[スポンサーリンク]

odos 有機反応データベース

四酸化ルテニウム Ruthenium Tetroxide (RuO4)

[スポンサーリンク]

概要

超強力な酸化剤として働く。通常の酸化条件では達成不可能なベンゼン環やオレフィンの酸化的開裂が穏和な条件で行える。

しかしながら強力さゆえの副反応もしばしば起こり、基質を選ぶことも少なくない。使用タイミングをよく吟味する必要がある。

ルテニウムは高価であるため、触媒量の前駆体と安価な再酸化剤を用いてRu(VIII)を系中発生させて用いるのが定法である。

基本文献

  • Djerassi, C.; Engle, R. R. J. Am. Chem. Soc. 1953, 75, 3838. DOI: 10.1021/ja01111a507
  • Berkowitz, L. M.; Rylander, P. N. J. Am. Chem. Soc. 1958, 80, 6682. DOI: 10.1021/ja01557a053
  • Wolfe, S.; Hasan, S. K.; Campbell, J. R. Chem. Commun. 1970, 142.
  • Charlsen, P. H. J.; Katsuki, T.; Martin, V. S.; Sharpless, K. B. J. Org. Chem. 1981, 46, 3936. DOI: 10.1021/jo00332a045
<review>
  • 実験化学講座第5版 「有機化合物の合成V 酸化反応」 3・2
  • Piccialli, V. Molecules 2014, 19, 6534. doi:10.3390/molecules19056534

開発の経緯

1953年にDjerassiおよびEngleらによって、有機化合物の当量酸化剤としての用途が示された。その後、1981年にSharplessらによって触媒量のルテニウムを用いる標準条件(反応機構項を参照)が確立されるに至り、広く用いられるようになった。

反応機構

溶媒は試薬と反応しない四塩化炭素が通常用いられる。エーテル溶媒などとは激しく反応するため用いることが出来ない。カルボン酸などの基質/生成物が配位すると、触媒が失活する場合がある。配位性共溶媒としてアセトニトリルを加えるとこれが防げる。

このような理由から、RuCl3(cat.)-NaIO4/CH3CN-CCl4-H2Oが標準条件となっている。

本標準条件は二相系であり、系中生成する活性種RuO4が有機溶媒中の酸化によって消費され、水溶性のRuO2になる。これが水溶性の再酸化剤によって酸化され、RuO4が再生する。相間移動触媒を添加すると反応が促進される。

反応例

オレフィンの酸化的開裂

反応機構項の表に示すように、RuO4はオレフィンを開裂してカルボン酸やケトンを与える。典型的な活用法の一つである。この特性から、オゾン酸化の代替法として考えることができる。条件を上手く選ぶことで、開裂をアルデヒド酸化度で止めることも出来る[1]。

オレフィンのcis-ジヒドロキシル化

毒性の強いOsO4を用いずに反応が行える点、極めて短時間で進行する点が特長。初期の触媒条件[2]にブレンステッド酸やルイス酸の添加[3]することで、適用が大幅に改善された。

ポリエンの酸化的環化反応

適切な位置に他のオレフィンが存在すると、酸化的な環化反応が起こりテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン構造を与える。

Molecules 2014, 19, 6534.より引用)

カスケード反応様式に付すことで、多環式化合物を得ることも出来る[4]。


エーテルα位・アミンα位・ベンジル位C-H結合の酸化

メチレン炭素をα位に持つエーテルはRuO4で酸化され、エステルまたはラクトンを与える[5]。環状第三級アミンやアミドの場合も同様の条件で窒素隣接メチレンが酸化され、ラクタムまたはイミドを与える。メチン炭素を持つものは、開裂してケトンへと変換される。このような反応が進行するため、ジオキサンやTHFなどのエーテル系溶媒は本試薬に用いることが出来ない。


また、MOMエーテルベンジルエーテルは比較的丈夫な保護基であるが、RuO4で酸化することで、メチルカーボネートやベンゾイルエステルに変換できる[6]。こうすることで穏和な塩基性条件で除去可能となる。

