[スポンサーリンク]

ケムステニュース

洗剤を入れたアルミ缶が電車内で爆発

[スポンサーリンク]

以前ドライアイスをペットボトルに入れて遊んでいたところ爆発して大けがをしたというニュースを取り上げたことがありますが、今度は洗剤で爆発のニュースです。お隣の国では予想もしないような色々なものが爆発するそうですが、こちらは化学反応が引き起こしたもののようです。

 

20日午前0時15分頃、東京都文京区本郷の東京メトロ丸ノ内線本郷三丁目駅のホームに停車中の電車内で、都内に住む20歳代の飲食店アルバイト女性が持っていた業務用アルカリ性洗剤の入ったアルミ缶が突然、破裂した。

警視庁や東京消防庁によると、缶を持っていた女性を含む乗客の20~40歳代の男女16人が手や顔にやけどのような症状を訴え、うち9人が病院に搬送されたが、いずれも軽傷だという。

警視庁などによると、女性は「自分が飲み干したコーヒーの缶に、勤務先の店長からもらった強力な洗剤を入れていた」などと説明。洗剤は、蓋付きの アルミ缶(390ミリ・リットル)に蓋を閉めた状態で入れていた。同庁は、洗剤とアルミ缶が化学反応を起こして水素が発生し、破裂した可能性が高いとみて 調べている。

女性は、千代田区内の飲食店での勤務を終え、御茶ノ水駅から荻窪発池袋行き電車(6両編成)の先頭から5両目に乗った。缶は、ビニール袋で包んだ うえで、紙袋に入れて持っていたという。負傷したのは男性6人、女性10人で、破裂した際に飛び散った液体がかかったという。終電間際で、5両目には約 150人の乗客がいて満員状態だった。

YOMIURI ONLINEより引用

なるほどニュースの情報では原因となった女性に悪気があった訳ではありませんが、基本的な化学的の知識があれば回避できた可能性が高い事故です。

よく家庭用の洗剤には“混ぜるな危険”という表示があります。これは塩素系の洗剤に含まれている次亜塩素酸ナトリウムと酸性の洗剤を混合すると次亜塩素酸が生じてしまい、この不安定な次亜塩素酸が自発的に分解する際に塩化水素塩素の気体が発生する為です。塩素は悪名高いナチスのガス室でも使用されたと言われていることからお分かりのように大変毒性の強い気体です。

 

2HClO → O2 + 2HCl

HCl + HClO → H2O + Cl2

さて、今回のニュースを聞いて真っ先に思い浮かんだのがこの塩素でして、もし塩素が撒かれたのだったら乗客は大変なことになると思ったのですが、不幸中の幸いと言ったら不謹慎ですが、その最悪の事態ではなかったようです。

さて、ではどんな事故だったのか、断片的な情報から推測してみましょう。

まず、この方は業務用の強力な洗剤を、蓋ができるアルミ缶の中に入れて持って帰ろうとしていたとのことです。洗剤と言えば界面活性剤のことですが、こちらにあるような業務用のものですと、成分におもいっきり水酸化カリウム水酸化ナトリウムという強塩基(強アルカリ)が入っているものが多くあります。さてそのような強塩基をアルミ缶に入れたらどうなるでしょうか?アルミ缶はアルミニウムの金属でできています。高校の化学の教科書なら必ず出てきますが、アルミニウムは酸、アルカリの両方に溶解する両性元素です。溶解する際に、共に水素を発生します。この水素が問題を引き起こしたと推測されます。

酸性: 2Al + 6HCl → 2AlCl3 + 3H2

塩基性: 2Al + 2NaOH + 6H2O→ 2Na[Al(OH)4] + 3H2

そうです。密閉された容器の中で気体が発生し、内部の圧力が高まり、限界を超えたところでアルミ缶の破断を伴った爆発が起こったと考えられます。ドライアイスが気化してペットボトルを爆発させた事故と基本的には変わりません。気体は液体に比べると物質量が同じでも体積がもの凄く違います。たった2 gの水素がなんと22リットル以上の体積を持つのです。液体の水2 gだったらたったの2 mlに過ぎないので2万倍を超える差があります。気体が潜在的に持つ圧力という力を侮ってはいけません。

