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日本人化学者インタビュー

第10回 太陽光エネルギーの効率的変換に挑むー若宮淳志准教授

皆様明けましておめでとうございます。本年もどうぞこの化学者のインタビューをはじめケムステをよろしくお願い致します。さて、2011年仕事始め、最初のインタビューは京都大学化学研究所構造化学領域准教授の若宮淳志先生です。若宮先生とは私(代表)の大学元同僚であり、非常に仲良くしていただきました。面白く、大変化学に熱い先生で私が目標にしている先輩であり、化学者の一人です。前回に引き続き若手化学者からのインタビューですが、前回の山下先生も同世代で、この世代には未来の日本の化学を背負うキープレーヤーが多いように思います。それではどうぞ!

Q. あなたが化学者になった理由は?

小さい頃から,人生はどうせ一回だから,何か手に職をもって,自分の代わりがいないような仕事ができればいいなと漠然と思っていたように思います.
高校一年生の夏にNewtonという雑誌で,色と光の波長についての解説をたまたま読んで,衝撃を受けたのを覚えています.目に見えるものすべての色の違いは,物質の光の吸収波長の違いによるものだと説明ができる.次の日から,自分の周りの風景,景色など,目に飛び込んでくるものすべてが違って見えました.科学で身の周りの現象が説明できることにとても感動し,その日から科学者になろうと決心しました.最初は,理論物理をやろうと思い,相対性理論や量子力学の本を読みあさりましたが,しばらくして,理論物理の究極は宇宙の果てがどうなっているのか?というような気がしてきて,実生活からどんどんと遠ざかるように感じてしまいました.次に思ったのが,脳の機能を解明する分子生物学でした.分子の振る舞いで喜怒哀楽を含む脳の働きを説明するということに興味をもちました.当時,ノーベル医学生理学賞を受賞した利根川進先生がNHKの番組でインタビューされていたのを見て,利根川先生が化学科卒業ということで,分子を扱うという化学科に進学することを決めました.

利根川進

利根川進

全く悔いがない程楽しんだ大学生活の中で,有機化学を専攻するきっかけとなったのが,学生実験でお世話になった大江浩一先生,近藤輝幸先生(当時,京大院工 助教授,現教授)でした.学生実験ではまじめに実験していたというより,先生方との雑談を楽しんでいたのを覚えています.当時30代だったでしょうか,「chemistryはcenter of scienceやで」と,若手でバリバリと仕事をしている二人の先生がとてもかっこ良く思えました.憧れを抱かせる「人」の存在は,その分野に新しい世代を参入させるためにとっても重要だと思いますね.その後,研究室配属の時には,先輩から宇治の化学研究所には「世界の玉尾,小松がおる」と聞いて,小松紘一先生の研究室に入門しました.小松研では,6年間,とても自由な雰囲気の中,小松先生と西長 亨先生(現,首都大学東京,准教授)に指導して頂き,化学研究の楽しさを実感しました.実際に,僕に化学者としての道を与えてくれたのは,ちょうど博士後期課程を卒業の頃,玉尾研から名古屋大学の野依先生の後継者として異動した山口茂弘先生で,助手として採用して頂いて,7年間にわたって「研究の進め方,考え方」を徹底的に教えて頂きました.
小松紘一

小松紘一

Q. もし化学者でなかったら、何になりたいですか?またその理由は?

7月31日付の朝日新聞に,40歳以上の人を対象にしたアンケート,「生まれ変わって,20歳から人生をやり直せるなら,何になりたいですか?」のランキングが発表され,その第1位が大学教授・研究者だったそうです.ちなみに,2位は医師,3位弁護士,4位にパイロットだそうです.研究者は羨ましい職業と思われているようですが,実際のところ,研究は,まじめに取り組めば取り組む程,本当に面白く,生まれ変わっても絶対に化学者をやりたいと思いますね.あえて,自分の才能のないものねだりで一つあげるとすれば,歌手,シンガーソングライターでしょうか.何万人の聴衆の中でスポットライトを浴びて,歌で人を感動させる.気持ちいいでしょうね.歌は,それぞれの人のその時代のいろんな想い出をのせて世の中に普及します.毎年のようにミリオンヒットをとばす歌手は,いわばNatureとかScienceにバシバシ論文を出し続ける科学者のようなものかと.レフェリーは世の中の人々で,まさにpeer reviewです(笑).

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Q. 現在、どんな研究をしていますか?また、どのように展開していきたいですか?

「エネルギー問題や炭素資源問題は,人類が現在の文明を維持していくために解決すべき重要課題である.我々化学者は,今からこの将来的な問題に向けて真剣に取り組み始めるべきではないだろうか.」こんな熱い想いを胸に,半永久的なエネルギー源といわれる太陽光エネルギーの効率的変換を目指した研究に取り組み始めています.
まず,ターゲットとしているのが,π電子系化合物を色素に用いた有機太陽電池の開発です.地上に届く太陽光エネルギーは,可視光領域だけでなく,その約50%を近赤外,赤外領域といった長波長領域にもちます.太陽光エネルギーを効率的に変換するためには,長波長領域にまで自在に光を捕集できるπ電子系材料の開発が重要となります.また,太陽電池として光エネルギーを電気エネルギーへと効率的に変換するためには,光励起後の電荷分離,それぞれの電極への電荷注入効率,さらには電荷の再結合の抑制といった太陽電池の各動作過程での徹底的な効率化を考慮に入れた分子系を構築する必要があります.これらに対して,π軌道の広がりとエネルギー準位の精密制御にこだわったπ電子系材料の分子設計というアプローチにより,有機太陽電池のための究極の色素材料の開発に取り組んでいます.有機合成というモノ創りの視点から,太陽電池開発の分野にブレークスルーをもたらそうという想いで日夜奮闘しています.
この研究は,もう一つの太陽光エネルギーの効率的変換という観点から,将来的には,太陽光エネルギーをエネルギー源に用いた反応開発へと展開し,二酸化炭素の炭素資源化にも挑戦していきたいと考えています.屋根の上に自分の光触媒を塗って,雨どいからメタノールがぼたぼたと落ちてくる家ができたらすごいと思いませんか(笑).
また,自分の分子設計通りに機能をもつ分子を創りだすという目的型研究を進める一方で,すぐに何の役に立つかは分からないけれど「学問的に面白い」を追求する基礎的研究もとても重要だと考えています.有機合成化学のもう一つの醍醐味は,予想もしていなかった面白い構造や電子構造をもつ化合物を,時には偶然に手にするチャンスがあると言う点かもしれませんね.そのために,毎日,新奇な構造を想い描き,未知の電子構造をもつ斬新なπ電子系化合物の合成にも取り組んでいます.

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Q.あなたがもし歴史上の人物と夕食を共にすることができたら誰と?またその理由は?

アインシュタインとハイゼンベルグ,それと平田義正先生です.アインシュタインとハイゼンベルグには,それぞれ相対性理論,不確定性原理を導くに至った思考経路についてじっくり聞いてみたいものです.平田先生は,中西香爾先生,岸 義人先生,上村大輔先生,下村 脩先生,(野依良治先生)など,門下生からたくさんの優れた化学者を輩出しています.生前にはお会いする事ができず,伝説だけしか知りませんので,平田先生の人柄にふれ,研究者としてだけでなく教育者として成功の秘訣について教わりたいものです.

 

Q. あなたが最後に研究室で実験を行ったのはいつですか?また、その内容は?

まだ,研究グループを立ち上げたばかりという事もあり,実験についてはほぼ毎日4回生と一緒に実験台に向かっています.その他、X線結晶構造解析や真空ラインを用いたガラスの封管実験などは,今でも免許皆伝するまでは学生さんには譲れません(笑).

 

Q.もしあなたが砂漠の島に取り残されたら、どんな本や音楽が必要ですか?1つだけ答えてください。

砂漠の島に取り残された無人島0円生活の状況でしょうか.釣りが趣味なもので,生きていくためにも,まずはどのルアーを持っていこうか考えてしまいますね(笑).音楽は,大学受験勉強の時によく聞いた尾崎 豊でしょうか.いまでも若い頃の勢いでなんとかなるような気にしてくれます.最近の本でいえば,「メタノールエコノミー」(プラカーシュ,オーラー,ゲッベールト著)です.生死のかかっている無人島ではあまり役立ちそうにないですが...

Q. 次にインタビューをして欲しい人を紹介してください。

Lawrence T. Scott先生(Boston College)、大須賀篤弘先生(京都大学),魚住泰広先生(分子研)、笹森貴裕先生(京都大学),依光英樹先生(京都大学)にインタビューして頂きたいですね.

 

若宮 淳志 准教授の略歴

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1998年京都大学京都大学工学部工業化学科卒業、2003年同大学院博士課程修了(小松紘一教授)。その後名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻化学系 助手、助教を経て(山口茂弘教授)、2010年より京都大学化学研究所准教授となり現在に至る。2008年Young Boron Chemist Award、2009年日本化学会進歩賞など。

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Chem-Station代表。早稲田大学理工学術院准教授。専門は有機化学。主に有機合成化学。分子レベルでモノを自由自在につくる、最小の構造物設計の匠となるため分子設計化学を確立したいと考えている。趣味は旅行(日本は全県制覇、海外はまだ20カ国ほど)、ドライブ、そしてすべての化学情報をインターネットで発信できるポータルサイトを作ること。

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