薬について他の化学品と同じような面があることを感じました。第5章では、漢方薬を解説しています。第6章では薬の使い方について解説しており添付文書に記載されている内容の意味、守らない危険性について喚起しています。特に薬と一緒に摂取してはいけない食べ物、飲み物について、その理由を化学的に解説しており興味深いと感じました。

第7章は、世間の薬に対する現状への問題提起が主の話題であり、冒頭のアイドルが出演している薬の宣伝については、パンチのある内容です。BtoBでは、価格とパフォーマンスが製品の選択では重要なポイントですが、BtoCではパフォーマンスによる差別化が難しくパッケージや宣伝による知名度が重要になっており、それが市販薬にも適用されることに問題提起をしています。またコロナウィルスの感染拡大の中、関連する商品がネットや有名人の一言によって在庫が一気になくなることにも触れています。少し考えれば情報の真偽が簡単に判別できるにもかかわらず、多くの人が惑わされているのは科学的なリテラシーの広まりが足りない証拠であり、不必要な買占めが起きないためにも物事を科学的に正しく理解することの重要性を感じる内容になっています。

第8章では、政府の打ち出した政策、セルフメディケーションを通して今後の市販薬との付き合い方に関して筆者の提言がまとめられています。セルフメディケーションとは単に軽い症状だったら病院行かずに、自分で薬を買って飲んで治せということだと理解していましたが、この政策の問題点や、人々がどうすべきか、諸外国との違いなどにも触れ、これからの日本がどうしていくべきなのかを考えらさせる内容で締めています。

薬学部に進学すれば別ですが、高校化学、理工学における化学では薬理活性をまんべんなく勉強する機会は少ないので、本書は有効成分の活性を知るにも、その化学構造を知るにも有用だと思います。またTVCMや店頭で新商品の市販薬を見ると思いますが、新薬の開発には莫大な時間とお金がかかる中で市販薬が新発売される仕組みも垣間見ることができます。著者の久里建人さんは薬剤師であり、薬剤師としての日常、例えばドラッグストアや薬局で場合によっては、利用者の健康を守るための措置を取ることなどが挙げられています。そのため、薬剤師の仕事を知る上でも役に立つと思います。このように市販薬について何か疑問に思ったら、ぜひ読んで欲しい本です。

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ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

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