[スポンサーリンク]

化学者のつぶやき

MIDAボロネートを活用した(-)-ペリジニンの全合成

[スポンサーリンク]

 

Stereoretentive Suzuki-Miyaura Coupling of Haloallenes Enables Fully Stereocontrolled Access to (-)-Peridinin.
Woerly, E. M.; Cherney, A. H.; Davis, E. K.; Burke, M. D. J. Am. Chem. Soc. 2010, ASAP doi: 10.1021/ja102721p

イリノイ大学のMartin Burkeのグループから今回、MIDAボロネートの特性を最大限に活用したルートでの天然物Peridininの合成が報告されましたのでご紹介します。


MIDAボロネートとは、ボロン酸とN-メチルイミノ二酢酸(MIDA)から調製される「保護型ボロン酸」です。

peridinin_4.gifカルボン酸の電子求引効果、およびメチルアミンによるホウ素空軌道のガードによって、ホウ素アート錯体から進行する数々の反応に対し不活性になるよう設計されています。
このMIDAボロネートはカラムクロマトグラフィでも精製でき、酸素や水にも安定という優れた性質を持ちます。脱保護に水が必要なので、無水のクロスカップリング条件にも不活性です。Sigma-Aldrich社がまとめている反応一覧表によれば、Evansアルドール条件やMeerweinメチル化などのほかにも、Jones酸化Swern酸化、臭素、mCPBAなどといった酸化条件にも耐えるようです。それでいて塩基性水溶液でスムーズに外れるという、なかなかに信じられない性能を誇るようです。

この特性を活かしBurkeは、「反復型鈴木クロスカップリング」によって炭素フラグメント同士を連結する合成ルートを立て、合成を進めています。各フラグメント合成ですが、これがなかなか斬新。どの条件においてもMIDAボロネートは外れず、連続的な変換に耐えています。

peridinin_3.gif
そして以下のようにMIDAボロネート脱保護→鈴木クロスカップリングの反復によって、各フラグメントを連結しています。

peridinin_5.gif
ハロアレンとのクロスカップリングは、SN2’経路酸化的付加との競合によって、立体反転するのがしばしば問題となるそうですが、彼らは自前でその解決法たる最適条件もを見出しています。詳しくは論文を参照して頂きたいですが、ヨードアレン3位の置換基が大きく、リン配位子を巨大にすれば通常型の酸化的付加が優先し、立体保持で進むとのこと。

官能基と炭素骨格ををすべて備えた各フラグメントを完全に作り上げて、最後に鈴木クロスカップリングでつなげるだけ・・・という誰が見てもわかりやすい合成。シンプル・イズ・ベストな合成がオリジナルの最先端技術によって実現されている好例と言えそうです。MIDAボロネートにはまだまだ奥の深い応用性がありそうで、これからも要注目ですね。

 

関連文献

[1] (a) Gillis, E. P.; Burke, M. D. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 6716. DOI: 10.1021/ja0716204 (b) Lee, S. J.; Gray, K. C.; Paek, J. S.; Burke, M. D. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 466. DOI: 10.1021/ja078129x (c) Gillis, E. P.; Burke, M. D. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130, 14084. DOI: 10.1021/ja8063759 (d) Knapp, D. M.; Gillis, E. P.; Burke, M. D. J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 6961.DOI: 10.1021/ja901416p (e) Dick, G. R.; Knapp, D. M.;  Gillis, E. P.; Burke, M. D. Org. Lett. 2010, ASAP DOI: 10.1021/ol100671v

 

関連リンク

cosine

cosine

投稿者の記事一覧

博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

関連記事

  1. 150度以上の高温で使える半導体プラスチック
  2. 原子一個の電気陰性度を測った! ―化学結合の本質に迫る―
  3. ケミストリ・ソングス【Part1】
  4. 二丁拳銃をたずさえ帰ってきた魔弾の射手
  5. 第2回慶應有機合成化学若手シンポジウム
  6. 2009年ノーベル化学賞『リボソームの構造と機能の解明』
  7. 2009年10大分子発表!
  8. 卒論・修論にむけて〜わかりやすく伝わる文章を書こう!〜

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. ナノ孔に吸い込まれていく分子の様子をスナップショット撮影!
  2. 計算化学:DFT計算って何?Part II
  3. 電気化学の力で有機色素を自在に塗布する!
  4. 4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェニルサルファートリフルオリド:4-tert-Butyl-2,6-dimethylphenylsulfur Trifluoride
  5. 反応中間体の追跡から新反応をみつける
  6. “かぼちゃ分子”内で分子内Diels–Alder反応
  7. ビール好きならこの論文を読もう!
  8. Z-選択的オレフィンメタセシス
  9. DNAが絡まないためのループ
  10. 1,3-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)イミダゾリニウムクロリド:1,3-Bis(2,4,6-trimethylphenyl)imidazolinium Chloride

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2010年5月
« 4月   6月 »
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31  

注目情報

注目情報

最新記事

自己組織化ねじれ双極マイクロ球体から円偏光発光の角度異方性に切り込む

第327回のスポットライトリサーチは、筑波大学大学院数理物質科学研究科 物性・分子工学専攻 山本・山…

第159回―「世界最大の自己組織化分子を作り上げる」佐藤宗太 特任教授

第159回の海外化学者インタビューは日本から、佐藤宗太 特任教授です。東京大学工学部応用化学科に所属…

π-アリルイリジウムに新たな光を

可視光照射下でのイリジウム触媒によるアリルアルコールの不斉アリル位アルキル化が開発されたキラルな…

うっかりドーピングの化学 -禁止薬物と該当医薬品-

「うっかりドーピング」という言葉をご存知でしょうか。禁止薬物に該当する成分を含む風邪…

第五回ケムステVプレミアレクチャー「キラルブレンステッド酸触媒の開発と新展開」

新型コロナ感染者数は大変なことになっていますが、無観客東京オリンピック盛り上がっ…

がん治療用の放射性物質、国内で10年ぶり製造へ…輸入頼みから脱却

政府は、がんの治療や臓器の検査をする医療用の放射性物質の国内製造を近く再開する。およそ10年ぶりとな…

三洋化成の新分野への挑戦

三洋化成と長瀬産業は、AI 技術を応用した人工嗅覚で匂いを識別する「匂いセンサー」について共同で事業…

ケムステSlack、開設二周年!

Chem-Stationが立ち上げた化学系オープンコミュニティ、ケムステSlackを開設して早くも二…

過酸がC–H結合を切ってメチル基を提供する

光増感剤とニッケル触媒を用いたC(sp3)–Hメチル化が開発された。合成終盤でのメチル化に威力を発揮…

化学の祭典!国際化学オリンピック ”53rd IChO 2021 Japan” 開幕!

2021年7月「オリンピック/パラリンピック 東京2020大会」も無観客ではあるものの無事開幕されま…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP