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マーフィー試薬 Marfey reagent

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概要

Marfey試薬(1-フルオロ-2,4-ジニトロフェニル-5-L-アラニンアミド、略称:FDAA)は、アミノ酸の光学異性体を識別するための前処理・誘導体化試薬として広く利用されている。Marfey試薬は、アミノ酸の一級アミノ基と反応し、ジアステレオマーを形成する。これにより、逆相HPLCを用いてD体とL体のアミノ酸を効果的に分離・定量可能になる。アミノ酸を単離することなく、簡便な操作で一度に分析・同定が可能であり、汎用ODSカラムで実施できる点が特徴となる。

分離能や検出感度を向上させるために、改良構造が各種報告されている(実施例を参照)。

基本文献

  • Marfey, P. Carlsberg Res. Commun. 1984, 49, 591. doi:10.1007/BF02908688
  • Fujii, K.; Ikai, Y.; Oka, H.; Suzuki, M.; Harada, K.-I.  Anal. Chem. 1997, 69, 5146-5151. doi:10.1021/ac970289b
  • Kuranaga, T.; Minote, M.; Morimoto, R.; Pan, C.; Ogawa, H.; Kakeya, H. ACS Chem Biol. 2020, 15, 2499–2506. doi:10.1021/acschembio.0c00517
<review>

開発の経緯

1984年、Peter Marfeyによって、アミノ酸のエナンチオマーを識別するための誘導体化試薬として開発された。この方法は、アミノ酸の立体化学を簡便に決定できることから、広く活用されている。

実施例

アミノ酸の立体配置決定

FDAA誘導体は熱的に不安定であるため、質量分析法には適用困難とされていた。原田らは、改良Marfey試薬(FDVA, FDLA)を用いて、質量分析法に適した分析手順へと発展させた。標準試料を使用せずに目的のアミノ酸を同定し、その絶対配置を導き出すことが可能になっている。この手法により、ペプチド天然物中のチアゾールアミノ酸の絶対配置決定が実現されている。[1]

 

検出高感度化を指向したMarfey試薬の改良

倉永・掛谷らは、末端にジメチルアミノ基を有する試薬(FDVDA, FDLDA)へと改変することで、中性pH条件での微量・高感度MS検出を可能とした[2-7]。試薬はナカライテスク社より市販されている。

実施手順

Marfey試薬は、アミノ酸の一級アミノ基と反応し、対応するジアステレオマーを形成する。D-アミノ酸誘導体は強い分子内水素結合を形成するため、対応するL-アミノ酸誘導体よりも極性が低下する。その結果、逆相カラム上でD-誘導体は選択的に保持され、L-誘導体よりも遅れて溶出する。FDVDAを用いる実施手順は関連動画を参照。

関連動画

参考文献

  1. Fujii, K.; Ikai, Y.; Oka, H.; Suzuki, M.; Harada, K.-I.  Anal. Chem. 1997, 69, 5146-5151. doi:10.1021/ac970289b
  2. (a) Kuranaga, T.; Minote, M.; Morimoto, R.; Pan, C.; Ogawa, H.; Kakeya, H. ACS Chem Biol. 2020, 15, 2499–2506. doi:10.1021/acschembio.0c00517 (b) 倉永 健史, Peptide News Letter Japan 2021, 121(7), 5. [PDF]
  3. Kuranaga, T.; Kakeya, H.; Methods Enzymol. 2022, 665, 105-133. doi:10.1016/bs.mie.2021.11.004
  4. Morimoto, R.; Matsumoto, T.; Minote, M.; Yanagisawa, M.; Yamada, R.; Kuranaga, T.; Kakeya, H.  Chem. Pharm. Bull. 2021, 69, 265-270. doi:10.1248/cpb.c20-00958
  5. Jiang, Y.; Matsumoto, T.; Kuranaga, T.; Lu, S.; Wang, W.; Onaka, H.; Kakeya, H. J. Antibiot. 2021, 74, 307–316. doi:10.1038/s41429-020-00400-3
  6. Pan, C.; Kuranaga, T.; Kakeya, H. J. Nat. Med. 2021, 75, 339–343. doi:10.1007/s11418-020-01472-z

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。国立大学教員→国研研究員にクラスチェンジ。専門は有機合成化学、触媒化学、医薬化学、ペプチド/タンパク質化学。
関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。
素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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