アルカンのC-H酸化

RuO4でこの種の反応が進行することは知られていたが、近年のC-H変換化学の加熱により、再検討されるに至っている。KBrO3がこの目的の再酸化剤として優れることがDu Boisらによって示されている[7]。C-H結合の反応性は3級>2級>1級の順列に従う。


ベンゼン環の酸化的開裂

電子豊富ベンゼン環はRuO4で開裂し、カルボン酸を与える[8]。この目線に従えば、ベンゼン環をカルボン酸の等価体と捉えることができる。ただし、他の酸化されやすい官能基(オレフィン、アルコールなど)が共存する場合には、そちらの方が優先的に酸化されてしまう。

全合成への適用例

hikizimycinの合成[9]


(+)-Grayanotoxin IIIの全合成[10]


ザラゴジン酸Cの全合成[11]:内部アルキンはα-ジケトンに酸化される。

実験手順

5-デセンの酸化的開裂[12]


フラスコにマグネチックスターラー、四塩化炭素(2mL)-アセトニトリル(2mL)-水(3mL)を入れ、(E)-5-デセン(189μL、1 mmol)および過ヨウ素酸ナトリウム(877mg、4.1 eq)を加える。この二相性溶液に三塩化ルテニウム水和物(5mg、2.2mol%)を加え、 室温で2時間激しく撹拌する。その後、ジクロロメタン(10mL)を加え、有機相を分離する。 これをエーテル(20mL)で希釈し、セライト濾過した後に濃縮する。粗生成物をbulb-tobulb蒸留により精製し、ペンタン酸(180mg、88%)を得た。 反応は20 mmolスケールにまで問題なく増量可能である。

実験のコツ・テクニック

※ルテニウム残渣はショートパッドシリカゲルカラムで簡便に除ける。
※温度制御(室温~40℃)が重要。

参考文献

  1. Yang, D.; Zhang, C. J. Org. Chem. 2001, 66, 4814. DOI: 10.1021/jo010122p
  2. (a) Shing, T. K. M.; Tai, V. W.-F.; Tam, E. K. W. Angew. Chem. Int. Ed. 1994, 33, 2312. (b) Shing, T. K. M.; Tam, E. K. W.; Tai, V. W. -F.; Chung, I. H. F.; Jiang, Q. Chem. Eur. J. 1996, 2, 50. (c) Shing, T. K. M.; Tam, E. K. W. Tetrahedron Lett. 1999, 40, 2179. doi:10.1016/S0040-4039(99)00128-8
  3. (a) Plietker, B.; Niggemann, M. Org. Lett. 2003, 5, 3353. DOI: 10.1021/ol035335a (b) Plietker, B.; Niggemann, M.; Pollrich, A. Org. Biomol. Chem. 2004, 2, 1116. DOI: 10.1039/b316546a (c) Plietker. B.; Niggemann, M. J. Org. Chem. 2005, 70, 2402. DOI: 10.1021/jo048020x
  4. Bifulco, G.; Caserta, T.; Gomez-Paloma, G.; Piccialli, V. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 9265. doi:10.1016/S0040-4039(02)02304-3
  5. (a) Lee, D.G.; van den Hengh, M. Can. J. Chem. 1972, 50, 3129. doi: 10.1139/v72-501 (b) Smith, A. B.; Scarborough, R. M., Jr. Synth. Commun. 1980, 10, 205. doi: 10.1080/00397918008064223
  6. Schuda, P. F.; Cichowicz, M. B.; Heimann, M. R. Tetrahedron Lett. 1983, 24, 3829. doi:10.1016/S0040-4039(00)94286-2
  7. McNeill, E.; Du Bois, J. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 10202. DOI: 10.1021/ja1046999
  8. Teresa Nunez, M.; Martin, V. S. J. Org. Chem. 1990, 55, 1928. DOI: 10.1021/jo00293a044
  9. Furstner, A.; Wuchrer, M. Chem. Eur. J. 2006, 12, 76.
  10. Kan, T.; Hosokawa, S.; Nara, S.; Oikawa, M.; Ito, S.; Matsuda, F.; Shirahama, H. J. Org. Chem. 1994, 59, 5532. doi:10.1021/jo00098a009
  11. Kawamata, T.; Nagatomo, M.; Inoue, M. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 1814. DOI: 10.1021/jacs.6b13263
  12. Charlsen, P. H. J.; Katsuki, T.; Martin, V. S.; Sharpless, K. B. J. Org. Chem. 1981, 46, 3936. DOI: 10.1021/jo00332a045

