[スポンサーリンク]

ケムステニュース

宝塚市立病院で職員が「シックハウス症候群」に…労基署が排気設備が不十分と是正勧告

[スポンサーリンク]

兵庫県宝塚市の宝塚市立病院が、病理検査室の排気設備の不具合を放置したとして、労働基準監督署から是正勧告を受けていたことが分かりました。病院では職員が「シックハウス症候群」と診断されています。  (引用:MBS NEWS 11月1日)

この病院の職員は病理検査室で勤務していましたが、今年の8月にのどの痛みなどを感じて医療機関を受診したところ、揮発性有機化合物による「シックハウス症候群」と診断されたそうです。病理検査室では、臓器の保存の際にホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンなどの有毒な化学物質を扱っていて、労働安全衛生法では排気装置の稼働が義務付けられています。西宮労働基準監督署が立ち入り検査を行った結果、女性が働いていた病理検査室の排気装置の風速が法律の基準を下回り、十分に機能していなかったことが分かったということです。そのため労働基準監督署は、病院に対して職場環境を改善するよう是正勧告しました。

合成を行う研究室には、排気装置の一種であるドラフトチャンバーが必ず設置されていると思いますが、各種法律によって必要な風速が決まっていて、自主検査を一年に一回実施し記録を保存することになっています。ドラフトチャンバーは、囲い式フードに分類され、指定の開口部を8点あるいは16点に分割して風速を測定して下記の値以上でなくではなりません。有機溶剤だけであれば0.4 m/sですが、ホルムアルデヒドやジクロロメタンなどの特化物を使う場合には0.5 m/s、ニッケルやコバルト無機化合物といった粒子状の特化物を使う場合には1.0 m/s必要になります。

風速を測定する熱戦式風速計(引用:モノタロウ

風速が規定以下の場合、下記のような不良が考えられます。

  • ドラフト内部の物が吸気を妨げている:ドラフト内部を片付ける。
  • 吸気フィルターが目詰まりしている:フィルターを交換する。
  • モーターのファンベルトが切れている:ファンベルトを確認する。
  • ファン異常:ファンの点検を依頼する

風速に異常がなくても、ドラフトのサッシが常に全開では、風速が十分に出ずに作業者が有機溶媒を吸い込んでしまいます。ましてやドラフトの外で有機溶媒を取り扱うことなどもってのほかです。これから研究が佳境に入り、期限との戦いを強いられている人もいるかもしれませんが、頭痛やめまいといった有機溶剤による健康障害を感じたら病院を受診するとともに、迷わずラボメンバーや先生と相談し、ドラフトのマナーを改善したり、ガスマスクの導入をすることが必要だと思います。

なお従来型のドラフトチャンバーは常に一定量の空気を吸い込んでいるため、たくさんのドラフトが稼働している部屋では大量の空気が吸われてエアコンが効きにくいことがあります。そこでドラフトのサッシの開度に合わせて吸い込み量を調整し、空調と排気にかかる消費電量を低減するシステムが開発されています。サッシが全開で一定時間たつとアラームが鳴りサッシを閉めることを促すシステムもあります。既存のラボでドラフトチャンバーを取り換えることはありませんが、ラボを新設する場合には、作業者のことを考えてこのようなシステムを導入してほしいと思います。

この病院では、来年3月の完成予定で排気装置などの改修工事を進めているということです。上記に挙げた風速が低い場合の対策はすぐに完了できるものばかりで、長期間の工事が必要ということは、ファンのパワー不足など根本的な問題が長年放置されてきたような印象を受けます。健康を守るための病院で健康被害が起きた残念なニュースでした。

関連書籍

[amazonjs asin=”486163153X” locale=”JP” title=”シックハウス症候群を防ぐには―長期に亘る実態調査をふまえて”] [amazonjs asin=”4846118134″ locale=”JP” title=”シックスクール問題と対策”]

