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スポットライトリサーチ

安価な金属触媒でアルケンの高活性ヒドロシリル化を達成

第26回のスポットライトリサーチは、九州大学 先導物質化学研究所(永島研究室)・野田 大輔 学術研究員にお願いしました。

資源枯渇に悩む日本では、希少元素代替を目指した基礎~応用研究が国家戦略として遂行されています。永島研究室ではその思想下にあるCREST事業の支援を受け、安価ながらこれまで有機合成用触媒としてはあまり活用が進んでいなかった鉄触媒の活用に着目した研究を行っています。

この潮流下、野田さんが現場で取り組まれた成果が先日プレスリリース・論文として発表され、これを機に紹介させて頂く運びとなりました。

“Non-Precious-Metal Catalytic Systems Involving Iron or Cobalt Carboxylates and Alkyl Isocyanides for Hydrosilylation of Alkenes with Hydrosiloxanes”
Noda, D.; Tahara, A.; Sunada,Y.; Nagashima, H.  J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 2480. DOI: 10.1021/jacs.5b11311

研究室を主宰されている永島英夫 教授からは、今回の成果とそれに取り組んだ野田さんを以下のように評しておられます。

ひとことで言えば、野田君は「こだわり」と「粘り」の人です。本研究は,鉄触媒という世界的なトピックスでありながら、錯体化学と合成化学の双方を両立した基礎研究が出来るのは世界的に数研究室あるだけ、という難度の高いテーマです。同時に工業的な課題解決でもあるため、実用化を念頭においた特許戦略も必要でした。この2つは研究の進め方自体が、前者は深く、後者は広く、という大きな違いがあります。野田君でなければ、難問蓄積のこのテーマに取り組み、成果を出すことはできなかったと思います。

標的反応はごく基本的ですが、配位子や触媒成分の選び方などの随所に細やかな工夫が見られ、「噛めば噛むほど味のある仕事」といえそうです。それではインタビューをご覧ください!

Q1. 今回のプレス対象となったのはどんな研究ですか?簡単にご説明ください。

今回発表された研究内容は、アルケンのヒドロシリル化反応における貴金属代替触媒の開発です。

アルケンのヒドロシリル化反応は、シリコーンオイルやシリコーン樹脂などのシリコーン材料を合成する上で重要な鍵反応の一つです。この反応は、触媒が必要とされており、現在は主に白金触媒が使用されています。本研究では、元素戦略の観点から、鉄やコバルトといった第一周期遷移金属に着目し、工業的に重要なヒドロシロキサンに活性を有する触媒の開発に成功しました。(図A)

具体的には、ピバル酸鉄やコバルトとイソシアニド配位子を用いることで、最高活性として触媒回転数9700を達成し、また、変性シリコーンの合成(図B)やシリコーンの硬化(図C)まで検討を行いました。

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Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

カルボン酸塩を触媒前駆体とした点と、助触媒としてアルコキシシランを用いたことですね。これは、SiとOの親和性が高いことを利用して、活性種を発生させるというアイデアです。

我々はアルコキシシランを基質として用いるヒドロシリル化を検討していましたが、ヒドロシロキサンを用いるヒドロシリル化よりも活性はよくありませんでした。しかし、反応溶液の色の変化と様子をじっくり観察していると、初期の色の変化が速いことに気が付きました。そこで,アルコキシシランを助触媒として少量添加して試してみると、ヒドロシロキサンを用いるヒドロシリル化が,これまでの条件より低温で反応が速やかに進行することがわかり,これまで達成できなかったシリコーン変性などを実現するブレークスルーにつながりました。

 

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

この研究は、鉄触媒開発という基礎研究としての重要性の他、工業的に重要な課題であるため、特許を事前に出願する必要がありました。さらに実用化を考えると、ただ特許を出願するのではなく、強い特許の作成が重要でした。つまり、他の研究者や企業が入り込める隙を作らないようにするには、どのような請求項を構築すればよいか、そのための実施例はどれが必要かという点での工夫,「特許戦略」が必要でした。

特許戦略は、論文を作成する戦略とは考え方が異なり、予想しうる可能性を網羅する幅広い検討を行う必要があるため、出願完了までかなりの時間を必要としました。その後、学術研究としてまとめ、アメリカ化学会誌のスポットライトに選出される、基礎研究としても重要な成果として、世界に発信することができました。

 

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

本研究は、今後この成果を基に信越化学工業株式会社との共同研究にて実用化へ向けて検討を行われます。この触媒系が最終的に実用化するかどうかは、“死の谷”と“ダーウィンの海”と呼ばれる基礎研究と実用化の狭間にある難関を突破しなければなりませんが、周りの方々の協力のもと、チャレンジをしていきたいと思います。私としては、この成果だけでなく、今後も社会に貢献できる製品の開発やその元となる技術開発で貢献していきたいと考えています。

 

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

本研究は、このスポットライトリサーチを含め、すでに様々なところで評価を頂いている成果となりました。本研究は、永島先生を始めとした多くの方々のご支援とご協力があったからこその成果だと考えておりますが、今後も多くの方々のご協力が必要となると思っています。今後、もしこの研究や私と関わる機会がありましたら、どうぞよろしくお願いします。

 

関連リンク

研究者の略歴

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野田 大輔 (のだ だいすけ)

九州大学 先導物質化学研究所 永島研究室 学術研究員

~2010年 九州大学大学院 総合理工学府 物質理工学専攻 博士課程修了

「鉄触媒を用いたクロスカップリング反応の反応機構」など

2010年~2013年 一般財団法人 川村理化学研究所 客員研究員

「直鎖状ポリエチレンイミン誘導体の合成と機能開発」

2013年~ 九州大学 先導物質化学研究所 学術研究員

「アルケンのヒドロシリル化反応用白金代替触媒の開発」

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博士(薬学)。Chem-Station副代表。現在国立大学教員として勤務中。専門は有機合成化学、主に触媒開発研究。 関心ある学問領域は三つ。すなわち、世界を創造する化学、世界を拡張させる情報科学、世界を世界たらしめる認知科学。 素晴らしければ何でも良い。どうでも良いことは心底どうでも良い。興味・趣味は様々だが、そのほとんどがメジャー地位を獲得してなさそうなのは仕様。

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