関連書籍

関連反応

外部リンク

関連記事

  1. ウルツ反応 Wurtz Reaction
  2. メーヤワイン・ポンドルフ・ヴァーレイ還元 Meerwein-Po…
  3. 辻・ウィルキンソン 脱カルボニル化反応 Tsuji-Wilkin…
  4. レイングルーバー・バッチョ インドール合成 Leimgruber…
  5. 山口マクロラクトン化 Yamaguchi Macrolacton…
  6. DABSOを用いるSO2導入反応 SO2 incorporati…
  7. ソープ・チーグラー反応 Thorpe-Ziegler React…
  8. 向山アルドール反応 Mukaiyama Aldol Reacti…

コメント、感想はこちらへ

注目情報

ピックアップ記事

  1. 第19回 有機エレクトロニクスを指向した合成 – Glen Miller
  2. イオン液体ーChemical Times特集より
  3. ラジカルと有機金属の反応を駆使した第3級アルキル鈴木―宮浦型カップリング
  4. カメレオン変色のひみつ 最新の研究より
  5. 第39回「発光ナノ粒子を用いる生物イメージング」Frank van Veggel教授
  6. タミフルの新規合成法
  7. 3Mとはどんな会社?
  8. カーボンナノチューブを有機色素で染めて使う新しい光触媒技術
  9. 高専の化学科ってどんなところ? -その 1-
  10. p-メトキシベンジル保護基 p-Methoxybenzyl (PMB) Protective Group

関連商品

ケムステYoutube

ケムステSlack

月別アーカイブ

2009年6月
« 5月   7月 »
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930  

注目情報

注目情報

最新記事

MEDCHEM NEWSと提携しました

「くすり」に関係する研究者や技術者が約1万7専任が所属する日本薬学会。そ…

抗体を液滴に濃縮し細胞内へ高速輸送:液-液相分離を活用した抗体の新規細胞内輸送法の開発

第341回のスポットライトリサーチは、京都大学 薬学研究科(二木研究室)博士後期課程1年の岩田恭宗さ…

革新的なオンライン会場!「第53回若手ペプチド夏の勉強会」参加体験記

夏休みも去って新学期も始まり、研究者としては科研費申請に忙しい時期ですね。学会シーズン到来の足音も聞…

実験手袋をいろいろ試してみたーつかいすてから高級手袋までー

前回は番外編でしたが、試してみたシリーズ本編に戻ります。引き続き実験関係の消耗品…

第164回―「光・熱エネルギーを変換するスマート材料の開発」Panče Naumov教授

第164回の海外化学者インタビューは、パンチェ・ナウモフ教授です。大阪大学大学院工学研究科 生命先端…

SNS予想で盛り上がれ!2021年ノーベル化学賞は誰の手に?

今年もノーベル賞シーズンの到来です!化学賞は日本時間 10月6日(水) 18時45分に発表です。昨年…

カーボンナノチューブ薄膜のSEM画像を生成し、物性を予測するAIが開発される

先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、日本ゼオンは産業技術総合研究所(AIST)と共同で、NE…

ケムステ版・ノーベル化学賞候補者リスト【2021年版】

各媒体からかき集めた情報を元に、「未来にノーベル化学賞の受賞確率がある、存命化学者」をリストアップし…

ライトケミカル工業2023卒採用情報

当社の技術グループは、20代~30代の若手社員が重要な主要案件を担当しています。広範囲で高レベルな化…

アブラナ科植物の自家不和合性をタンパク質複合体の観点から解明:天然でも希少なSP11タンパク質の立体構造予測を踏まえて

第340回のスポットライトリサーチは、東京大学 大学院農学生命科学研究科の森脇 由隆…

Chem-Station Twitter

実験器具・用品を試してみたシリーズ

スポットライトリサーチムービー

PAGE TOP