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最近の論文から〜炭素-炭素結合を切る!?〜

 

   有機合成化学において炭素-炭素結合生成反応は、炭素骨格中心である有機化合物を "組み立てる" ために、非常に重要であり、そのため古くから多くの研究がなされており、様々な反応があります。さらに、最近は、炭素ー炭素結合生成反応と言ってもグリーンケミストリーの観点から高いアトムエコノミー(使用原料がどれだけ生成物に含まれ
るか。
生成物に関わらない余分な原子を使わないことがアトムエコノミーが高い反応である。)、化学、位置、立体選択性に優れた反応が求められています。

 

 一方、炭素-炭素結合を切断して、それを付加させることができればアトムエコノミーの観点からも脱離反応等に比べて効率的であるといえます(図1)。

 

 

図1 炭素-炭素切断反応

 

 実際、炭素ー炭素結合を切断して反応を行うものの代表的な例として、オレフィンメタセシス(Olefin Metathesis)があります。オレフィンメタセシスは炭素ー炭素二重結合を切断してもうひとつの二重結合と組み替えることによって、新たな炭素ー炭素二重結合が生成します。もちろん理論的には副生成物はなくアトムエコノミーが高い反応です。

 

 今回、紹介するのは、二重結合でなく炭素ー炭素単結合を切断し、三重結合に付加反応を行う反応です(図2)。

 

図2  ニッケル触媒を用いたアルキンへのアリールシアネーション1)

 

ところで切断、切断と言っていますがはさみで切断するわけではありません(笑)。どのように切断するのでしょうか?まずここから簡単に説明したいと思います。

 

炭素ー炭素単結合切断とは?

  

 さて、図3に模式図を示します。ここで、結合を切断するはさみの役割をするのは遷移金属(M)です。まず、炭素炭素結合に、遷移金属が酸化的付加(oxidative addition)し、炭素炭素結合の間に挿入します。その後、アルケン、アルキンと反応して挿入、遷移金属の還元的脱離(reductive elimination)により元の炭素が付加した化合物が得られるわけです。

 

 

図3 炭素ー炭素単結合の切断方法

 

 ここで説明したのは遷移金属の酸化的付加による炭素ー炭素単結合の切断方法です。他にも方法がありますので他の方法は勉強してみてください。一般的に炭素ー炭素二重結合の切断に比べて単結合の切断は遷移金属が容易に相互作用するπ軌道を持たないため、なかなか難しいものです。 さらに炭素-炭素単結合を切断すると言っても、有機化合物は炭素鎖で構成されているためすべて切ってしまっては元も子もありません。そのため触媒や反応基質が工夫されていたり、トリックが隠されています。続いて、その例をいくつか簡単に説明します。

 

炭素ー炭素単結合切断反応

  

  最近の例を2つ示します。これ以前に先駆的な研究がありますが、それらについては参考文献、総説を参照してください。Junら2)は触媒量のWilkinson錯体、2-アミノピコリン存在下、オレフィンを作用させ加熱することで触媒的に炭素-炭素単結合を切断することに成功しています(図4)。

 

図4 Catalytic Carbon-Carbon Bond Activation of Unstrained Ketone

 

 通常このような切断は起こりませんが、2-アミノピコリンとケトンが系内でイミンを形成し、そこに金属が配位するために近づいてくるによってカルボニルのα位に金属が挿入することができます(図5)。

図 5 配位性置換基を用いたC-C活性化

 

 また、村上ら3)は、触媒量のRh錯体とシクロブタノンを反応させると、シクロブタノンが切断され分子内環化反応が進行することを見出しました。配位性の置換基を利用せず炭素-炭素結合の切断を達成しています。これはシクロブタノンが歪んでおり、p軌道が外に張り出しているため金属と配位しやすくなっていることがトリックです。

 

図6 Catalyzed Intramolecular Olefin Insertion into a Carbon-Carbon Single Bond

 

 このように、炭素ー炭素結合を選択的に切断するためには工夫が必要です。それでは、檜山らのニッケル触媒を用いたアルキンへのアリールシアネーションはどのような工夫をしているのでしょうか?

 

ニッケル触媒を用いたアルキンへのアリールシアネーション

  

    再び紹介しますが、檜山らはニッケル触媒を用いてシアノ基を有する芳香族の結合を切断し、アルキンへアリール基とシアノ基を付加させることに成功しています。これがシアノ基であることがトリックです。まず、この反応機構は以下のように提唱されていますのでそれを見てみましょう(図7)。

 

 ニッケル触媒が、ベンゾニトリルの炭素ー炭素単結合に挿入(切断、酸化的付加)するためにニッケル触媒が近づかなくてはいけないのですが、その際シアノ基のπ結合があるため、近づきやすくなります。これが鍵となり、Ni触媒が挿入後、アルキンと反応してNI触媒が還元的脱離することによって反応が進行するというわけです。

 

 

図7 アリールシアネーション推定反応機構

 

 このように檜山らは炭素ー炭素結合を切断することに成功しました。この反応はニッケル触媒が嵩高いため、R2を大きな置換基にすると、位置選択性が発現します。Ni触媒以外では触媒的に進行しなかったようです。また、用いる配位子(PMe3)も重要であることを述べています。さらにはじめの、ニッケル触媒が炭素ー炭素芳香環に挿入(酸化的付加)する際が律速段階であるようで、電子豊富なアリールを用いると反応がかなり遅くなるという制限もありますが、新たな興味深い反応です。

 

 以上、今回は非常に簡単に炭素ー炭素結合の切断について説明しました。簡単にするために、各部分で説明を省いているため、詳しく勉強したい方は C-C bond activation、 C-C bond insertion、 C-C bond Cleavageで調べるか、参考文献をご覧ください。有機って面白いよね!!

(2005.5. 9 ブレビコミン)

 

参考、関連文献

 

1) T. Hiyama et al., J. Am. Chem. Soc., 126, 13904 (2005).

2) C.-H Jun et al., J. Am. Chem. Soc., 121, 880 (1999).

3) M. Murakami et al., J. Am. Chem. Soc., 124, 13976 (2002).

 

・高橋 保, 菅野研一郎, 有合化, 61, 938 (2003).

 

最新有機合成化学―ヘテロ原子・遷移金属化合物を用いる合成最新有機合成化学―ヘテロ原子・遷移金属化合物を用いる合成

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有機金属化学事典―遷移金属有機金属化学事典―遷移金属
 現代の有機金属化学および一酸化炭素化学を包含する知識の集大成。元素の有機化学を個別に総括。また有機合成および触媒、特に工業的な利用における有機金属種の応用を概観。成長著しい分野の研究の記録。

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有機合成のための触媒反応103

 金属を触媒量用いるだけで目的の変換を達成する合成反応に注目する観点から、酸化、還元、カルボニル化、付加、カルベン錯体の反応、カップリング、異性化・転位、縮合、脱離、重合に分けて103項目の触媒反応を紹介する。 桧山 為次郎 氏編集。

 

The Organometallic Chemistry of the Transition MetalsThe Organometallic Chemistry of the Transition Metals
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関連リンク

 

京都大学工学研究科 檜山研究室

 

オレフィンメタセシス(Olefin Metathesis)

 

A Double Carbon-Carbon Bond Activation of 8-Quinolinyl Cyclopropyl ...(PDF)