さて、今回の事故ですが、高校の基礎的な化学知識と、少しの注意で回避できたはずです。業務用の洗剤の容器にはアルミの製品に用いないように注意書きがあることが普通です。家庭用の洗剤と比べて圧倒的な洗浄力を持つということは、成分が多少危険性を持っている可能性があるといことを注意していただければと悔やまれます。特に強いアルカリ性の物質は目に入ると角膜を侵し失明に至る可能性がある物質ですので取り扱いには十分注意する必要があります。周りにいた方々にこのような被害が発生していない事を祈ります。

こういった事故に”もし”はつきものですが、もしこの方が飲んだ飲み物がアルミ缶のコーヒーではなく、ペットボトルだったら・・・ ペットボトルが溶けてバッグがぐちゃぐちゃになって終わりだったかもしれません。強アルカリですとペットボトルも溶けますのでご注意を。PETの場合は溶けると言っても水素は発生しないので爆発までは行かないと思いますが、いずれにしても正規の容器以外は危険ということに変わりありません。

よく、学校で数学や化学を勉強して一体将来何の役に立つの?という問いを聞く事があります。そういった科目で勉強した事が普段の生活とどう結ばれているのかをきちんと意識させるような教育がもっと普及すればいいのになあと感じます。我が国は初等教育のレベルが他国に比べて高いと言われる事が多いのにも関わらず、いわゆる科学リテラシーが身に付いた大人が多いとは思えないのが現状です。日々の生活の中に気づかないうちに浸透している科学、化学がもっと日の目を浴びて、このような事故が二度と起こらない事を願ってやみません。

関連書籍

 
The following two tabs change content below.
ペリプラノン

ペリプラノン

有機合成化学が専門。主に天然物化学、ケミカルバイオロジーについて書いていきたいと思います。

関連記事

  1. 「薬学の父」長井博士、半生を映画化へ
  2. ナノテクノロジー関連の特許が多すぎる問題
  3. マレーシア警察:神経剤VX検出で、正男氏は化学兵器による毒殺と判…
  4. 阪大と理研ビタミン、透明な生分解性フィルムを開発
  5. 米陸軍に化学薬品検出スプレーを納入へ
  6. 金大発『新薬』世界デビュー
  7. 薄くて巻ける有機ELディスプレー・京大など開発
  8. 観客が分泌する化学物質を測定することで映画のレーティングが可能に…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 投票!2018年ノーベル化学賞は誰の手に!?
  2. 光C-Hザンチル化を起点とするLate-Stage変換法
  3. 有機分子触媒ーChemical Times特集より
  4. 発見が困難なガンを放射性医薬品で可視化することに成功
  5. 透明金属が拓く驚異の世界 不可能に挑むナノテクノロジーの錬金術
  6. ウルフ・デッツ反応 Wulff-Dotz Reaction
  7. 日本にノーベル賞が来る理由
  8. 2012年ケムステ人気記事ランキング
  9. 海外のインターンに参加してみよう
  10. 「カルピス」みらいのミュージアム

関連商品

注目情報

注目情報

最新記事

女優・吉岡里帆さんが、化学大好きキャラ「DIC岡里帆(ディーアイシーおか・りほ)」に変身!

印刷インキや有機顔料世界トップシェアのDIC株式会社は、2020年1月より、数々のヒット作に出演し、…

tRNAの新たな役割:大豆と微生物のコミュニケーション

畑に生えている大豆の根っこを抜いてみると、丸い粒みたいなものがたくさんできています。根粒(こんりゅう…

第46回―「分子レベルの情報操作を目指す」Howard Colquhoun教授

第46回の海外化学者インタビューは、ハワード・コルクホーン教授です。英国レディング大学の化学科に所属…

長期海外出張のお役立ちアイテム

ぼちぼち中堅と呼ばれる年齢にさしかかってきたcosineです。そんなお年頃のせいでしょうか、…

使っては・合成してはイケナイ化合物 |第3回「有機合成実験テクニック」(リケラボコラボレーション)

理系の理想の働き方を考える研究所「リケラボ」とコラボレーションとして「有機合成実験テクニック」の特集…

有機合成化学協会誌2020年1月号:ドルテグラビルナトリウム・次亜塩素酸ナトリウム5水和物・面性不斉含窒素複素環カルベン配位子・光酸発生分子・海産天然物ageladine A

有機合成化学協会が発行する有機合成化学協会誌、2020年1月号がオンライン公開されました。オ…

Chem-Station Twitter

PAGE TOP