関連リンク

Avatar photo

Zeolinite

投稿者の記事一覧

ただの会社員です。某企業で化学製品の商品開発に携わっています。社内でのデータサイエンスの普及とDX促進が個人的な野望です。

関連記事

  1. 液中でも観察OK 原子間力顕微鏡: 京大グループ開発
  2. 第13回化学遺産認定~新たに3件を認定しました~
  3. ノーベル化学賞明日発表
  4. 元素周期表:文科省の無料配布用、思わぬ人気 10万枚増刷、100…
  5. 武田薬品、糖尿病薬「アクトス」に抗炎症作用報告
  6. 新車の香りは「発がん性物質」の香り、1日20分嗅ぐだけで発がんリ…
  7. 環境、人体に優しい高分子合成を開発 静大と製薬会社が開発
  8. 三共と第一製薬が正式に合併契約締結

注目情報

ピックアップ記事

  1. ハメット則
  2. 嗚呼、美しい高分子の世界
  3. マリウス・クロア G. Marius Clore
  4. NCL用ペプチド合成を簡便化する「MEGAリンカー法」
  5. 大学院生のつぶやき:研究助成の採択率を考える
  6. 今こそ天然物化学☆ 天然物化学談話会2021オンライン特別企画
  7. バイヤー・ビリガー酸化 Baeyer-Villiger Oxidation
  8. ネイティブ・ケミカル・ライゲーション Native Chemical Ligation (NCL)
  9. コーリー・ニコラウ マクロラクトン化 Corey-Nicolaou Macrolactonizaion
  10. 添加剤でスイッチするアニリンの位置選択的C-Hアルキル化

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2019年11月
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930  

注目情報

最新記事

亜鉛–ヒドリド種を持つ金属–有機構造体による高温での二酸化炭素回収

亜鉛–ヒドリド部位を持つ金属–有機構造体 (metal–organic frameworks; MO…

求人は増えているのになぜ?「転職先が決まらない人」に共通する行動パターンとは?

転職市場が活発に動いている中でも、なかなか転職先が決まらない人がいるのはなぜでしょう…

三脚型トリプチセン超分子足場を用いて一重項分裂を促進する配置へとペンタセンクロモフォアを集合化させることに成功

第634回のスポットライトリサーチは、 東京科学大学 物質理工学院(福島研究室)博士課程後期3年の福…

2024年の化学企業グローバル・トップ50

グローバル・トップ50をケムステニュースで取り上げるのは定番になっておりましたが、今年は忙しくて発表…

早稲田大学各務記念材料技術研究所「材研オープンセミナー」

早稲田大学各務記念材料技術研究所(以下材研)では、12月13日(金)に材研オープンセミナーを実施しま…

カーボンナノベルトを結晶溶媒で一直線に整列! – 超分子2層カーボンナノチューブの新しいボトムアップ合成へ –

第633回のスポットライトリサーチは、名古屋大学理学研究科有機化学グループで行われた成果で、井本 大…

第67回「1分子レベルの酵素活性を網羅的に解析し,疾患と関わる異常を見つける」小松徹 准教授

第67回目の研究者インタビューです! 今回は第49回ケムステVシンポ「触媒との掛け算で拡張・多様化す…

四置換アルケンのエナンチオ選択的ヒドロホウ素化反応

四置換アルケンの位置選択的かつ立体選択的な触媒的ヒドロホウ素化が報告された。電子豊富なロジウム錯体と…

【12月開催】 【第二期 マツモトファインケミカル技術セミナー開催】 題目:有機金属化合物 オルガチックスのエステル化、エステル交換触媒としての利用

■セミナー概要当社ではチタン、ジルコニウム、アルミニウム、ケイ素等の有機金属化合物を“オルガチッ…

河村奈緒子 Naoko Komura

河村 奈緒子(こうむら なおこ, 19xx年xx月xx日-)は、日本の有機化学者である。専門は糖鎖合…

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP